七十四:平原の屍闘
準備運動と装備とよっすぃ~への補助魔法の確認、そして魔力通信を自分とよっすぃ~以外オフにして、近くまであのデカイ闇の魔物が来るのを待つ。
そして、目の前に現れたのは。
「うっ・・・わあぁ・・・キモ。」
「・・・(コクリ)」
何とも形容し難いが、腐った肉と骨を沢山集めて、様々な怨念でそれらのパーツを固めて作った、ティラノサウルスとキングコブラを足して二で割った形状の巨大な魔物が、此方へと睨みを効かせていた。
眼のある場所には、真っ赤に染まる宝石の様なモノが嵌め込まれ、その異様さに拍車をかけている。
・・・・さっ、触りたくねえぇ~!!!
なんか、ネチョネチョで、臭いんだもの。
その思いはよっすぃ~も同じだったらしく、困ったようにアタシを見つめてきた。
「うわぁ・・・なんつーか、塩撒いたら消えないかなぁ?これ。」
「・・・ナメクジ?」
「うん。それなら触らずにーーーー来る!」
アタシとよっすぃ~は左右に飛び退き、一気にデカブツから距離を取る。
しかし、更に追撃が来て、アタシは慌てて空中避難した。
よっすぃ~は、流石というか、触れないように素早く躱して、距離を取っていた。
空から改めてデカブツを見ると、その異様さに、更に嫌悪感が高まる。
正面側には昔のご遺体が使われていて、後側の方々は明らかに身元がわかりそうな新鮮な状態だったりするし、何だろう、素材が幾重にも重ねられている心臓がありそうな付近には、真っ黒な結界みたいなのがあって、スッゲー嫌な雰囲気がヒシヒシと感じられた。
まあ、あそこを壊さなきゃ、このデカブツは死なないんだろうけれど。
『・・・どうするの?』
ふと、よっすぃ~からの通信で我に返る。
本当に、どうしてくれようかな、コレ?
何よりも、本当に汚くて穢れていて臭いんだよなぁ。
少し考えたあと、アタシは画期的?な方法で、このデカブツを崩すべく、よっすぃ~と作戦会議をするのだった。
よっすぃ~が、物凄い素早さでデカブツを翻弄する。
デカブツの方も、口や微妙に生えた腕、蛇の様な尾でよっすぃ~を追うが、流石に素早すぎて捕えきれない様子だった。
そんな様子をよっすぃ~に実況しつつ、アタシはデカブツの届かない上空で、着々と準備を重ねていく。
しばらくそれで時間を稼いでいたのだけれどーーー
「よっすぃ~、コイツいっぱい触手出してる!!」
「わかった、ありがと。」
グロテスクな背面から、大量の触手(といっても遺体でできた腕みたいなもの)を展開し、更にハードな追いかけっこが始まった。
ちなみに、よっすぃ~もただ逃げるだけで、一切攻撃はしていない。
何故なら、このデカブツが滅茶苦茶臭くてグロいだけじゃなく、どうやら表面に流れる体液みたいなのが、 触れたもの全てを溶かす性質を持っているらしかったからだ。
ぶつかった樹木が溶かされ、枯れ、根本からなぎ倒されていく。
これ以上の環境破壊はまずいと思い、アタシは更にハイスピードで、過去の魂の記憶を掘り返し、次々と魔術陣の展開準備を行った。
まあ、正直これだけの数の遺体と怨念と囚われた魂が融合してるから、デカイの一発じゃ絶対無理なんだよね。
それに、きちんと全員供養してあげたいってのもあるし。
本当なら、メシアの力を借りれば、広範囲で大量な浄化は出来たけど・・・メシアは優しいからなぁ。
こういうアンデット系での戦闘にも、心を痛めて悲しい顔させちゃうから。
何より、デカブツの尾の方に、この数日前に小さな町のギルドでたまたま再会して世間話をした、深淵の宿に宿泊したことのある新米冒険者グループが素材で使われてたのを見て、今回メシアを連れて来なくて本当に良かったと思った。
ーーーさて、こんなもんかね?
