四十一:悪魔
セエレの意識がしっかり戻り、それでも膝の上から退かず、ずっとくっつかれている最中。
アタシは、いい加減解けない魔方陣論から離脱し、セエレに最初に会った頃の事を思い出していた。
そういえば、セエレって、封印された時に他の同僚の悪魔も、同時に封印されたって言ってたっけ?
もしかしたら、そいつらから悪魔しか知らない魔術とか、何かヒント貰えるんじゃないかな?
「なあ、セエレ。」
「ふふ、何ですかぁ?ご主人様??」
「セエレ以外に封印された同僚の悪魔って、今、何処に封印されてるか、わかる?」
そう問いかけると。
もんの凄く渋い表情に、セエレがなった。
「まあ、居場所はわかりますけれど、ご主人様に会わせたくないです。」
「ええ・・・。」
「というか、力のある何柱かは、もう自力で封印を解いて自由に下界で過ごしているみたいですが、絶対にご主人様に会わせたくないです。」
「へえ、そうなん」
「奴等が近づいてきたら、ご主人様を連れて全力で逃げます。」
凄く真顔でセエレは言い放つ。
アタシは、今のセエレには何を言ってもダメそうなので、とりあえずこの事は一度引き下がって、折を見てまた話す事にしたのだった。
その後、メシアが復活し、夕方になってみんな帰ってきたので、夕飯を作ってディナーを取った。
パトロール部隊から今日の情報を聴きつつ、こちら側の事もどうしようかと考えていると。
「姉さま、明日、町の図書館や本屋さんとかを、ちょっと見に行きたいんだけれど、いいかしら?」
メシアに言われて、アタシも気がつく。
もしかしたら、古の医療古書とかに何かヒントがあるかもしれない。
アタシもセエレもそれに同意し、明日は息抜きを兼ねて情報収集をしに、町へ繰り出す事にしたのだった。
翌日。
クロムに教えて貰った図書館・・・いや、博物館レベルでものすごい資料等が陳列もされている、そんな図書館へと来た。
なお、クロムからの紹介状がないと入れないらしく、アタシ・メシア・セエレは少し緊張しながら、その豪勢な門を潜り抜けた。
受け付けに紹介状を提示し、どのような本が見たいか言えば、そこまで案内された。
その上で、何故かお手伝いの係員がアタシたち一人につき2名ずつ配置され、あまりの待遇に疑問を持つと、『王の関係者だから』という説明で合点がいった。
とりあえず、片っ端からメシアは医療魔術の本を見て有益そうなものを選別し、セエレもこの世界での魔術・精霊術・陣・魔法に関連するものから使えそうなものをピックアップする。
アタシは本棚を見つつ、係員に『門外不出の古代魔法等の部屋があるか?』を聞き、一人だけではあるがその部屋の閲覧を許されたので、そこへ赴いてから、片っ端から係員に手分けして本を持ってきてもらった。
次々に重なる重要古書を超速パラ見しながら、必要な本に関しては禁術:複製魔術を係員が解らぬように使って、人が視認できない速さで無限の腕輪に収納、ということを繰り返し、1時間位で全ての門外不出古書の閲覧・選別・複製を終えて、その部屋を出る。
まあ、選別っていうか、面倒だから全部複製したんだけれどね!!
それからメシア達の元に戻り、更に複製を繰り返し、全ての作業が終わったのが、丁度夕方に差し掛かる頃だった。
図書館の係員にお礼を言って、ついでに卵白を使って焼いたメレンゲ菓子を渡すと、とても喜んで見送ってくれた。
そのままアタシたちは商店街で適当に買い物をし、例の喫茶店でちょっとティータイムをしてから、クロムのいる冒険者ギルドへ向かう。
夕方で、ロビーは依頼を達成した冒険者達でいっぱいの状態で、ギルドのカウンターも鬼のような忙しさだった為、アタシたちは壁際にある椅子に座ってその波が落ち着くのを待つ事にした。
円形の机と椅子のため、机にお菓子と飲み物を出して30分ほどまったりしていると。
目の前に、冒険者のような剣士のような格好の少年?青年?の男が立ち、こちらを見下ろしていた。
その視線は、セエレに向けられている?
「えっと、何かご用かしら?」
いち早く気がついたメシアが声をかけると、その男はニヤリと笑って、話し出した。
「久しいのう、セエレよ。」
「は?どちら様ですか?」
セエレがおもいっきり眉間にシワを寄せて睨み付けている。
「ククク、主の顔を忘れたのか?」
更にセエレの表情が厳つくなる。
「私の現在の主は、此方にいるフミエです。貴方はどちら様ですか??」
「ほう・・・?」
男の視線が此方を向く。
長くなりそうなお話かなぁ?
