第35話 初依頼は魔獣釣り!?(9)
「ルル?」
俺が名を呼ぶと、鑑定表示が変化する。
『――高濃度の魔力反応を感知』
『――対象は海底方向』
『――警告:通常の魔獣反応ではありません』
俺は、ゆっくりと海を見つめた。
入り江の奥……
岩礁が途切れ、水深が急に深くなる場所……。
その海底から、青白い光が漏れていた。
まるで、何かが呼吸しているように。
◇◇◇
「……キュモポレイア」
「うむ」
「これ、普通の魔獣調査じゃないよな?」
「……そうじゃな」
女神の声が、急に低くなった。
俺は思わず彼女の顔を見た。
先ほどまでの能天気な表情が消えている。
その瞳は、海底の光を鋭く見つめていた。
「何か知ってるのか?」
「確かなことは言えぬ。じゃが……」
キュモポレイアは、そっと海面に手をかざした。
波が静かに揺れる。
その瞬間、彼女の指先に、小さな青い光が集まった。
そして、海底から返事をするように、同じ光が瞬いた。
「……この魔力は、古いものじゃ」
「古い?」
「うむ。今の人間たちが使う魔法とは違う。もっと深く、もっと原始的な……海そのものに近い魔力じゃ」
俺は唾をのんだ。
海そのものに近い魔力……。
そんなものが、なぜこの入り江にあるのだろう。
「昨日の沈没船と関係あるのか?」
キュモポレイアは、すぐには答えなかった。
やがて、小さく首を振る。
「まだわからぬ。じゃが、調べる必要はある」
「……危険なんだよな?」
「おそらくな」
「じゃあ、ギルドに報告して、上のランクの冒険者に任せるべきじゃないか?」
俺がそう言うと、女神は少しだけ目を見開いた。
「ほう。意外じゃな。そなたなら、すぐに飛び込んでいくかと思ったぞ」
「俺は無謀な釣り人じゃないんだよ」
俺は苦笑した。
「危険な場所には、準備してから行く。釣りだって同じだ。魚がいるからって、何も考えずに海へ飛び込むわけじゃない」
「……なるほどのう」
キュモポレイアは、少しだけ嬉しそうに笑った。




