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03.不死鳥、地に落ちる

「俺のこと、信じてもらえましたか?」


 セイヴァー司令室に淡々とした声が響く。以前の戦いから2日後。天城遥斗あまぎはるとは、ドクター霧島を問い詰めていた。


「君のファザーと君については分からないことが多い。

 …だが、2度も怪人を倒したことは認めよう。情報を話すよ。何が知りたい?」


 霧島も淡々と返した。


「本当ですか! …神裔しんえいとはなんなのですか? 継裔会けいえいかいとの関係は? 継裔会の目的は?」


 霧島に詰め寄る遥斗。


「ワーオ、いっぺんに聞きすぎだよ。君のクエスチョンに対するアンサーはちゃんとするから安心してくれたまえ。

 …かつて、この世界には2種類の人類がいた。自然に誕生した人間と呼ばれる存在と、神がその手で作り出した神裔と呼ばれる存在だ。」


 遥斗は訝しんだ。


「…そんなこと、一度も聞いた事ありません。」


「まあそうだろうね。かつて神裔は人間の上に立ち、支配していた。

 だがそれはもはや過去の話だ。長い時を経て、神裔と人間の壁は無くなっていき、現代に生きるほとんどの人類はどちらの血も流れている。

 そして継裔会は、現代に残る純血の神裔たちの集まりだ。その目的は…」


「…再び世界を支配すること、ですか?」


「イグザクトリー。鋭いね。

 純血の神裔は、生まれながらに神獣の加護をもらう。その証として、1人1枚のコインが与えられる。」


「じゃあ、このコインって…」


 遥斗はフェンリルのコインを取り出した。


「そのコインを君のファザーが持っていたとするならば、君のファザーは純血の神裔ということになる。

 ただ、純血の神裔を親に持つ君がこのことを知らなかったとは思えない。

 彼もまた誰かからコインを貰ったのだろうか?」


 遥斗は有り得ないと感じた。


「父ちゃんは普通の親父でした。神裔なわけがないです。

 …このコインには、どんな力があるのですか? 神獣の加護とは一体…」


「このコインには、神獣が眠っている。

 だが通常の人間は、その力を使えない。

 神裔も、1部しか扱えないみたいだね。加護と言っても形式的なものなようだ。

 だがその力を、人の手で扱えるようにしたのが…」


「ディバイドギア、ですね。」


「ザッツライト! 継裔会がどのようにしてコインの力を完全解放しているかは分からないが、少なくともこのディバイドギアは最高傑作だ。

 君自身が生まれながらにコインを持っていないということは、君は純血ではない。

 そんな君でもコインの力を扱い、怪人を倒せた。純血の神裔に匹敵するほどの力が使えるとは、さすが私だ。」


「このギアを使ってたもう1人の戦士、フェイトでしたっけ? あの人は負けていましたけどね…」


「そこなんだよ。君とこうくんの差がなんなのか。おそらく君のファザーが神裔で、その血を半分引いている君だからこそあの力が扱える…というのが、私の考察だ。」


「父ちゃんが、本当に神裔なのか…? 神裔ってことは、継裔会…?」


「そうとは限らないぞ。」


 威厳のある声が突如響いた。


「ワーオ! …怪我は大丈夫なのかい? 聖也せいや。」


 ローブを身に纏った赤髪の男、飛翔聖也ひしょうせいやが司令室へ入ってきた。


「ああ、もう大丈夫だ。まだ戦士としては戦えないみたいだがな。

 そこの君、天城くんだったかな。

 …神裔と人間の壁は1度無くなっている。手を取り合えるはずなんだ。全ての神裔が継裔会に手を貸しているわけではない。」


 聖也は諭すような目で遥斗を見る。まるで自分もそう信じ込もうとしているようだ。


「その通りさ。聖也だって、純血の神裔でありながらセイヴァーに味方している。」


「神裔だろうが人間だろうが関係ないさ。天城くん。伝説の戦士、リループの名を冠する君なら、きっと世界を救える。よろしく頼むぞ。」


「リループとは、そんなにレジェンドなのかい? 詳しく聞かせてくれよ、聖也。」


「それは…」


『ビー、ビー、エマージェンシー、エマージェンシー』


「オーマイ、怪人だ。遥斗くん、頼んだよ。」


「分かりました。すぐに向かいます。情報ありがとうございました!」


 遥斗は早足に駆けていった。


「…彼、相当無理しているように見えるな。」


 走り去る遥斗の背中を見て、聖也はそう呟くのだった。




「街を壊すな、化け物!」


 辿り着いた遥斗は、そう告げた。


「支配が目的なら、壊す必要はないだろ!」


