三十三:想いと本能
「クロム、ちょっといいか?」
風呂上がりでまったりしている中、アタシはクロムを連れて外に出る。
皆が来れなさそうな所、と思い返し、そういえば黒呼と初めて逢った大木なら誰も来ないかと思い出す。
アタシはクロムに飛ぶ事と許可を得て、クロムを抱えて移動した。
移動中も、ずっとクロムの視線を感じていたが、到着してからもしがみついて離れないので、仕方なく抱き抱えたまま木の幹に座った。
下を見ようとしない所を見るに、実は高所恐怖症だったのかなぁ?
「で、だ。クロム、朝はうるさくして悪かった。それに、見たくもないモノ見せちゃったかもだし。まとめて、ごめん。」
頭を下げてからクロムを見つめると、顔を真っ赤にしてアワアワしている。
「えっと、どうし」
「あのっ、朝のは気にしてないよ!僕、ずっと見てたし、むしろ勝手に覗いてた側から、こちらこそ失礼だったよね、ゴメン!」
「いやいや、えーっと、じゃ、なんでそんなに挙動不審だったの?」
「あっ、あの、幻滅しないで聞いてくれる、かな?」
クロムは一度俯いて、そして意を決したように顔を上げた。
「えっと、子供たちから、フミエはママたちといつも一緒に寝てるって教えてもらって。
それで、他の種族の夫婦が一緒に寝るってどういうものなのかなって、気になって。
僕、人間の夫婦は何だか汚くて嫌いだけど、フミエ達が寝てる姿は、何だか楽しそうでいいなって思ったよ。
ただ、セエレくんが、ちょっと、スゴい事になってたけれど・・・でも、奥さんならきっとそうなるよね!?」
なんねぇよ!?
ってか、普通に社会見学してただけかい!!
アタシは心のなかで激しくツッコミつつ、普通の口調で答える。
「あれは、アタシにも予想外だった。むしろ、アタシが寝ぼけて、メシアがよくああなるみたいだし。」
「うん、フミエが眠くて、起こそうとするセエレくんを、寝ぼけながら何か色々やって、その度にセエレくんが、その、すごく気持ち良さそうな声だしてたから・・・はあ、やっぱり今思い出しても恥ずかしいな。」
「そ、それは忘れてくれ。」
冷静さを取り戻す為にお互い暫く沈黙が落ちる。
あ、そういえば。
「なあ、クロム。王都の方、大丈夫そうか?」
強制送還はわかったけれど、そのあとクロムに任せっきりだから、クロムに王都から報復があったらたまったもんじゃない。
「うん、何とか大丈夫そう。でも、流石に王子はボコれないみたいで、アイツだけは王から激怒されてお仕舞いみたい。本当に昔からクズなんだよね。」
「え、お知り合い?」
「うん、僕を龍人だからって理由で拉致監禁して僕を穢そうとしてきたんだ。徹底抗戦したけどね。
でも、人間ごときが僕に何かするなんて千年早いってやつだよね。僕、出される料理に飽きて、とっととお暇した足で王にチクッて雷落としてもらったもん。」
「わお・・・。」
ひっでぇな第二王子!そして薔薇の御趣味をお持ちですか!
「ほんと、あの時、部下が止めるのを振り切って、去勢してやれば良かったかな!?いくら龍人が誰とでも性別関係なく子供作れるからって、一人遊びの道具扱いは、サイッテーだよ。」
あ、薔薇じゃなくて、クロムが黒呼と同じ体質?ってことですか。
「だから今回も、自分の下僕として、龍を一から育てようと思ったんじゃないの?
国で一番の戦力を持って、第一皇子を退けられて、それで夜の道具になるように躾て、ハーレムだーって!
ぜーーーーったいに許さないかんね!!」
ぷんすか怒るクロムに、本当に孤独な龍人は大変だったんだなぁ、と感じてクロムの頭をポンポン撫でる。
「すごく大変だったんだな。安心できる場所がなかったって事、だよな?」
「うん・・・っグス、そうだよ。」
「そっか。じゃあこれからは、安心して家に帰って、ゆっくり出来るな。」
「う、うん。」
「心配する事はないよ。向かって来る敵はアタシがはね除けるか殲滅するから。これからもずっと家で安心して暮らせば良い。」
「・・・!っ、うん!」
「アタシもメシアもよっすぃ~も強いし、頭脳戦で何かあったらセエレも使えるし。これからどんどん頼りな?」
「うん、ありがと・・・頼るね、パパ。」
クロムにまでパパって呼ばれた!?
