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04.つける決着、呼ぶ終末

「僕はもう止まれない! 引き返すことなんてできない! だから、なんと言われようとお前を消す!」


「そうか…ならもう容赦しない。」


 不死の翼と終末の牙が今、交わる__




 遡ること少し前。ミオラとフェイトの戦いから、2日後の出来事だった。

 セイヴァーに継裔会けいえいかいからビデオが届いたのが、ことの始まり。

 司令室にいたドクター霧島と飛翔聖也ひしょうせいやは、不審に思いながらもビデオを開く。


『やあやあセイヴァーの皆さん。お前らに素敵なプレゼントをお届けするぜ。』


「ヴァルガか。プレゼントとは、何やら不穏だね。」


 その直後、画面に入ってきた人物を見て、2人は目を見開く。


「ワッツ!? こうくん!? これは一体どういうことだ!」


「一条…」


 ヴァルガの横に、一条煌がやってきたのだ。


『僕はこれまで、セイヴァーで戦ってきた。

 努力して鍛え強くなって、戦士に選ばれた時はようやく認められたと思ってた。

 …でもそんなの全部嘘だったんだ。だから、あんたらには僕を認めさせる。

 さあ見ろ、生まれ変わった僕の力を…』


 すると、画面の中の煌が怪人へと変貌した。


『この力で、リループを消す。もはやこれは正義じゃないことは分かってる。

 …安心してください。リループを倒したら、僕が戦士として戦いますので。』


 映像がぷつんと途切れた。唖然とする2人。重苦しい沈黙が続く。

 最初に口を開いたのは、聖也だった。


「一条…俺があいつを信じて託したコインが、重りとなってしまったのかもな。」


 暗い顔をする聖也に、霧島は告げた。


「私にも責任はある。ディバイドギアの性能を知りたいがあまり、彼を切り捨ててしまった。

 …とりあえず、遥斗はるとくんにこのことを話すしかない。」


 霧島は浮かない顔で、携帯を手に取った。




「緊急事態とはどういうことですか!?」


 天城遥斗あまぎはるとは、勢いよく司令室のドアを開けてそう言った。


「君に見せなければならないものがある。」


 そう言って、霧島はビデオを見せた。


「これは…セイヴァーの戦士が、裏切ったということか…」


「それは違うな、天城くん。彼は完全に悪に堕ちたわけじゃない。

 …彼がこうなったことには我々に責任がある。

 すまないが、彼を止めてくれないか。」


 聖也が遥斗に頭を下げる。遥斗は、一瞬の迷いの後、こう言った。


「…それは俺の復讐には関係ありません。俺の目的は、継裔会を潰すこと。

 あの人と戦うことに、意味はない。」


 遥斗は後ろを向き、出口の扉に手をかける。


「待ってくれ。」


 霧島の声が、遥斗の動きを止めた。


「君は本当に、復讐のために生きるつもりなのか?」


 遥斗はその言葉に思うところがあったのか、早足で霧島の方へ行き、バァンと両手で机を叩く。


「当たり前だ! …俺は絶対に結愛ゆあの仇を討つ。」


「君は無理やり復讐の道を選ぼうとしている。心を殺してね。私には、そう見えるよ。」


「説得しても無駄ですよ。俺は戦いませんから。」


 霧島の表情は、とても真剣だった。


「君が本当に復讐のためだけに生きるなら…継裔会を潰すために動くなら…

 あの時、レヴィアタンの怪人から煌くんを助ける必要はなかった。

 怪人に、街の破壊を止めるよう言う必要もない。」


「そうか…。

 復讐に燃える使命と、人を救いたいという気持ち。天城くんの中で、2つの思いが戦っているのではないか?」


「俺は、そんなこと…」


 遥斗は違うと首を振るが、目には涙が浮かんでいた。本人ですら気づいていない気持ちを、自覚した瞬間だった。

 遥斗は落ち着いて、目を背けていたことを話す。


「…あの人が俺に執着するのは、俺のせいでもあると思います。

