六十五:深淵の隠里
その後、正式にアウィンが皆と挨拶を交わし、これからどうするか?という話題になった。
「そういえば、アウィンは奥さん探さなきゃだよね?」
「ああ、そうなのじゃがーーーもう、見つかったのだ。」
そう、アウィンが言って見つめる先には。
「え、あの黄金龍の仔?」
クロムの腹の方向、赤ちゃんスリングですやすや眠る龍の仔に、とても優しい眼差しで微笑むアウィン。
「そうだ。妻は、最期に自分に転生の術をかけ、卵の状態で生きながらえていたらしい。
その仔の魔力の本質は、我が妻スフィレと一緒なのだ。」
「へえ、そう、なんだ・・・」
事情を知って、ショックを受けているクロムに、アタシは微笑む。
「まあ、将来の相手が見つかっているとは言え、この子はアタシとクロムの子なのは代わりないだろう?アウィン??」
「左様じゃ。妻が無事に生まれたのは他でもない、クロム殿とフミエの力があっての事。
・・・と、なると、我も義母君・義父君と呼んだ方が良いのかの?」
結構本気で言ってるアウィンに、アタシは笑って答える。
「いや、アタシはフミエのままでいいよ?クロムには、ママって言ってあげて欲しいけどな?」
「え!?えっと、この子のママで居れるのは嬉しいけど、そんな、ははうえ、なんて・・・」
喜びと困惑が綯交ぜになった顔で、クロムが困り果てている。
そうだよな。
長年たった一人で生きてきて、やっと同族に出会えて。
それで、あれだけ『ママ』って呼ばれたいと思っていたのが叶ったんだから、育ての母はクロムじゃなきゃなんだよな。
ただ、生まれて直ぐの我が子が、もう、他所に嫁ぐと決まってたら、そりゃー複雑なキモチにもなろうよな。
「まあ、将来の事はこの子に選ばせるとしても、当面、アウィンはどうしたい?」
この子が成長するまで、しばらくかかるからなぁ。
でも、この國にひとりぼっちで置いておくのも嫌なんだよなぁ。
「出来れば、スフィレと共に生活したい。」
超真面目な表情で言われたら、正直断れないよなぁ。
「でも、この國・・・この館を放置するのも、どうかとおもうよ?」
「そうさなぁ・・・治安が悪くなるのは避けたいが、どうすれば良いかわからんのじゃ。」
傾いてきた夕日を浴びて、窓の外を切なそうに見つめるアウィン。
その先には、過去、確かに栄えていたであろう一国の跡が広がっている。
・・・・ああ、そうか。
アタシは妙案を思いつき、それを実行すべく皆に話して、賛同を得るのだった。
「よーし、じゃあ皆、また後で!!」
「わかったわ、姉さま。メシア達は先に、森の皆に話してくるから心配しないでね?」
「うん、頼りにしてるよ、よろしくね?」
転移陣で先に全員を我が家に帰し、アタシは腕輪から初期に貰った道具の中の回復ドリンクを取り出して一気に呷った。
ーーーっか~!!無くなった魔力が一気に戻ってくるー!
さすが、あの謎のおネエ特製ドリンクだわ!!
みるみるうちに魔力も気力も全快したぜ!!