アタシは起動準備を終えた陣形と共に、デカブツの上空迄行き、よっすぃ~に合図を送って退避させたあと、即座に魔方陣展開を行う。
よっすぃ~を追いかけかけたデカブツは、突如上空で炸裂した魔力に反応して、触手を上空へと伸ばしてきた。
だが、距離が足りなかったせいか、無数にあった触手を一つに融合させ、少しずつアタシの元へその腕を伸ばしてきている。
それも、自分の体を形成する全ての遺体を使って、少しずつ、少しずつ距離を縮めてきた。
そして、あと少しでーーーあと、10mで届く、という時。
デカブツの心臓付近の真っ黒な結界が露になった、その時を狙って。
アタシは展開させていた全ての術を炸裂させた。
3種類の大規模浄化魔術と再生魔術で素材達を鎮めて地に落とし、強固な結界術と時空間魔術を融合させた新手の捕縛結界を黒い心臓部に打ち込み隔離、そして、生活魔術と浄化魔術を融合した、新たなジャンルの魔術ーーーキレイキレイ魔術とでも言えば良いのかわからないものを上空で炸裂させて、キレイになる雪を降らせたのだった。
もちろん、全てがクリーンヒットし、例の新米達も、既に形のない者達も、地に落ちたあと、全てがまるで亡くなった直後のように美しい状態へと戻り、そこで更に、上空から降る雪によって傷跡や血の跡もキレイにされて、まるでそこで眠っているかの様な状態へとなっていた。
そして、心臓部の黒い結界も、時を止められた状態で胎動する事もなく、ただ、その黒い結界内部を観察できる状態で地面にめり込む様に落ちていた。
アタシは、とりあえず目玉に使用されていた赤い核ーーー魔石?みたいなものを浄化してから、黒い心臓と同様の結界に封印して腕輪に回収した。
そして、黒い心臓を回収しようとして、気がつく。
・・・心臓の中に、人影があった。
泣いて、いた。
そして、結界底部には、その人を縛る為の捕縛陣、結界内部には、その人影に接続される形で血管のような触手が繋がり、その触手が排出される箇所に、多重起動の魔方陣が描かれていた。
内容は・・・無理矢理操る、系統。しかも、胸糞悪い方向での仕様となっていた。
そして、黒い結界の外側には、更にとっても下手くそで幼稚で胸糞悪さMAXの魔方陣が羅列されている。
・・・・・つまり、コレは、誰かが作った、作品。
死を冒涜した、輪廻を阻害する、醜悪な作品だ。
突然アタシが動きを止めたからか、そばに近寄ってきたよっすぃ~も、結界内部を覗き込んで、ハッとした顔になる。
そして、拳を痛いほど握りしめていた。
それは、そうだろう。
中に使われていたのは、貴族の服を着た、中学生くらいの子供だったのだから。
アタシ達はとりあえずその黒い結界を腕輪に納めてから、よっすぃ~を抱えて上空へと飛ぶ。
そして、都市の方を見つめれば、あの黒い影達が波が引くように平原へと戻って行く姿を確認できた。
アタシは都市に残した分身体を使って、戦闘中にここに来ようとして暴れていた嫁達の拘束を解かないままに外の現状をクロムに伝える、。
その上で、ギルド経由の緊急事態としてアタシとよっすぃ~が都市の外に出ていた事にしてもらってから、大勢の素材となっていた遺体の回収をお願いしたのだった。
都市からの援軍を待っている最中。
浄化の雪が降り注ぐ中、アタシとよっすぃ~は、久しぶりに2人で色々な事を話していた。
お互いの番の事、あの館の皆の事、これからの事、そして。
アタシはこの時、やっと、よっすぃ~が本当のよっすぃ~である事も、教えてもらい。
やっぱり、そうだったんだね、と、アタシ達はお互いの顔を見て微笑む。
「君達がいないと、つまらないから、来てみた。」