 俺は一昨日、あの人にギアを渡して戦わせた。

 その時は怪人を倒すと息巻いていたのに、今は怪人へと成り果てている。

 ならこれは、俺のせいでもあります。」


 遥斗は覚悟を決め、前を向く。


「俺があの人…一条煌を救います。皆さんの思いも背負って、俺が必ず。」


「ああ。頼んだぞ、天城くん。」


 聖也は拳を前に突き出す。その拳に、遥斗の拳がコツンとぶつかった。




 一方、継裔会の秘密基地。

 荘厳な祭壇のあるその部屋で、ミオラ、ゼクス、ヴァルガと一条煌が話していた。


「本当に君が遥斗くんを倒せるの?」


 ミオラは心底不思議そうに聞く。


「ああ。もうあの時の僕とは違う。ヴァルガから貰ったこの力なら、リループを倒せる。」


「まさかヴァルガの持つ力の権能がここまでとは、驚きました。

 普通の人間である彼が、並大抵の神裔しんえいを超える力を手に入れるとは。」


「俺を選んだ神にも感謝しなきゃな。邪魔なリループを排除したら、世界は俺たちのものだ!」


 その言葉に、煌は苛立ちを見せる。


「…勘違いしないでほしいが、僕は継裔会に入った訳じゃない。リループを倒したら、次はお前らだ。」


「はいはーい。遥斗くんに負けないよう、せいぜい頑張りなよ?せっかく私のおもちゃを譲ってあげるんだから。」


「必ず潰すさ。…セイヴァーから連絡があった。リループとの決着をつけてくる。」


 煌はコインを握りしめ、部屋から去っていった。



 崩れた建物と、立ち入り禁止の看板が目立つ開けた場所…初めてリループとなったこの場所で、遥斗は待っていた。

 そこに、コツコツと足音を立て、両手を力強く握った煌が現れる。


「僕は努力して戦士になって、世界を救っていく…。

 そんな未来を、お前が壊したんだ。だから僕は、お前を倒して、全部取り戻す。」


 遥斗を強く睨みつけ、煌はそう告げた。


「一条煌。あなたに、世界を救う力なんてなかった。

 事実から目を背けて、俺に当たることが、戦士のやることか?」


 遥斗は冷静に返す。


「うるさい! 僕は、僕は…」


「あなたの中には、まだ正義の心があるはずだ。できればあなたを倒したくない。

 自分の行動にまだ迷いがあるのなら、戻ってきて欲しい。」


 焦る煌とは対照的に、冷静な遥斗。この事実が、煌をさらに苛立たせる。


「僕はもう止まれない! 引き返すことなんてできない! だから、なんと言われようとお前を消す!」


 自分が怪人に成り果ててしまった以上、もう後戻りはできない…煌はそう感じていた。


「そうか…ならもう容赦しない。」


 遥斗は、煌が戻って来る気がないのなら倒すと決めていた。そうすることで、正義の戦士としての彼を守ろうと。


 それ以上の言葉は不要。2人はコインを取り出した。フェニックスとフェンリルの影が睨み合う。

 煌はフェニックスと融合して怪人となり、遥斗はフェンリルのオーラを纏って戦士リループとなった。


「いくぞ…一条さん。」


 リループがグッと踏み込む。直後、一瞬で怪人の背後に回って蹴りを入れる。

 だが、怪人の全身から炎が溢れ出し、その衝撃にリループは吹っ飛ばされた。


「ははっ、これが僕の力だ!」


 怪人と化した煌の声は、いつになく明るい。

 怪人は、炎で剣を作り出し、リループへ突き刺そうとする。咄嗟にリループは距離をとった。


 レヴィアタンの力なら、水で炎を消せる。だが、リループはそれをしなかった。

 煌とレヴィアタンの戦いから、全てが始まった。レヴィアタンの力で煌を倒しても、彼は救われない。


 リループは体に力を込める。フェンリルの影が目の前に現れた。

 怪人が手を突き出すと、フェニックスの影が現れる。

 フェンリルとフェニックスの影は、互いにぶつかり合い、戦いだす。その脇で、リループと怪人…遥斗と煌も戦う。


「僕の力を思い知れ!」


 炎で作り出した無数の剣が、リループを囲む。