「んじゃ、やりますかね~っと!」
アタシは空へと飛び出し、龍の國全体を上空から見る。
本当に、この國だけが断崖絶壁で括り出されているような形状だ。
その、大地と崖の境目に、全力全開で空間断絶の魔術を展開し、一瞬で切り離して、龍の國だけを空中に浮かばせる。
そして。
その『龍の國』を、腕輪に収納した。
その後、龍の國跡地近くに、やはりあると思っていたが、朽ちた転移陣を発見したので、そこを修復し、さらに洋館のように造り直して結界とAIを設置。
それからその陣経由で、深淵の館まで帰還した。
「ただいま~。」
「お帰り、フミエ。とりあえず龍の子供達も総出で、森の仲間達に話をしに行ってくれてるよ。」
出迎えてくれたクロムから話を聞き、とりあえずこちら側の土地の整備をする為に外へ出る。
「ありがと。じゃ、一丁やってくるから、クロムは家の中で待っててね?」
「うん、行ってらっしゃい、フミエ。」
微笑んで送り出してくれたクロムが館の中にきちんと入った事を確認して、アタシは上空へと飛ぶ。
そこから深淵の森の状況を確認して、とりあえず自宅周辺の建物の配置を、これまた魔力全開で力業で変えて整えていく。
一旦深淵の宿も空中に移動し、牧場や畑の位置も整備して機動性が良くなるようにする。
そして、更なる力業で、森の地殻変動を起こして、家の裏手側にとんでもなく巨大な隙間というか、谷のような大穴を作り、そこに腕輪から龍の國を取り出して、設置した。
あとは、國と森の狭間を埋め立てたり段差をなくしたり、川の配置を考えたり、色々微調整を加えて、元々そこに國がありましたよ、ぐらいに大地を成らして完成!!
これで、森もそのまま守り、プラスで國もそのまま活用できるようになった。
まあ、深淵の森が少しだけ、あの町に近づいてしまったけれど、これも誤差の範囲レベルだから大丈夫だろう。
あとは、龍の城の近くの深淵の館側にある空き地へ深淵の宿を設置して、そこから温泉をひいて城へ繋げ、そこから街のどの屋敷でも温泉が楽しめるように温泉を通してみる。
それと同時に、龍の町もさらに復元・再生・改良・整備させて、いつでも直ぐに入居出来るようにしてみた。
「っぁあああ~!!もー疲れた!動けん!!」
アタシはそこまでやって完成させたあと、館の前に降り立ったそのまま、大地に身を投げ出す。
正直、もう何もしたくない。
そのままゴロゴロ寝っ転がって、夕焼け空を見ながら休んでいると。
「・・・本当にお主は規格外よの?」
どうやらリビングにいたらしいアウィンとクロムが、館から出てきた。
そして、遠方の空から、大切な龍の子供達や、愛する嫁(予定)達、仲間たちが戻って来るのも見える。
「はは、こーすりゃ、万事解決でしょ?
なら、その方が手っ取り早いし、アタシは全力で助けていくよ?」
「本当に・・・ありがとう、フミエ。」
アウィンから手を差し伸べられ、その腕をつかんでアタシは立ち上がる。
泣き笑いのような笑顔に、アタシもニカッと笑って応えた。
まあ、将来的に、うちの龍の子供達が独り立ちした時に、あの龍の國に自宅を構えても良いんじゃないかとか、町の家のどれかを王の別荘とかオロバスさんの別荘にしても良いんじゃないかとか、そんな事も考えていたんだけれど。
何よりアウィンの思い出の詰まった場所がここにあれば、本人もすごしやすいかなって思ったんだよね。
だから、森の範囲が少し拡がっちゃったけれど、やって良かったと思っている。
あー・・・でもまあ、後で王に言わなきゃだけどね。
それはセエレ&クロムの聖母コンビに丸投げしちゃえば良いか。
「おー、皆お帰り、行ってくれて、ありがとうー」
「お帰りなさい、姉さまぁぁ!」
空からそのまま、メシアが突っ込んできたので、サラッと抱き止めて抱える。
「おーい、あのスピードは危ないだろ~?嫁入り前の身体に傷ついたら大変だぞ~?」
「ふふっ、姉さまだから何とかなるかなって!それに、姉さまのお嫁さんになるんだし!!
もー、本当に今日の姉さまには凄く心配したけど、それよりも人助けして、その後いっぱい格好良くって、本当に惚れ直しちゃったー!」
そのまま、メシアの猛烈なキスの雨を耐えつつ、遠巻きにニヤニヤする龍の子達にアウィンと新しい龍の子供を紹介して、メシアを抱えたまま皆でリビングに移動した。
「姉さまは疲れたでしょうから、今夜はメシアがご馳走作るわねっ!待っててね!」
「私も愛を込めてお作りしますね?」
「待ってて、フミエ。俺も料理作るから、楽しみにしてて?」
「じゃあ、僕も作ろうっと!アウィンさん、この子をよろしくね?」
リビングに入った途端メシアが飛び降りてキッチンに消え、その後をセエレと黒呼が続き、クロムがアウィンに龍の子を託し、キッチンへと向かう。
突然だが本当に珍しく、今夜は嫁達が総出で夕餉を作ってくれる事になったのだった。
確かにアタシは凄く疲労困憊だったから、とても助かる~!
