六十六:祝宴と残務
夕餉の席に着いたアタシは、目の前に広がる料理の種類の多さにーーー引いた。
和洋中の表現も真っ青になって逃げ出す程に、一汁三菜以上のおかずの種類の多いこと。
しかし、満足げに着席する嫁の手前、表面にはおくびにも出さないで、皆でいただきますをした。
瞬間で戦場と化す食卓に、みんなの食欲がすごいなーと思いつつ、端から一つずつ取り分けて貰って、箸をつける。
「ん、・・・ん!?これ、すっげー美味い!!
え、これも、これも、こっちも美味い!!」
大量のおかずはもちろん、何故か4種類ある汁物も一杯ずつ平らげて、アタシはとても感動してしまった。
メシアの料理の腕が上がっていたのは勿論、本格的にセエレの料理も、黒呼の料理も、クロムの料理も食べた事がなかっただけに、あまりにも予想以上に美味しかったからだ。
メシアはよくある家庭的な洋食を作り、セエレはロシア料理、かな?少し特徴的な洋食、黒呼はモロ和食で、クロムは中東?トルコ?そこら辺で作られるような感じの豪華な料理を作ってくれたのだ。
で、味が、本当にめっっちゃ美味いっ!!!
その上、何だか凄く急速に魔力が回復していくんだよね、この料理!
その思いを勢いのまま4人に話すと、これまた予想外にもの凄く喜んでくれたみたいで、とても嬉しそうに、嫁同士の料理を食べながら作り方とか情報交換していた。
そんな姿を見て、これは、結婚したら滅茶苦茶太りそうだと遠い目になる。
まあ、美味しいから仕方ないんだけどね!?
でも、とりあえず幸せ太り待ったなしになる前に、対策も考えておかなくては。
いや、それ以前にーーーー
アタシは、ひとつ決心し、行動に移す事を決める。
まあ、今夜あたりにしっかりとやろうかな。
その後、デザートを食べながら改めてアウィンの事をみんなに紹介したり、引っ越した國の事を皆と相談した結果。
アウィンからも提案があったからなのだが、あの國は名前を『深淵の隠れ里』と名前を変えて街は一部を借家にしてもOKとなった。
それでアウィンも不動産収入が獲られるし、それで獲た金で好きなものを町で買ったり、新しく何かを造ってそれを深淵の館に卸して貰って更に収入にしたりとか、将来的に生活を安定させられるだろう。
アウィン自身はとりあえず城で生活しつつ御飯はここで、あとは自身の仕事(借家・里の管理)と共に宿の業務も手伝ってくれる事となった。
そして。
「ふふ、やっと飲み終わった・・・ね。」
特製セエレのミルクを沢山飲んだ黄金龍の子をあやしながら、クロムがアタシを見つめる。
ん?何だか凄く、真面目な表情だな。
でも、何も言わずに目線を反らし、龍の子をまたあやし始めた。
んーーーこの子の事で、悩みでもあるのかな?
後で聞いてみるか。
そう思いつつ、ふとアウィンを見ると。
その視線が、クロムへと向いていた。しかも、何かを探るような目線で。
それに気付いているのか、クロムが再びこちらへ、困ったような目線を送ってきて、やっと理解した。
まあ、確かにアウィンとクロムって、同じ龍族だから雰囲気は似てはいるけど・・・でも、クロムって龍人、つまり龍と人のハーフなはずなんだけどなあ?
何だろう?何だか違和感があるぞ??
アタシは少しだけモヤモヤした心のまま、二人の成り行きを見守る事にした。
「・・・何か、言いたいことでもあるのかな?アウィンさん。」
余りの遠慮のない視線に耐えかねたのか、クロムがアウィンへ問う。
「ふむ・・・義母上は、龍化はできるのか?」
「え?で、出来る、けど・・・しばらく龍化してないから、何とも言えない、かな?」
「左様か。では、龍言語魔術は使えるのかの?」
「まあ、それなりには・・・。」
「ふむ・・・。」
それきり、アウィンは黙ってしまった。
一体、何なんだ?
物凄く気にはなるが、無理やり聞き出すのも趣味じゃないので、一先ず放置する事にした。
まあ、時期がきたらわかる事だろう。
そして、食後のお茶を飲んだ後、皆でリビングにてまったりしながら、早急に片付けなくちゃならない事を行う事にした。
「あー、聞こえますか、ヴァルスの王よ?」
『おお、支配人殿!?何じゃ、珍しい時間に通信するのう?皆、健勝かの?』
「お久しぶりです、ええ、皆健やかにおりますよ?」
セエレが、クロムの腕輪を借りて、ハンズフリーな感じでクロムも話し始める。
「王、緊急の用件でご連絡しました。
このような遅い時間となってしまいましたが、事後報告です。」
『何じゃ、また、胃の痛くなる話しかのぅ??』
ああ、やっぱり前回、胃をやられてたんだね、申し訳ない。
「ふふ、実はですねーーー」
セエレに説明を任せっきりにして、アタシはキッチンの洗い物を始める。
まあ、クロムとセエレに任せておけば、問題ないはずだし。
あの場にはメシアも黒呼もいたし、何とかなるだろー。
アタシは分身を多めに作って、次から次へと洗いだす。
今日の皿の量は、尋常じゃないんだぜ!!
