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マボロシとナオ (1)

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最初に、ここでは俺とナオの障害について記しておく。これはあくまでも俺とナオが調べて理解した結果だ。だから正確な医学的観点からすると異なる箇所もあるかもしれない。この障害は本当に様々なケースが存在する。本当は素人である自分たちを診断するようなこともすべきでないことは理解しているが、俺とナオには相談できるような大人が近くにいなかった。ましてや病院に行くなんていう選択肢もなかった。

解離性障害。それには重度があり治療が必要な障害と診断されるまでにはいくつか段階がある。衝撃的な出来事に遭ったとき、めまいを起こして立っていられなくなったり、気を失ったりする。これは正常な範囲の解離だ。それよりも強いショックを受けた際、出来事そのものの記憶やその出来事の前後の記憶を失くしたりする場合、解離性健忘と判断される。解離性健忘の症状の重度によって、障害かどうかが判断される。要するに、その出来事の後、日常生活に支障をきたすことのない範囲の健忘は障害と診断されることはない。それらは生きているうえで誰でも起こりえる症状であり、人間が生きていくための感情抑制に必要な一過性の自己防衛だ。しかし何らかのきっかけによって、パニックを起こしたりする場合は急性ストレス障害と判断され、治療が必要になる。

一方、解離性同一性障害はその解離性障害の中で最も重い。一般的には多重人格と呼んだ方がわかりやすいかもしれない。主人格と呼ばれる、これまで一人の人間として生きてきた人間が受けた強いショックによって無意識に感情や記憶を切り離し、本人の意思とは無関係な場所でそれらが成長し、別の人格を生み出すことを指す。もちろん、その生み出された人格の数や成長した人格の性格によって重度も症状も異なる。その障害の深刻度は主人格や生み出された人格次第と言えよう。ある程度コントロールできてしまえば、彼らはその状態を世間に知られることなく生きていくことができる。

また、一般的に多重人格と言われているが、それはあくまでも一人の人間が何らかの出来事によって人格が分裂してしまった状態であり、決してまったく異なる人格が乗り移った状態ではない。分裂して成長した人格は、主人格が切り離した感情や記憶によって生まれる。だから、分裂した人格は主人格が切り離したくてたまらなかった感情や記憶を引き受けてその人格を形成している。

言い方を変えれば、一つだったものが半分になったり三分の一になってしまい、それぞれが独立した思考や好みを持った状態で存在していることが多重人格と言える。普通の人が解離性同一性障害を抱える者に対して、その人が持つ個々の人格を一人の人間であると錯覚することは、一重に他人の一部分だけで相手が独立した一つの人間であると判断してしまっていることにすぎない。

そしてこの障害を抱える者がいくつ人格を持っているにせよ、元を正せば一人の人間であるということを忘れてはならない。この誤解されやすい障害の一番の問題点は複数の人格を持つということではなく、一つの人格すら持つことができないということだ。

人間は誰でも多面性を持っている。そのため、自分自身が知っている人が突然変わってしまったような場面に出くわすことがあるかもしれない。お酒に酔って人が変わる、その時に暴言を吐いたとしても次に会ったとき、その人に暴言を吐いた記憶はない。おとなしい人が前触れもなく激高する。でもそれは一つの人格の中での感情や精神抑制の一種の表現であり、それはここで述べている解離ですらない。例えば、あなたが誰かに嫌なことをされたとする。その時の「嫌だ」と感じた自分の感情を自分自身で処理する。何でもいい、他の人に話して共感してもらったり、自分の好きなことに没頭したり、文章に書き出したりして最終的に自分の中にその感情を収めておくことができるだろう。もちろん、時々はそれを思い出して嫌な気持ちになったりする。でもそれは自分自身の人格をコントロールできている証拠だといえる。その自分を守ろうとする行動は一般的な人間にとって当たり前だ。でもそれが解離性同一性障害の人間で、その「嫌だ」という感情を担う部分が自分自身から切り離されていたとしたら。主人格はその感情を自分自身で整理することができない。切り離されている別の人格が、主人格の記憶や意識の及ばないところでその痛みを負い、整理して記憶しておくのだ。

付け加えておくと解離性同一性障害は統合失調症と誤診されるケースもある。この辺りの診断は難しく本当に繊細だ。最初、ナオにこの障害について告げたとき、俺もこの辺りの知識がまったくなかった。だから簡単に調べただけで安易にナオへ話してしまったが、後からナオと共に精神障害について調べていくほど、どの症状がどの精神障害に該当するのか混乱した。そして注意深く、何度も確認したものだ。

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