と、いうことは、クロムはアタシたちの養子って枠に入る、のか???
「うん、わかったよ、息子よ。」
「は?え、息子って何!?」
「アタシの事パパって呼ぶから。アタシ達の子供の枠に入るの希望、じゃないの?」
「違ーいーまーすぅ~!妻希望ですぅ~!」
「え、あ、そうなの・・・ええっ!?」
驚き過ぎて、クロムを見ると。
「昨日しっかり考えるとか言っちゃったし、出逢って数日で何言ってるんだって思われるかもしれないけれど、龍は、自分の番になる相手にだけ発情するんです~!
今朝のセエレくんを見て、僕もあれして欲しいって思ったら、フミエに発情してたんですぅ~!
だから、これは本能から来る恋愛の好きって事なんですぅ~!!」
子供の様な癖のある語尾で吐露するクロムに、アタシは頭を抱えた。
とりあえず、メシアたちとの現状や、アタシ自身誰が好きとか恋愛の感情が一切消えている事も説明して、あとは自然に任せる事にした。
クロムも
「そっかぁ、それはメシアさんと話さなくては・・」
と何だかんだ勢いを納めて納得してくれたみたいだったので、アタシ達は話を終えて家に帰還した。
翌日。
おやつ時過ぎにクロムからの通信が入った。
「フミエフミエフミエ!ちょっと緊急事態!!」
「うお!?どうしたー?そんな慌てて。」
「みんなも側にいる!?」
「おー、みんなでリビングでまったりしてるぞー」
「よ、良かったあ!!あのね、ちょっと突然なんですけれどーーーー今夜、王が深淵の館に行きたいって。」
はああああ!?何の用で来るの!?
「今、ギルドの僕の部屋で突然会談が始まったんだけど、フミエ達に直接話して謝りたいって。あと、宿の方に泊まりたいって言ってるんだけど!?」
あ。これ、絶対後者が目的だわ。快適だもんね。
ちょっと遠い目をしていると、セエレが側に来て通信に加わる。
「ふふ、宜しいですよ?例えお宿が目的でも、精一杯おもてなしさせていただきますし、それに何より、この国の事など根掘り葉掘り伺わせて頂きますので、質問に正直に答える、という条件で良ければ、今夜お越し頂いて構いません。」
「うん、ちょっと聞いてくる!!」
クロムは通信を繋げたまま執務室に戻り、王にその内容を伝えて、肯定をもらってまた別室へ戻ってきた。
「OKだって!」
「ふふ、では、送迎はどうしましょうか?」
「ああ、それならアタシが迎えに行って、何処かのドアに転移魔法かけて連れて来ようか?」
「うふふ、姉さま、それってどこ◯もドアみたいね?」
「それで、アタシとメシアで迎えに行こうか?」
「もちろん支配人の私も行きますよ?」
「うん、それじゃあ、国王と信頼できる側近のみに限定して、送迎お願いするね!
フミエたちが使う古代魔法、もう現世では使える人がいないはずだから、国家機密になっちゃうけど、いいよね?」
まじか!
ちらりとセエレを見ると、「そんなにも衰退した世界なのか」と落ち込んでいるが、バッと顔をあげ通信に答える。
「良いでしょう。それが、こちらから相手に与える餌としましょう。
何、王が馬鹿でなければ、こちらを敵に廻す事は絶対ないと言えます。ククク・・・」
おーおー、セエレが黒くなってるー。
そのあと幾つか質問をして、王に返答してもらい、色々打ち合わせて通信を切った。
「よーし、これからちょっと忙しくなるけれど、皆よろしく頼むよ~?」
よっすぃ~も月影兄弟も月呼も、皆が協力してくれて、深淵の宿の準備に取り掛かったのだった。
冒険者たちは強制送還されましたが、実は主要各街のとある場所に、古代から使われる転移陣のターミナルがある為、速攻それで送り返されたのです。
なお、そのターミナルは「壊れたらアウト」なので、王族の緊急事態の時にしか使われないとか。
そして、冒険者は事情聴取で、みんな「あの宿最高!」と言ったとか。




