#73:この国の未来は明るい
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:土の性質を利用して、孤児たちと脱出したゼノ。ダンジョンの外で待ち受けていたのは、待ちわびた"主"の姿だった……】
一方、その少し前、レイはクロムを連れて、教会の中へと足を踏み入れていた。
教会の中の空気は、どこかひんやりとしていた。
祈りを捧げる声もなく、静まり返っていた。
埃の溜まった窓。
薄汚れた祭壇。
少なくとも、教会として機能しているようには見えなかった。
どこかが開いているのか、湿った風が吹き込んでくる。
「どうかされましたか?」
穏やかな微笑みを湛えた男が奥から出てくる。
肥え太った腹が小刻みに揺れている。
「これは、これは、メドン神父」
クロムの言葉で、初めて、神父だとわかる。
首が顔と胴体に隠れている。
腹は太っ腹などというものを通り越して、腹にすべての筋肉が集中している。
権力の上に胡坐をかいた俗物。
そう言われた方がよほど合点がいった。
メドンと呼ばれた神父は、クロムに微笑みかけた。
「御祈りに来られたのですか?」
穏やかな口調だった。
罠。
それはクロムも理解しているはずだった。
誰が見ても、腹に一物抱えていることがわかるような微笑み。
「ええ。その通りです」
クロムが淡々と答えると、その言葉を予期していたかのように、颯爽と祭壇へと手招きする。
「こちらが祭壇でございます」
教会の祭壇に近づくにつれ、メドン神父の口角が上がり始める。
「では、ごゆっくり」
祭壇に跪いたレイたちに、恭しく一礼をすると、極限まで上がった口角を隠すように、足早に立ち去っていく。
「罠があるようですが……」
クロムが言い終わらないうちに、祭壇の周りに幾何学模様が浮かび上がっていく。
召喚陣。
そう思った時には、既に引きずり込まれた後だった。
「お馬鹿さんたち、さようなら」
メドン神父の笑い声が微かに耳に届いた。
召喚陣の先は、薄暗い洞窟だった。
「予想通りではありますが……」
「ああ。少々、荒っぽかったがな……」
眼前には、冒険者くずれと思われる”ごろつき”たちが列をなしていた。
「ケッヘヘッ!」 「来なすったぜっ!」
目を爛爛と輝かせ、口元には薄ら笑いを浮かべている。
「おまえたちが「聖者の泉」か?」
静かな声が、洞窟内に響く。
「おやおや。こんなガキにまで知られているとは光栄なことでっ……」
ザシュッ。
「ピントっ!」
ピントと呼ばれた男は、既に絶命していた。
胸には短刀が刺さっている。
戦闘は音もなく始まった。
レイやクロムが舞うごとに、一人、また一人と倒れていく。
「馬鹿な……」「くそっ!」「どうなってやがるッ!」
そんな声も数分で聞こえなくなった。
「終わったか?」
クロムが頷く。
二人は洞窟を歩き出した。
ゼノがどこかにいるはずだった。
魔法を無闇に使うことはできなかった。
魔物がそこらじゅうにいるのがわかる。
ゼノを見つけるのが先決だった。
他のことに構っている暇はなかった。
いずれ、脱獄したことが分かり、追手がかかる。
シレハ村を守る。
そのためには、ゼノが必要だった。
人脈。度胸。智謀。
ゼノさえいれば、シレハ村を守ることができる。
脱獄が分かれば、奸臣達はシレハ村を狙う。
それは、自分を捕らえるためではなく、利用するに値する村だからだ。
村長がいなければ、村長に、自身の息のかかった者を送り込む。
五大公爵家が好みそうな手だ。
「レイ様、道が分かれていますが……」
「この様子だと、ゼノは逃げたようだな」
そう判断するに相応しい状況だった。
洞窟に魔物が跋扈している時点で、ここがダンジョンなのは明らかだった。
ゼノを人質にした以上、ゼノと別の場所に送るとは考えにくかった。
なにより、このダンジョンは、理由は定かではないものの魔力量が多い。
ここが奴らのアジトなことは確かなように思えた。
「とりあえず、右に入るぞ」
迷っている時間はなかった。
右の道は案外、すぐに途切れた。
「行き止まりのようですね……ん?これは……」
ゼノの片眼鏡だった。
もちろん、伊達メガネなのだが、その方が頭が良さそうに見える。
そうゼノは言っていた。
シアが送ったものらしい。
「やはり、ゼノはここに……」
