三十五:約束
クロムが龍を寝かしつけ、リビングへ戻ってきた。
これから王たちの件で、家族会議となる。
「それで、ですよ?
明日、王に此方の要望を伝えて、其を認めてもらうのですが、龍に手を出さない事、深淵の館・その関係者に敵意を向けない事、それ以外に何か伝える事はありますか?」
セエレの問いに、黒呼が反応する。
「敵意を向けない、そして、手を出さない、の方が良い。此方が興味のある者にだけ、行動起こせば良い事だし。」
「それなら私も意見がある。私や黒呼を追う事も禁ずる、を加えて欲しい。
王の言うことであれば、あの里の者も手出しは出来んだろう?」
黒呼に続き、月呼も話す。
続けてクロムが口を開いた。
「うーん、僕たちのような少数種族は、人間の生活や婚姻関係を当て嵌めない、あくまで種族による生活、繁殖を優先させる。を追加して欲しい。」
あー、確かに、龍の生態は龍にお任せした方が良いもんなー。
本来、人の入れる領域ではないんだよなぁ。
「メシアさんやよっすぃ~さんは、何かありますか?」
セエレから話を振られ、二人は顔を見合わせた。
「・・・此方に干渉しない、平穏を乱さないこと。人間の戦にも招集しないこと。」
「この館だけじゃなくて、森一帯の方がみんな幸せだわ。あとは、この森や一帯の平穏もお願いしたいわ。」
あー、確かにそうかも。
この力を戦争に使われたらたまったもんじゃないし。
そして、セエレがこちらを向く。
「ん、アタシからは、約束した事はちゃんと守ること。破ったら、滅ぼす。
あとは、深淵の宿は予約制だから、必ずアポ取って来ること。泊める泊めないは此方の判断に任せる事。それだけかな?」
それを聞いたみんなが、何だか、うわぁ・・・って顔で此方を見た。
え、そんなに変な事言ったかな?
「姉さま、何だか魔王が言うような台詞ね・・。」
「いや、予約を取るのは最低限のマナーだろ?うちは緊急時を除き素泊まり厳禁です。」
ふと、よっすぃ~を見れば『やれやれ』と言わんばかりに首を振っていた。何故だ。
「では、以上の事柄を明日、王に認めて貰う事に致します。夜遅くまで皆さん、ありがとうございました。」
セエレが終わりの合図を告げ、アタシたちは各々、就寝へと着くのだった。
朝。
ご飯前の朝のトレーニングに王一行が加わり、外から激しい音が鳴り響くなか、黙々と宿のキッチンで朝食を作る。
メシアは怪我した人を治す救護班として外に行っており、館の中には誰もいない。
ーーーああ、何だか、やっと落ち着いて色々考えたりできるな。
アタシは、この世界に飛ばされ、何をするべきなのか。何をしたいのか。
優先順位を決めて、今、出来ることをしなくては。
まず、メシアを守る。
そして、よっすぃ~も失くしたくない。
セエレは、約束したから一緒にいる。
黒呼も白呼も月呼も、この場所にいてくれる。
クロムは、どうなるかわからないけれど、龍の子たちは、幸せに生きて欲しい。
あと、手伝ってくれるセエレの部下も大切。
そして、この森、この土地、この館も、生活する上では大切。
以上は、人間の干渉を受けずにいられれば、平穏の維持は何とか達成できる。
だから、みんな、人間から守らなくては。
人間の余計な好奇心や欲望、エゴで、アタシ達を縛るのなら、滅ぼす。
アタシはそこまで考えると、元々あった人間への情を、スッパリ切り捨てるのだった。
「ただいま、姉さま!・・・あれ?雰囲気変わった?」
「おかえり、メシア。朝食出来てるから、皆を呼んできて?」
一瞬、メシアの表情が怯えたようになったが、直ぐに踵を返して皆の元へと行った。
そして、清々しい表情の皆が、クリーンの魔法をかけられながらも集まり、食堂にて朝食を食べ始めた。
昨晩と変わらずに戦場な有り様だったが、その中でもよっすぃ~・セエレ・メシア・黒呼が時々こちらを見つめていた。
特によっすぃ~が、何だか不安そうな顔だったから、心配ないよ、と笑っておく。
そして食後。
セエレとクロムが、王に昨晩話し合った内容を伝えた。
王は少し唸って、人間からの干渉は、全ては止められないかも、と言った。
それ以外は、この森を国定自然保護区域にする事によって侵入に罰則を設けて、先住民としてアタシ達に特別許可・保護指定を出す事により、このエリアで手を出すのは出来なくさせるのは可能と言った。
つまり、街に降りた時に、何らかの接触があるかもしれない、という事だ。
そして、龍の子供たちも、この深淵エリアで生活させるのが良いだろうとの結論で、王公認の一家として認められる事になった。
そして。
人間に手を出させない為に、王から全員に、王家の紋章に魔術印の入ったリングを渡された。
これがあれば、人間が王の許可無しに事を進める事は叶わない(本人が事を進めるのは可能)という事だった。
「アタシは、さ。」
王の案が出揃って、皆がどうするか考え始めた時、アタシは口を開いた。
「アタシの願いは、ここにいる深淵の館の関係者は勿論、この森、この土地、全てを守れればいいんだ。特にアタシの家族に害為す者が現れたら、確実に、滅ぼす。
だから、そうならないように、王様も全力で国民を守ってよ。守るために、きちんと今言ったことは実行してね?
