#74:しばしの別れ
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:教会の中に足を踏み入れたレイとクロム。メドン神父の罠により、二人はダンジョンへと送られる。ノクティアの助けを得て、二人は出口に向かうが……】
レイたちがダンジョンの出口に辿り着くほんの少し前。
ゼノは”主”とむきあっていた。
「レイ様……なのですか?」
おかしな質問だということはわかっていた。
そう。
目の前の男は、間違いなく自分の”主”だった。
なのに、そのはずなのに、どこか違和感を覚えてしまう。
存在感とでも言うのだろうか。
近い存在でもあり、遠く感じられもする存在。
それが、自分の敬愛する”主”だった。
仲間と言われれば、仲間なのだろうし、友と言われれば、そうなのだろう。
配下とも言えれば、得意先とも言える。
少なくとも、主との関係が、自分の中で定義されることはなかった。
レイ様自体も定義することを望んでいないように思えた。
時折、無性に尋ねたくなる時がある。
「私は貴方にとって何なのか?」
けれど同時に、定義してしまえば離れていってしまう。
そんな気がして、怖くて、開いた口を閉じてしまう。
確たる証拠があるわけではない。
ただ、”主の姿”をした目の前の男は、そういった類とは異質なもののように思えた。
この世界のものではない。
そんな風にさえ感じてしまう。
「なんだ?何をじろじろ見ている?」
冷たく淡々とした声。
姿だけでなく、声まで、主そのものだった。
だからこそ、違和感を覚えてしまう。
自分の知っている主なら、きっとそんなことは言わないのではないか。
「行くぞ」
短く、なんの配慮もしていないかのように、命令するのではないか。
「貴方にとって、私は何なのですか?」
ずっと胸の奥にしまっていた質問をぶつけてみる。
この”淡白な”主になら、ぶつけてもいい気がした。
戸惑っている。
それがはっきりとわかった。
顔に微かに皺が刻まれている。
何かを考えこむように視線を下に落としている。
「信頼できる配下であり、友でもある。これでいいか?行くぞ、ついてこい」
そう言うと、主は歩き出した。
その背を追うことはできなかった。
「お兄ちゃん、ついてかないの?」
孤児の一人が、不思議そうにゼノを見上げる。
「ああ」
哀しいかな。わかってしまう。
いや、きっと、出会った頃から、答えはわかっていた。
自分の主は、自分に期待していない。
別に見放されているわけではない。
言うなれば、”真心”を見せないのだ。
孤独であろうとする。
きっと誰にも理解されようとしない。
親切に見せない親切さ。
そういう部分が、特に自分に対しては強いように思えた。
配下……友……
そんな風に言ってほしくなかった。
「くだらない」
レイ様なら、そう一蹴する。
そして、自分もそう言ってくれることを願った。
「何をしている?」
目の前の男がじっとゼノを見つめる。
「お前は誰だ?お前はレイ様ではない」
「何を言っている?」
沈黙が流れる。
目の前の男は、ゼノの出方を伺うように、距離を取っている。
必死に思考を巡らす。
この”沈黙”は永遠ではない。
なぜ、この男は化けの皮を被っているのか。
自分より非力なのか。
自分を人質に取りたいのか。
ギュストたちと関係があるのか。
そして、この男は何者なのか?
「ベルー・ドンギヌス」
その声は、自分の後方から聞こえてきた。
気づけば、視界がぼやけていた。
「にぃに、泣いてるの?」
そうか。
自分は泣いているのか。
張り詰めた緊張の糸がスルスルと解れていく。
目の前の男はレイ様じゃなかった。
自分の勘は正しかった。
「あとは任せろ」
そう言うと、二人はベルーとの距離を縮めていった。
ああ。これだ。
これが、レイ様なのだ。
労わるわけでも、突き放すわけでもない。
ただ、その背中を見るだけで、安心してしまう。
「おい、ま、待て!話し合おう!」
「偽物と話し合う気はない」
ザシュッ。ダシュッ。
斬った。
けれど感覚はなかった。
黒い靄と共に、死体がどこかに消えていく。
「やはり本体は別のようですね……」
クロムの言葉にレイ様が頷く。
「気持ち悪い……」
クロムが呟いた。
自分のことを言っているのだと理解するのに、少し時間がかかった。
「まさか、俺のことを言っているのか?」
「お前以外に誰がいる?」
クロムが笑っている。
そして自分も笑っている。
これでいいのだ。
この日々はきっと、またやってくる。
そう信じることにした。
「ゼノ、……」
「お任せください」
ゼノの言葉に、レイが驚いたような表情を見せる。
その先を聞きたくはなかった。
親切心を見せられているうちは、所詮、シレハ村の者たちと同じ。
遠慮がなくなった時に初めて、少しだけ、信を預けてくれる。
そして、キールやゼファール、クロムは、信の他に、幾分かの心を置かれている。
まだ、自分はその領域にいないのだ。
ついて行けないことはわかっていた。
それでも、その言葉を聞きたくはなかった。
「レイ様、次に会う時は……」
主は微笑んでいた。
「お任せを……」
「ああ、頼む」
「戻りましょうか?」
クロムの言葉で、一行は再び歩き出した。