 怪人が拳をグッと握りしめると、全ての剣がリループへ突き刺さった。


「ぐはっ…」


 その場に倒れ込むリループ。フェンリルの影も、フェニックスの炎に燃やされて消えてしまった。


「僕の勝ちだな、リループ。お前はここで消え、僕が戦士となる。」


 そう言ってリループに近づく怪人。だがリループは諦めない。


「俺を倒してお前がセイヴァーに戻っても…誰も、誰も受け入れてくれないぞ…俺を殺せば、本当に引き返せなくなる。」


 リループは立ち上がった。


「もう僕は引き返せないんだ!」


 怪人はリループへ拳を振るう。だがその拳は、リループの前で止まった。


「なんで…倒したいと思ってたはずなのに…」


 リループは笑顔で話す。


「復讐で、心は消えない。俺もお前も、復讐に飲まれちゃいないってことだ。」


 怪人が膝をついた。


「僕は…なんのために…」


「霧島さんも聖也さんも、あなたの帰りを待ってるぞ。

 あなたを救いたいという気持ちを、俺は託されてここに来たんだ。」


 その言葉に、煌ははっとした。


「…そうだ。僕が努力してきたのは、世界を守るため。認められたいからじゃない。

 …天城遥斗、君のおかげで大事なことに気づけたよ。やっぱり君の方が、戦士に向いてるな。」


 怪人が煌の姿へと戻った。そして2人が手を繋ぐ。煌の復讐に、決着がついたのだ。


 その時だった。


「こんな茶番のために、力を与えたわけじゃねぇんだよ!」


 巨大な尾を持つ灰色の怪人…ベヒモスの力を使うヴァルガが現れた。

 ヴァルガが右手を煌に突き出すと、煌が苦しみ出す。


「お前は、リループを潰すんだろうが!」


 その瞬間、煌が怪人の姿となって苦しみだす。


「ぐっ…意識がっ…止め、て…」


 頭を抑えていた怪人の手がだらんと下がる。そして、暴れだした。


「ふははは!こいつにもはや自我はない!死ぬまで暴れ続けてもらおうか!!」


 ヴァルガは高らかにそう言い、姿を消す。


「倒すしか、ないのか…」


 リループは先程のダメージがかなり残っている様子で、もはや戦える状態では無い。それでも必死に、最後の力を振り絞る。


「アオォォーーーーン!」


 リループが遠吠えをあげると、右腕から手にかけて牙のようなものが生える。

 そして、リループの前に巨大な狼が出現した。

 それに対し、暴れ狂う怪人は全身から炎が噴き出し、リループへ迫る。

 リループは、迫りくる怪人の腹部に牙を突き刺した。巨大な狼の影が牙へと集まり、牙が大きく太くなる。


「うおおおおおおお!!!」


 リループは右手に力を込める。怪人の炎を直に浴び、それでも後退はしない。

 怪人の炎が徐々に弱くなっていった。


「ありが…とう…」


 煌のか細い声と共に、怪人の炎が完全に消える。

 その瞬間、リループも全ての力を使い果たしたのか、狼のオーラが消えて倒れた。


(これであの人を救えたのかな…復讐じゃなく、心で生きる…あっちで結愛にも、教えてやろう…)


 遥斗の意識は完全に途絶えたが、その表情は最期まで笑顔だった。



 ◆◆◆



「はっ! …はぁ、夢か。…いや、夢じゃないよな。どうやって俺はここに戻ってきたんだ?」


 見知った天井とベッドで、天城遥斗は目を覚ます。


「お兄ちゃん、まだ寝てるのー?」


 馴染みのある、されど久しい声がした。


「えっ…結愛!? 生きてるのか? …本当に、全部夢だったんだ!」


 一気に顔が明るくなる遥斗。急いでベッドから降りた。


 ガチャン。


「なにか落ちた…? え、これって…」


 ベッドから落ちた天秤型デバイス、ディバイドギアを見て、遥斗は目を丸くするのだった。





【所持コインリスト】


天城遥斗…フェンリル、レヴィアタン、ケルベロス


一条煌…フェニックス

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