約束を破ったら、王都とか邪魔して来たところ、滅ぼすから。」
優しく言ったつもりだったが、王一行は目を見開いて固まってしまった。
ふと、深淵の館メンバーの方を向いたけれど、此方も皆、同じ表情で固まっている。
え?と思ったら、よっすぃ~が、額の上を指差しているので、何かあるのかと手で触れてみたら。
長めの角が、生えていました。
「え、これ、何?」
「あ、あのっ、姉さまに言ったこと実行するって、誓って王様!あの角は、本気で覚悟決めた時に生えてくるの!今の姉さまは本気なの!この状態で姉さまが言った事は、必ず有言実行しちゃうの!!」
え、マジか。
じゃあ、結構本気で皆が大事だって思っているんだな、アタシは。
さすさす角を撫でていると、王が大きなため息をつき、此方を向いた。
「良かろう。国王の名において、不変の国の掟として永年、この森を保護区にする事を誓おう。
ただ、人里に降りた場合は、なるべく穏便に事を解決して欲しい。
勿論、此方も周知徹底させるが、有事には王の指輪も余すところなくトラブル回避の為に使って欲しい。」
とても真面目な顔で、きちんと約束してくれた。
まあ、とりあえず信用しよう。
ふぅ、と落ち着くと、触っていた角がフッと消えた。
そうか、頭蓋骨に収納はされないのか、良かった。
消えた角らへんをさすさすしていると、メシアが隣に来て抱き付いてきた。
「うふふ、久しぶりに姉様のマジモード見れちゃったわね?格好良かったぁ~。」
ほほ笑みながら、アタシの頭を撫でてきた。
うん、この頭に残る違和感を、一緒に撫でて消そうとしてくれているんだろうな。
セエレや黒呼、クロムも寄ってきて、皆で頭を撫でてくる。
されるがままにされていると、王が少し驚いた様子で
「お主、こんなにも伴侶が居るとは・・・やるのぅ。」
とか言ってきたが無視する事にした。
夕方になり、王一行が帰る時間となった。
むしろ、王はもっとゆっくりしたい!と駄々をこねたが、執務が恐ろしく溜まっている見たいで、今晩から書類に追われるらしい。
仕方ないので、通信機能のみの腕輪を渡してあげて、息抜きに来る時はクロム経由で連絡するように言っておいた。
そして、行きと同じく帰りもギルドの執務室に扉を繋げ、王一行を見送ったのだった。
「あ~、これで、任務完了、かね?」
「ありがとう、フミエ。僕たち皆を守ってくれて。」
「へ?」
うっかり本気でワガママ言った記憶しかないんだが?
「あの国王に確約させたんだもん。僕一人じゃ到底出来なかった事だよ?だから、ありがとう!」
凄く良い笑顔を向けられて、アタシも肩の力が抜けた。
見送り班のメシアやセエレも、みんなで一件落着だな、と安心して、館へと帰還した。
しかし、また直ぐにドタバタになるとは、この時は思っても見なかったのである。
とりあえず、国との繋がり編、完成っと。