というよっすぃ~の言葉に、物凄く感謝して、本当に大切な親友だ、と肩を並べて笑い合った。
その後。
あの、黒い心臓の中の子供をどうするか、の話になる。
例え無事にこの世界に返せたとしても、あのこがひとりぼっちだったら。
生きる気力があるならば良いが、中の魔方陣を見るに、結構な年代物である事は明白で。
あの子を知る者は既におらず、たった一人きりでこの世界に生きるのは、貴族の子供には厳しいだろう。
むしろこの世界が嫌になって自分からあの状態になったのだとしたら、あの子供はまた自分で命を絶つかもしれない。
それ以前に、あの呪いとも言える結界のせいで、既に廃人になってしまっていたら・・・・。
そう思うとあの子を今、ここでどうするかが、2人ではどうしても決めかねてしまうのだった。
そのうち、分身体のアタシと嫁達が先導で、あの都の冒険者や兵士達が続々と、無数に倒れる遺体の回収にやってきた。
いや、数が多すぎる為か、身元の分かる遺体だけ回収して、あとはこの地に埋葬する、という事だった。
なお、状況が状況だけに、しっかりと嫁達には状況を説明して、一緒に連れて来なくてごめんと謝ったところ、皆納得(いや、誰だってバッチイの嫌だもんなぁ)してくれて、アタシとよっすぃ~は事なきを得たのだった。
なお、ここ最近で見知った者の埋葬は、アタシとよっすぃ~で先に済ませておいたので、メシア達が悲しむ事はなかった。
まあ、ギルドにもう一人置いてある、アタシの分身体経由で、遺品や身分証・ギルドカードはギルドに届けたから、問題はないだろう。
しばらくそのまま埋葬などのお手伝いをしていると、王直属の部隊の末端の統括兵士が、さらに増援部隊を率いてやってきた。
広範囲に渡る浄化の雪は、あと3日位はずっと展開される筈だから、アンデットが近寄って来ることもなく安全に作業ができるという事など、アタシ達は統括兵士に事の説明をする。
そして。
アタシ達はそのまま流れるように、しっかりとした馬車に全員乗せられ、都にある迎賓館のような場所に拉致され・・・案内されて、そこに今夜は泊まる様に言われてしまった。
どうやら、明日、この都の王様?族長??に会って、自分で色々説明してほしいと言われてしまった。
人手が足りないのか、他に意図があるのかは不明だけど、まあいいや。
城の中の転移陣直さなきゃだから、逆に好都合だわ。
あと。
あの、黒い結界の中の子供に心当たりがあれば、嬉しいんだけどね。
アタシは月呼に事の次第を伝えて、お泊まりの許可をもらったあと、借りた大部屋のベッドの上で短時間の爆睡をするのだった。
浄化雪の最中の会話、抜粋
「よっすぃ~、白呼くんの事、好きなの?」
「・・・・・・・・・・・・(コクリ)」
しばらくの沈黙の後、顔を反らして頷くよっすぃ~。
しかし、耳まで赤く染まって、少し乙女モードになっていらっしゃる。
こんな姿、白呼くんに見せたら、暴走しちゃうかもなぁ。
「じゃあ、2人が結婚したら、よっすぃ~とも正式に一家になれるね~。
まあ、だからといって、今と何も変わらないかな?」
「!!・・・・・・(ニコっ)」
お。結婚の言葉に、更に真っ赤になって驚いていらっしゃる。
これは、白呼くんには責任持って、嫁に貰っていただかないとだな!
「アタシは、よっすぃ~と白呼くんが幸せな家庭を末長く築いてくれるのを、願ってるよ。」
「・・・私も、君に、そう思ってる。
・・・プロポーズ、よく、がんばった、ね?」
ニコニコとしながら、微笑むよっすぃ~。
うう、内心を見透かされていらっしゃるわ~、照れるぞ~?
アタシ達は、しばらくニコニコ微笑み合って、降り注ぐ光の雪を見つめるのだった。




