六十: 月影に笑う者
はやく、大人になりたい。
早く、大人にならなくちゃ。
大人になれば、いっぱいある嫌なことも、一人で何とか出来るはず。
早く、早く、大人になって、そして、兄さんや月呼ねーちゃんを助けるんだ。
僕だって、もう、一人で殺れるようになったんだ。
だから、父様や母様をあんな風にした奴を捕まえて、僕がとことんまで制裁を与えて、優しい兄さんの手が、これ以上血に染まらない様に、更に強く、誰よりも強くならなくちゃ。
早く、大人になって、皆を守らなーーーー
「ーーーーーはっ!?・・・・っはぁ・・っ」
「・・・どうしたの?悪い夢、見た?」
優しい笑顔の、僕の大好きな人が、頭を撫でてくれている。
いけない。
折角の、よっすぃ~さんとの修行の合間。
軽い昼飯のあとの、まったりとした休憩タイムな上、よっすぃ~さんが膝枕してくれてるっていうのに。
なんで、忘れかけていた、昔の夢を、見なきゃいけないんだろう?
背中に流れる嫌な汗に、少し前の、馬鹿で無力なガキだった自分を再び思い出しそうになり、瞳を閉じる。
そう。
昔の馬鹿な僕のせいで、兄さんも月呼ねーちゃんも、ねーちゃんの婚約者も、あの村を出る事になったんだ。
あの村から酷い目に合わされるのは、愚かな僕だけで十分だったはずなのに。
ーーー・・つん。なでなで。
「え・・・?」
再び閉じた瞼越しに、よっすぃ~さんが、僕の眉間や額、顔を撫でてくれている!?
ちょっと嬉しい!!
「ん・・・変な事、考えてる?
・・・考えが片寄っても意味ないし、今の現実を真っ直ぐ生きるのが、正解なんじゃない?」
「うっ・・・」
優しく、だけどいつも的確に、僕を導いてくれる、愛しい人。
時々、野生の勘かって位的確に抉ってくるから、心に突き刺さるんだけどね。
僕は、よっすぃ~さんに出逢って、一番最初に守ってもらった。
その姿がすごく格好良くって、その後一緒に行動して学ぶうちに、考え方や戦法とか生活全般の事とか身体的な事とか、多岐に渡って短期間で急速に成長していった。
守らなきゃいけない、龍の子供も出来た。
だから、守られるだけのガキの自分とはサヨナラして、一人の大人として、自分の力で大切なものを守れるように、よっすぃ~さんに修行をつけてもらってるんだけれど。
一緒に過ごして、いつの間にか僕は、いつでもよっすぃ~さんの事を考えていたり、時々見せてくれる笑顔を思い出して心が暖かくなったり、事あるごとに、いつもよっすぃ~さんを紐付けて考えていることに、気づいてしまった。
そして、それが恋とか、愛って云われるものだって事にも、気がついてしまったんだ。
まあ、認識してしまったなら仕方ない。
兄さんを見習って、全力でよっすぃ~さんに変な虫が着かないように、そして何時でも僕の事を見て貰えるように、ずーっと、ずーっと側にいる事にしたんだ。
もちろん、父さんから聴かされていた昔話に則って、黒の翼を持つ者の為に働くよ?
でも、そこには必ずよっすぃ~さんが側にいるから、だから一番はよっすぃ~さんの為に、僕が側にいるって事で・・・・
あ~も~!訳わかんなくなった!!
僕は、考える事を放棄し、瞼を開いて上を見上げた。
ーーーうん、凄く穏やかな表情で、僕の女神が微笑んでいる。
僕も、荒んだ心が凪いで、自分の顔に自然と笑顔が浮かぶのがわかった。
よっすぃ~さんは、僕の笑顔が好きだって、何時でも笑っているように言っていたけれど。
僕だって、女神の微笑みを何時までも独り占めして見つめていたい。
だから決めたんだ。
黒の翼を持つ者から、一番愛されるのは兄さんで、
僕はサポート役のよっすぃ~さんから一番愛されようって。
僕は、よっすぃ~さんの手を取り繋いで、穏やかな笑顔のまま、
「よっすぃ~さん、大好き。」
って伝えたら。
見る間に、よっすぃ~さんの顔が赤く染まっていった。
でも、繋いだ手はほどかれないし、膝枕もそのまんま。
うん、これは多分、よっすぃ~さんも少なからず、僕を好きって事だよね!?
「僕、将来は絶対、よっすぃ~さんと結婚するからね?」
「・・・・お馬鹿。」
勢いで口走ったけれど、すこし困った表情で顔を赤くするよっすぃ~さんに、心が猛烈にときめいてしまった。
本当は今すぐ抱き締めたい位なんだけど、それをやったら確実にぶっ飛ばされると思うので、僕はそっとよっすぃ~さんの手を取り、口づけた。
これくらいなら、多分、大丈夫なはずだ。
「約束、ね? よっすぃ~さん。」
「・・・・!!?」
口づけながら見上げた先には。
少し驚いた表情で、更に顔を真っ赤に染めた、可愛いよっすぃ~さんがいた。
これは、僕の理性の修行なのかな!?
ああ、よっすぃ~さん、かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわ・・・・ハッ!?
いけない、いけない。
ここで感情のまま動いたら、ゼッタイ駄目だ。
僕は口づけた手のひらを胸元に移動して、しっかりと手を繋いだ。
休憩が終わるまで、多分あと少し。
僕は、この幸せなひとときを、そしてこれから続く幸せな毎日を、大好きな人と目一杯過ごしていく事になるんだろうな。
もっと大人になるまで、ううん、それ以降もずっと側にいてね、よっすぃ~さん。
僕は、心の底から幸せな笑みを浮かべて、再び目を開けるのだった。
白呼くんの、多感なる心情?編でした。
よし、次の番外編は、誰を書こうかな?