アタシは皆に椅子やソファを譲り、なけなしの魔力で空中に寝っ転がってダラダラする事にした。
ご飯が出来る迄の間、今日の出来事を子供達から聴いたり、迦蓮や塞呼から今日の月呼のランチが如何に美味しかったか自慢されたり、アウィンに子供達がじゃれついたりと、本当に久しぶりに家族の団欒って感じがして、心穏やかな一時を過ごした。
そして。
「はーい、ご飯出来たわよ~!?持っていってね~!!」
「「「はぁ~いっ!!!」」」
何時もの風景ではあるが、龍の子供達が率先して出来立てのご飯をリビングと広間にまたがる大きなテーブルに、次々と乗せて行った。
大人組は、セエレの部下の分も含めて大量にカトラリーを準備している。
まあ、毎度ながら好きな分だけテーブルから取る、半ビュッフェスタイルみたいなものか。
アタシも手伝おうと思って、空中を浮遊してキッチンに近づいてみたら。
「姉さまは、座って待ってて!?」
「ご主人様は、何もせずにお掛け下さい!!』
「俺たちで全部やるから、魔力の無駄遣いはしないで待ってて欲しい。」
「あとで、いっぱい一緒にいられるから、すこし待ってて欲しいな?」
嫁に一蹴されてしまった。解せぬ。
すごすごとリビングに戻ってきて、空中から皆の邪魔にならないようにして、作業を見守った。
そのうち、仕事から帰還したセエレの部下達が、恐縮しながら入ってきて、何時ものように皆に混ざって食事の準備を始めた。
ーーーそういや、初期からいてくれたけど、セエレの手前、部下の子とお話出来てなかったなぁ。
そんな風に思い、そちらへと移動する。
いつも、商売関係でセエレが頼りにしている3人に近づいて、声をかけてみた。
「やあ、久しぶりだね?どうだい、町とか生活とか販売の方は?」
「あ、お久しぶりです。はい、町への供給も安定して、毎日沢山の通貨が貯まってきております。」
「資金に関しては、全てセエレ様が管理しておいでなので、詳細はセエレ様に伺って頂けたら・・・」
「ううん、そうじゃなくて、この國でやってる事って、皆が元居た場所でやってたお仕事とは、また違ってるわけでしょ?
それで、疲れたり、困った事とかないかなって。」
「「「!!!!!」」」
アタシの言葉に、3人とも目を見開いて、しばらくアタシの顔を凝視した後でーーーー涙を流した。
「え!?ちょ、どうした?何かあった??」
「いえ、いえ、そうではございません・・っ!」
「わっ・・・我々が居た場所よりも、豊かで、こんなにも心の落ち着く場所でっ・・・!」
「こっ・・・こんなにもっ、穏やかな仕事で、美味しい食事にありつけてっ・・・」
「その上、我々にも、気をかけてくださって、本当に、本当に、貴女はっ、私たちの神なんですっ!」
「セエレ様もっ、毎日とても楽しそうでっ、本当に、私たちも、幸せなんですっ!」
そう言って、涙を流す3人に、反対側から農作業の管理者さんや、他のお仕事を各々管理してるセエレの部下達も集まって寄り添う。
全員が泣きながら、うんうん、って頷いていた。
「そっか、それなら、良かった。
もし、何か困った事があったら、言ってね?
皆の力になれれば、アタシも嬉しいからさ?」
「「「「はいっ!!」」」
とても清々しい笑顔で言われ、アタシはその後も少しだけ話をしてから、自分の席に着いたのだった。
まあ、改めてセエレの部下の事も知れたから、良かったの、かな?
原種の國編、さっぱり進まない!
何でかここ、原本はさらりとしか説明されてないので、追記が多いんです。
申し訳ない。