それから集中的に洗い物無双を行い、全て綺麗に拭いて収納し終わった所で。
『あああああ~・・・そ、そんな事になっておったとは・・・しかも、世界遺産を深淵の森に持ってきた上に、貸し出すとは・・・』
「これは、本来の持ち主からの提案ですよ?ねえ、アウィンさん?」
「左様じゃ。我はフミエの元で静かに過ごしたいのじゃ。
人の目に触れる事も殆どなく、周囲には穏やかな魔物が多いと聞く。
今回の引っ越しも、森の魔物達も理由を話したら皆、とても良くしてくださったそうじゃ。
なれば、我はこの森とフミエの仲間を護る為動くじゃろうし、フミエの友であるならば、例え相手が人間であっても、我が里の空家を貸しても良いと思っておる。」
「ああ、もちろん価格は相談ですよ?」
『左様か・・・そうじゃな。確かに本来は、アウィン殿の土地じゃ。我々人間がとやかく言う事ではないのう。
ならば・・・下界の方はワシが何とかしよう。
その代わり、ワシの隠れ家を一棟見繕って欲しいのじゃが・・・。』
「良かろう、今回我が行った事象により起こる、人間同士のイザコザ対処に協力してくれるのならば、何時でも格安で相談に乗ろうぞ?」
『承知した。では、また近いうちに宿にお邪魔する予定なので、その時に改めてご挨拶させて頂こうかの。』
おお、早速借り手が見付かった!!
そして、勝手に土地ごと引っ越した件も、王が何とかしてくれるっぽい!!
あー、良かった!王には今度、身体に良いシリーズの何かを作って差し入れしよう!!
そんなことを思いつつ、丸椅子に座って明日は何処へ行こうか、と地図を広げて思案していると。
「明日は、もし可能なら、元龍の國から近いこの町に行きたい。
そこにひとつ、仕事があるんだ。」
黒呼が椅子を隣に持ってきて、アタシに寄りかかりながら一緒に地図を覗く。
「ちなみに、仕事のある町って、他に何処と何処?」
「えーと・・・ここと、ここと、この首都と、あと、この戦域。」
小さい町と、中ぐらいな町二つ、あとは大きい町と、隣国に接する平原地帯、か。
どの町も、転移陣修復のリストと被ってるので、アタシは頷いた。
「いいよ、じゃあ明日は先ず、この小さい町から行こう。アタシも修復しなきゃだし、手分けして効率良く行こうか。」
「ああ、助かる。だだ、ここ、普通の町とも違うから、可能なら手分けではなく、一緒に行動して欲しい。」
黒呼が珍しく、とても不安そうな表情で此方を見つめる。
これは・・・訳ありの町、なのかな?
縋る様な目をされてしまい、アタシは心配させないように笑って答えた。
「いいよ、じゃあ、黒呼達ギルドの用事が終わったら、アタシの仕事に付き合って貰うね?
ちゃんと、皆を護るから、心配しないで?」
「ありがとう・・・本当に、助かる。」
物凄く安心した顔になった黒呼を見て、これは、もしかしたら、だけど。
黒呼も、よっすぃ~のお陰で結構強いハズだけれど、それがこんなにも不安になるという事は。
それ以上に強い敵なのか町人なのかわからんが、そーいう奴がうじゃうじゃいる、って事なのかな?と思ってしまう。
それならば、『アレ』を早くやらなくちゃ。
皆を危険から護らなくっちゃ。
アタシは、繋がれた黒呼の手をキュッと握り、明日の仕事の段取りを考えるのだった。
その日の深夜。
アタシは、自分の研究室の奥の隠し部屋に来た。
もちろん、寝室のベッドの中に自分の分身体を置いてあるから、メシアが目覚める事はなく、安心だ。
ただ、誰にも見られないように、しなくちゃだから。
だから敢えて、この部屋で作業する事にしたのだ。
祝宴の料理のおかげで、アタシの魔力は8割方回復しているから、これからやる作業にも問題はないだろう。
アタシは大きめな机と椅子とランプを腕輪から取り出し、机の上に沢山の材料を置いてから、過去の記憶を猛烈に掘り起こしながらも、古代魔術を駆使して材料の融合・創造を行っていく。
様々な術式を組み込み、素材もふんだんに使用しながら、アタシは必死に造り続け、ようやく全て完成したのが、空が白み始める頃だった。
でも、やっと完成して、準備が整った。
あとは。
アタシは凄まじく気合いを入れて、完成したものをギュッと抱き締めるのだった。
因みにアウィンは、後世、不動産王になります。
不動産収入だけで気ままに優雅に生活!
羨ましい・・・・