セント・エルメリアについたのは、夜が更けた頃だった。
エクリプシアの一室。
久しぶりの顔合わせだった。
各村の村長たちに加え、ニーナやシア、ロブ、ガストン、バイス、ルード……
「少し遅れました。申し訳ありません」
ゼファールが恭しく礼をして、入ってくる。
空気が張り詰めている。
腹心。
皆が、そう誇れるだけの自負を持っていた。
「で、このメンツを集めたってことは、余程のことだと思うけど、何なのかしら?」
リーンが冷静に口を開く。
「この店は”エクリプシア”じゃろ?このような場所に招くとは、余程のことじゃな……だいたい、この場所は安全なのか?」
ダレイが警戒するようにクロムに尋ねる。
「安全だということは保証します」
クロムの言葉で察したのか、ダレイがそれ以上、尋ねることはなかった。
皆がクロムの言葉を待っていた。
ふぅ。
クロムは息を少し吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。
「既に御存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、レイ様は脱獄なさいました」
目を見開く者。冷静な者。目を細める者。
反応は様々だった。
「んなら、レイ様はフィルス大村には戻らないってことだべぇ」
ウォルターが、間延びした声を響かせる。
「そのようですね。でなければ、レイ様が姿を現すはずですから。行方は聞かない方がいいでしょう」
ニーナやシア、ロブやガストンは何も言わなかった。
レイが脱獄した時に、ある程度の覚悟はできていたのかもしれない。
「「いつか、また会う時まで、フィルス大村を頼む」。それがレイ様からの伝言です」
身勝手だと思う者はいなかった。
それが苦渋の選択だということは、この場にいる誰もが理解していた。
「任せてください」
「おうよ!任せな」
ロブとガストンが明るい声をあげる。
「クロム、どうせ貴方はレイのとこに行くんでしょ?言っといてよね。野垂れ死んだら、許さないって」
苦笑しながら、クロムは頷いた。
「わかった」
シアは何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと唇を噛み締めていた。
「では、しばしの別れです」
クロムはそう言って、ゼファールと一室を後にした。
月が少しずつ、沈んでいこうとしている。
その晩、それぞれの想いを胸に秘め、各々が帰路に着いたのであった。
激動の時代が訪れようとしていた。
―――――――――――――――――
cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300
【今話の極小情報:】今回も、読者の皆様が忘れていらっしゃると思い、無駄な説明を少し。
今回は、ドーバのステータスについて。
一応、ドーバは#54にて、”メガツ大村の大村長”として登場しております。
ドーバ:【名:ドーバ 年齢:40】【MP:200】【ステータス】武力:60.D(70.D) 知力:50.E(50.E) 統率:90.D(90.D) 政治:60.D(60.D)【サブステータス】兵法:40.E(60.D) 馬術:100.C(110.C) 陸戦:60.D(60.D) 海戦:60.D(60.D) 工作:120.C(140.C) 諜報:30.E(50.E) 農耕:50.E(60.D) 商業:60.D(60.D) 建築:50.E(50.E) 成長:100.C(100.C) 忠誠:--【固有スキル】--【スキル] 剣術(E) 体術(D) 風魔法(E)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、「暇乞い」です!
ふっと二言:「昨日は投稿できなかったです。すみません。猛反省……今日は投稿頑張ります!新作も投稿しますので、どうぞよろしくお願いいたします!」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~
—―—―—―—―【他作品もよろしければ!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
—――・『奴は元々、最強だった~戦乱を生きた英雄、現代で覇者になる~』
「何が始まりで、何が終わりだったのかはわからなかった。けれど、何かが俺を変えようとして、俺は何かを変えようとしたのだ」
理不尽な運命を、圧倒的な力で覆す!
【戦×無双×成り上がり×天下統一】—―それぞれの思惑が渦巻く世界。その先に待ち受けるのは!?
―――
・「一生を病室で終えた俺、呪いが解けて、天下獲る~貧村に捨てられたけど、"最強"に魔改造します~ 」
「天下を獲る。その果て無き夢を、本気で信じた者だけが見れる景色、それが「天下」だ」
不自由だった前世を、自由を得た今世で破壊する!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 —―天下を夢見る少年の秘密とは!?
⇧※本作です。これからも、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




