第120話 海中航行、開始!(5)
そこから水流を噴射することで、敵を押し流している。
つまり、噴射の方向を読めば、攻撃を避けられる。
「キュモポレイア! 船体を左へ押してくれ!」
「わかったのじゃ!」
女神が両手を広げた。
船体の周囲に青い魔法陣が浮かぶ。
海流が変化し、潜水艇が左へ滑った。
直後、巨大な水流が右側を通り過ぎた。
「よし!」
俺は操縦桿を握り、推進機を全開にした。
船体が加速する。
巨大亀の甲羅の横を、ぎりぎりで通り抜けた。
そして、そのまま岩場の陰へ滑り込む。
「……助かった」
俺は、大きく息を吐いた。
キュモポレイアも、胸を押さえている。
「新作……そなた、なかなかやるではないか」
「お前のサポートがあったからだよ」
「ふふん! もっと褒めてもよいぞ!」
「はいはい、さすが女神さま」
「むふふ……」
女神は満足そうに笑った。
しかし、俺はすぐに表情を引き締めた。
巨大亀が、まだこちらを見ている。
しかも、その動きには不思議な点があった。
攻撃してきたわりには、追いかけてこない。
まるで、何かを守っているようだった。
「……あいつ、縄張りに入ったから攻撃しただけなのか?」
「そうじゃ。あの魔獣は、無意味に獲物を追い回すような性質ではない」
俺は、巨大亀の背後を見た。
そこには、海底へ続く巨大な裂け目があった。
裂け目の奥から、青白い光が漏れている。
そして、魔力の流れは、そこへ向かっていた。
「……あの先に、何かある」
キュモポレイアの表情が変わった。
「新作。あそこは……」
女神が言いかけた、そのとき。
裂け目の奥から、鈍い鐘の音が響いた。
《ゴォォォン……》
海の中なのに、はっきりと聞こえる音だった。
巨大亀が、ゆっくりと頭を下げる。
まるで、その音を恐れているかのように。
「……何だ、今の音?」
俺は、竿を握り直した。
魔力ラインの先から、冷たい感覚が伝わってくる。
深海の底……。
そのさらに奥……。
何かが、俺たちを待っている。
◇◇◇




