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マボロシとナオ (4)

4/4

ナオには一部の感情処理能力が欠如している。それは紛れもなく俺自身がナオの一部を引き受けているからだ。だから、ナオが処理できない感情に出くわした時、ナオは体の一部分の自由が利かなくなる。自由が利かなくなる箇所はその時々で変わるから、一概にどこの自由が奪われるかは、ナオが受けたストレスに左右された。具体的な症状を言うと、片耳が聴こえなくなったり、片目が見えなくなったり、片足や片腕が動かなくなったりした。片方ならまだいい。時には両方とも動かなくなった時もある。ただ、それはナオが行動するときだけだ。俺が体を貸してもらえば何も不自由なく聴こえたし、見えたし、動かすことができた。人の精神構造というのは本当に不思議だ。

そんな時は俺とナオで協力して生活を送っていた。困ることがあればすぐにサインと出してもらい、俺が前に出た。そうやって、これまでうまく生きてきた。最も、ナオがそんなふうに体調を崩すことはそこまで多くなかったけれど、もう十年くらいの付き合いだ。そこそこ長く生きていれば、何回かそういうことだってあるだろう。そしてこれから先も。

俺とナオはこの障害について病院に行くつもりがまったくなかった。風邪をひいたときにはどちらが前に出ても影響を受けるから、その時は病院に行った。でもそれ以外の体の一部が不自由になったときは、どちらとも決して病院に行こうとは言わなかった。このことは家族の誰にも打ち明けていない。

色々と調べた結果、人格の統合が最良の道とは言えないことが現在の医療現場の常識となっているようだった。例え多重人格であろうと、突然パニックを起こしたり人に迷惑をかけたりしなければ、俺とナオは共に存在していても問題ない。それが俺とナオの意見だった。


そんな日々を過ごしている中、ナオはアカリと出会った。俺はアカリのことを特に意識していたわけではない。ナオが一緒に美術館に行くと決めるまで、俺は彼女の存在を忘れていた。それくらい自然に、ナオとアカリは出会った。

アカリと共に出かけたナオは、彼女の一つ一つの行動を丁寧に目で追っていた。これまで誰かと深く関わることを避けていたナオがそんな様子を見せることに、俺に少しだけ驚いた。何も違和感を抱かせることなく、彼女はナオの懐に潜り込みつつあった。俺はナオを通してそのアカリの様子を見ていた。彼女の行動は幼かった頃のナオを思わせた。何にでも興味を持ち、その一つ一つを新しいものでも見つけたかのように喜んだ。そして時々、ナオを振り返る。それはまるで親がちゃんと自分を見守っていてくれているかどうか、一緒に喜んでくれているかを確認するような仕草だった。きっと彼女も、親に大切に育てられてきたのだろう。

二人がもう一歩進んだ関係になるのも時間の問題だろう、俺は直感的にそう思ったし、実際にそうだった。時々彼女はナオを誘って共に夕食を取る。これは普通の目線で見れば恋人同士だと思われてもおかしくない。だから俺は、勝手にアカリもナオに好意を寄せていると考えていた。

それでも、ナオはそう考えなかった。ナオはアカリと恋人関係にまでなれるかどうかを悩んだ。もし恋人同士の関係を結べたとして、ナオは自分に欠陥があることを理解していたし、もしまた体の一部が利かなくなった時、自分の不自由の補佐を恋人ともなれば彼女にも強いてしまうことになる可能性を恐れた。これまでなるべく他人を頼らないような道を選んできた優しいナオだ。だがずっと悩んでいても仕方ない。俺はナオに話をした。

「ナオ、これから先、交際や結婚を視野に入れた付き合いをしていく覚悟があるのなら、それは無用な心配だ。恋人を経て夫婦になったとして、夫婦は共に支えあって生きていくものだ。それを強いるのが早いか遅いかの問題で、遅ければ遅いほど手遅れになる可能性がある。」

ナオは黙って聞いていた。もしかしたら、俺に何がわかるんだとか思っていそうだ。

「マボロシのこと、話した方がいいかな...」

しばらく経ってナオが問いかけてきた。

「ナオはアカリがどういう人間か理解しているだろう。彼女はナオの話を聞いて逃げ出すようには、俺には思えない。」

「それはそうなんだけど...。」

「それとも彼女に告白する勇気がないか?」

俺はナオをからかった。ナオはすぐにムッとして返事をしてくる。

「そうじゃないよ。マボロシはすぐそうやって僕をからかう。僕が心配しているのはマボロシがアカリさんに会うつもりがあるかどうかを気にしているの。」

ナオの言葉に今度は俺が驚く。俺が人と接するのは必要時だけで、基本的に人と会うことを避けていた。

「なぜ俺がアカリと会わないといけない?」

「わからないの?僕は僕だけど、マボロシも僕だ。僕はアカリさんに世間一般でこう言った部類の精神障害を持っていることをちゃんと話すつもりだ。もちろんマボロシの存在も。でもその話をしたとして、アカリさんはきちんと自分で目の当たりにしなければマボロシの存在を絶対に信じない。」

それを聞いた俺は、考えた。ナオが俺の話をしたとしても俺が姿を見せなければ、ずっとアカリはナオを疑い続けるだろう。そんな状態では健全な信頼関係なんて結べない。だから俺はアカリと会うことを承諾することにした。

「わかった。」

「会ってくれる?」

「会う。彼女のことは、だいたい把握している。」

「なんだかそれも変な感じだなぁ。だけどよろしくお願いします。」

ナオは少し笑って答えた。

ナオはアカリに自分の抱えているものを話す。その延長で、俺はアカリと会うことになった。

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