第26話 女神様はSランク、俺はEランク!?(17)
遠くの海面──
そこに、黒い影が浮かんでいた。
最初は岩かと思った。
しかし、影は少しずつ形を変えていく、巨大な船……。
いや、船の残骸だ。
帆は破れ、船体は黒ずみ、マストは折れている。
なのに、不思議なことに、その船は沈むことなく海面に浮かんでいた。
「……沈没船?」
キュモポレイアの表情が変わった。
先ほどまでの無邪気な笑顔が消え、海のような瞳が鋭く細められる。
「新作。あの船には、近づくでないぞ」
「え?」
「……あれは、ただの沈没船ではない」
彼女の声は、先ほどまでとは違っていた。
冗談も、笑いもない。
ただ、警戒だけがあった。
「どういうことだ?」
キュモポレイアは答えなかった。
代わりに、沖合の沈没船をじっと見つめている。
そのとき、船の甲板に、青白い光が灯った。
そして、誰も乗っていないはずの船から、低い鐘の音が響いた。
《ゴォオオオン……》
海面が揺れる。
ルルが、俺の肩にしがみついた。
俺は、無意識にリール竿を握りしめていた。
釣り人としての好奇心が、胸の奥で騒ぎ始める。
あの船には、何があるのだろう。
何が眠っているのだろう。
そして、なぜキュモポレイアは、あんな顔をしているのだろう。
「……新作」
女神が、静かに口を開いた。
「この海には、決して触れてはならぬものがある」
「…………」
「そして、あの船は――」
再び、鐘の音が鳴った。
《ゴォォォン……》
その音に合わせるように、海面の下で、巨大な影が動いた。
俺は思わず息をのんだ。
異世界に来て、まだ半日……。
俺の冒険は、どうやら想像していたよりも、ずっと危険なものになりそうだった。
……でも、釣り人として、こんなものを見せられて、黙って帰れるわけがない。
俺は竿を握り直した。
「キュモポレイア」
「……なんじゃ」
「明日、あの船を調べに行こう」
「なっ!?」
女神が目を見開いた。
「そなた、わらわの話を聞いておったのか!?」
「聞いてたよ」
「ならば、なぜそうなるのじゃ!」
「だって、あの船には何かいるんだろ?」
「そういう問題ではない!」
俺は笑った。
「大丈夫。危なくなったら、助けてくれるんだろ?」
「そ、それは……」
キュモポレイアは、言葉に詰まった。
そして、少しだけ頬を赤くすると、そっぽを向いた。
「……仕方ないのう。そなたは、わらわが守ってやる」
「頼りにしてるよ、相棒」
「……っ!」
彼女の耳まで赤くなった。
その反応を見て、俺は少しだけ笑みを深めた。
こうして。
冒険者ランクEの釣り人と、Sランクの女神……。
そして、小さな潮流竜ルル……。
俺たちの最初の冒険は、誰も近づこうとしない沈没船を目指すことになった。
その船が、惑星ポワンの海に隠された大きな謎へとつながっているとも知らずに。
◇◇◇