「あのさ、立ってないで座って話そうよ。依頼帰りでお疲れでしょ?」
「ふむ・・・そうか、なら失礼するぞ。」
「ご主人様っ!!」
こちらに怒るセエレを無視して、アタシの向かいに座る男に飲み物を渡し、話しかける。
「初めまして、アタシはフミエ。深淵の館というチームの、とりあえず代表だよ。」
「そうか。ワシはソロモン。そこの悪魔の主じゃ。」
「その契約は、貴方が前に亡くなった際に終わっているはずです!」
セエレが横から口を挟む。
そんなセエレの口唇に指を当てて、しぃ~っと黙るよう促すと、渋々ながら従ってくれた。
何故か椅子を近づけて、アタシの腕を抱き抱えるかのように抱きついてきたけれど、少し震えているのがわかった。
うん、アタシ、がんばらなきゃな。
アタシは視線を男ーーーソロモンに戻すと、ソロモンはセエレを見て目を大きく開き、ビックリしていた。
一体何なんだろう?
そう思って話しかけようとしたら。
「我が麗しのご主人さま~、お待たせで~っす!」
ソロモンの後ろから、尻に尻尾を生やした少年のような悪魔が現れる。
その少年悪魔に、ビックリした表情のまま、ソロモンは振り返りながらセエレを指さして固まった。
少年悪魔が、セエレを認識した途端。
「はっ!?・・・はあぁぁぁ!?セエレ!?どうしちゃったの!?なんでそんな事になってんのぉぉ!?」
少年悪魔も驚きで目を見開いて、固まってしまったのだった。
それから、メシアやアタシの努力で2人を現実に引き戻して、話を再会させる。
その間、セエレはアタシの腕に抱き付いたまま、何も語る事はなかった。
「それで、ソロモンさんと、そちらはーーー」
「あっ、自分、ソロモン様の下僕のヴァッサーゴって言います。セエレの同僚で、一緒に昔からソロモン様に仕えてます。ヴァっさんと呼んでください!」
「ーーーヴァっさんね。アタシはフミエです。」
こちら側の自己紹介を終え、本題に移る。
「ソロモンさん、セエレくんがまだ貴方の下僕と言うのは、本当なの?」
「おお、本当じゃ。」
「へぇ~、それって、何か約束した証明とかあるのかしら?」
「おお、あるぞ、美しい乙女よ。見てみるか?」
「ええ、見てみたいわ!」
アタシの代わりにメシアが、物凄く本題に切り込んでいってくれた。
ソロモンはメシアが可愛いからか、各悪魔の契約書の束を取り出して、セエレの部分を見せてくれた。
セエレが、一瞬動きそうになるのを、指を絡めて手を握って止める。
確かに、そこには契約の魔方陣が書いてあった。
だが。
「これさ、数千年前の契約書みたいだけれど、ここに『この生が終えるまで』って期限が書いてあるよね?」
「おお、そうじゃな。」
「その生って、人間の寿命に当てはまるよね?」
「うむ、そうじゃが・・・」
「じゃあ、もう、契約切れているよね?転生してるんでしょ?」
「・・・あ。」
しまった!という表情で、ソロモンがヴァっさんを見る。
ヴァっさんはそんなソロモンを愛しそうに見つめる。
よし、じゃあその隙に。
「じゃあ、セエレはーーー貰うね?」
契約書からセエレのシジル(紋章)を浮かび上がらせ、抜き出して此方の手元に飛ばして浮かばせる。
そして、それに細工してあるソロモンの術と血液を瞬時に消し去り、セエレの目の前に持っていった。
セエレは驚いた顔で此方を見たが、すぐ泣きそうな笑顔になって、そしてシジルに口づけを落とした。
「これは、これからフミエが持っていてください。ずっと、貴女の側にいられるように。」
「えっ・・・そう?わかった、それじゃあーーー」
アタシは口の端を噛んで血を出させたあと、その血を使ってセエレのシジルを保護し、それをシジルごと口に含んで一気に飲み込んだ。
「うぉっ!?・・・・っか~!!!!」
「ご主人様!?」
胃の上、心臓付近にシジルが焼き付くのが解る。少しヒリヒリするし、痛い。
でも、これで、セエレがこれから自由になるなら、安いもんだ。
「うへぁ・・・よし、これでセエレは、改めて自由だよ、な。」
「・・・っ、もう、ご主人様、無茶し過ぎです!
でも・・・・・ありがとうございます。
これからセエレは永久に、ご主人様のモノです。」
そう言ってセエレが改めてアタシに抱き付いてきた時。
ふとソロモン達を見ると、再びセエレを見つめて驚きの表情で固まっていた。
そして。
「セエレ、おまえさん、なんでそんな乙女になっちゃったんだよー!?」
ヴァっさんの心の叫びが、人の少なくなってきた、ギルドのホールに木霊したのだった。
メシアの愛嬌は、万国共通に通じる模様。
そして、昔のセエレとは。