ゼノがいない。
いた場所に今はいない。
それは、2つの可能性を帯びていた。
自力で逃げ出したか、誰かに連れていかれたか。
「あの……」
それはか細い声だった。
クロムが反射的に短刀を投げようとする。
「待て!」
細い腕が岩陰から出ている。
抵抗の意思がないことを示すかのように、岩陰から、必死に両手を出している。
「名前は?」
クロムが短刀を懐にしまうことはなかった。
「ノクティア……」
か細い声で答える。
沈黙が続いた。
苛立つクロムが肩で大きく息を吐いている。
ノクティアは、言おうか言うまいか、時折、口を開きかけては閉じかけていた。
「何か知っているのか?」
穏やかな口調で問いかける。
無駄に時間を浪費したくはなかった。
「ゼノさん……片眼鏡をかけたお兄さんなんですけど……」
「どこにいる?」
クロムが催促するように促す。
「えっと、その……」
ノクティアの顔が急に強張る。
つばを飲み込む音がやけに響く。
「ゼノさんの味方ですよね……?」
ノクティアを信用してもいい。
そう思った。
ゼノを本当に案じているのが、言葉の端々から伝わってくる。
「そうだ。あいつの仲間、いや、あいつは俺の配下だ」
途端にノクティアの顔が明るくなる。
「そうだったんですね!ゼノさんが時折、愛おしそうな顔をしていたのは、貴方を思って……」
「あ、いや、それは多分、妹の事だと思うが……」
クロムの言葉が聞こえなかったかのように、ノクティアは事の顛末を話し始めた。
ゼノが捕らえられて、連れてこられたこと。
孤児たちが魔力飽和状態だったこと。
土の中に魔力を流し込んで、結界を破壊し、一時的かつ簡易的なスタンビートを起こしたこと。
ゼノたちがダンジョンの外に出たであろうこと。
「そうか……」
ふと出た言葉だった。
ゼノは優秀だ。
それはわかっていた。
けれど、心のどこかで、武芸ができないからだろうか、危なっかしいやつだとも思っていた。
自分が守らなければならない。
そう思ってしまっていた。
あいつは一人でも大丈夫だ。
一人でも、誰かを背負って戦える。
そう思えば、もう思い残すことは何一つ無いように思えた。
「どこに行けば、出口に出られる?」
「多分、こっちです!」
ノクティアは先頭に立って、歩いていく。
怯えは感じられなかった。
魔物が至る所に跋扈しているというのに。
自分たちがいるからなのか。
あるいは、この少女の元々の強さなのか。
この国の未来は明るい。
なんだか、ふとそう思った。
「ここが出口です!」
光りが漏れている。
外界の光。
ほんの数分しか経っていないのに、なんだか懐かしく思えた。
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cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300
【今話の極小情報:】今回も、読者の皆様が忘れていらっしゃると思い、無駄な説明を少し。
今回は、ゼノスのステータスについて。
一応、ゼノスは#53にて、”魔族の貴族”として登場しております。
ゼノス:【名:ゼノス 年齢:不詳】【MP:9200】
【ステータス】
武力:270.S(270.S) 知力:250.A(280.S) 統率:190.B(210.B) 政治:30.E(30.E)
【サブステータス】
兵法:80.D(80.D) 馬術:100.C(130.C) 陸戦:260.A(260.A) 海戦:260.A(260.A)
工作:220.B(240.A) 諜報:130.C(150.C) 農耕:10.F(10.F) 商業:60.D(60.D) 建築:50.E(50.E)
成長:200.B(260.A) 忠誠:--
【固有スキル】--【スキル] 体術(A) 闇魔術(S) 亜空間魔術(B)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、「最期」です……
ふっと二言:「だいぶ、投稿が遅くなってしまいました……新作は明日になりそうです……明日はもっと頑張れればッ!」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~