 その声を聞き、怪人は遥斗へ目を向ける。


「ほう。お主がリループとやらか。」


 怪人が構えをとる。両者の間には、緊迫した空気が漂っていた。


「あらー? やっと来たのねー、遥斗くん。」


 ほんわかとした声が、空気を破る。声の方には、1人の女性がいた。


「お前は! まさか…」


 遥斗は声の主を見て、驚きを見せる。深い緑と黒のドレスに身を包んだ三つ編みの女性。その姿は、遥斗がつい最近画面で見たものだった。


「継裔会の、ミオラ…」


 妖艶な笑みを浮かべる女性、ミオラははーいと手を振り、その後怪人に告げる。


「グリフォン、戻ってなさい。今日は私が遥斗くんと遊んでみるわ。」


「承知致しました、ミオラ様。どうかお怪我のないように。」


「あらー、そんな冗談言うタイプだったかしら? 私に怪我なんて、1番ありえないことよ。」


「これは失礼致しました。では、私はこれで。」


 怪人は翼を広げると、空へと消えていった。


「さて、遊びましょう? 遥斗くん。

 この前はとーってもかっこいい龍を使ってて凄かったわ。もう一度見せてちょうだい。」


「見ていたのか? 俺の名前まで知られているとは…悪質なストーカーは、すぐに排除しないとな。」


 遥斗はディバイドギアを取り出す。その瞬間、ちょっと待ったと声が響いた。


「また横槍か…今度はなんだ?」


 声の主は、一条煌だった。


「リループ、僕にやらせてほしい。僕にだって怪人を倒せると証明したいんだ。」


 遥斗は鬱陶しく感じた。


「悪いけど俺がやります。俺はこの手で組織を潰さなきゃいけないんです。だから…」


 煌の願いを断ろうとした時、ある思考が遥斗をよぎった。

 もし遥斗の父が本当に神裔だったのなら、リループとフェイトの力の差は大きいはず。なら、フェイトの戦闘を見てみる価値はある。


「分かりました。あなたにギアを貸します。絶対倒してくださいね。」


 煌の顔が明るくなる。


「本当か! このチャンス、無駄にはしない!」


 ギアを受け取った煌は、フェニックスコインを取り出すと、天秤の右にセットした。天秤がググッと右に傾く。

 煌は目を閉じ、深呼吸。そして目を開ける。すると天秤は徐々に左に戻っていき…釣り合った。赤く燃える不死鳥の影が煌を包む。


「なーんだ。遥斗くん相手じゃないんだ。仕方ないなー。誰だか知らないけど、私を楽しませてね?」


 ミオラがコインを弾くと、コインの中から無数の頭を持つ蛇の影が現れる。そしてその影が、まるで吸収されたかのようにミオラに集まって消えた。

 その瞬間、ミオラの胸の辺りから実体化した無数の蛇が現れ、ミオラに絡みつく。そうしてミオラは、怪人へと変貌した。


「じゃあ、早速いくわよ。」


 ミオラの腕から蛇が触手のように現れ、フェイトへと向かった。


 フェイトは炎の玉を投げつける。だが、それはミオラに全く効かなかった。

 炎を食らってなお、1ミリも動きが鈍らずに、腕から伸びた蛇がフェイトを絡め取る。


「ぐっ…」


 蛇はフェイトを強く締め上げ離さない。フェイトは必死にもがく。


「負け…られない…」


 フェイトは体に力を込める。するとフェイトの真上に巨大なフェニックスの影が。影はミオラ目掛けて羽ばたいた。

 ミオラはフェイトを離し、防御姿勢を取る。だが、フェニックスの影がミオラにぶつかる直前、消滅した。


「!? なんで…」


 攻撃が決まらないことに驚きを見せるフェイト。


「どうやら、力不足みたいね!」


 再び触手のような蛇がフェイトに迫る。だがそれを、フェイトは左手で掴んだ。


「2度も同じ手に乗るほど、僕は弱くない!」


 左手を引き、ミオラを引っ張るフェイト。予想外の行動だったのか、ミオラは簡単に引き寄せられる。


「これで終わりだ!」


 フェイトの右手から、炎で作り上げた剣が現れる。

 引っ張ったミオラの腹に、剣が突き刺さった。ミオラは呆気なく倒れた。


「やった…僕も怪人を倒せた!」


 喜ぶフェイト。だがその直後に…


「誰が倒されたって?」


 ミオラが立ちあがる。刺さった剣を抜き取ると、その傷は一瞬で修復した。


「ごめんね。私、怪我はできないの。」


 その直後、4匹の蛇がフェイトの四肢を絡め取る。フェイトは身動きが取れなくなっていた。

 そこにゆっくり近づくミオラ。


「もうチェックメイト? はぁ、つまんなーい。」


 ミオラはフェイトにとどめを刺すわけでもなく、フェイトの右上に浮いているディバイドギアを手に取る。

 フェニックスコインを外して投げ捨てると、ギアを遥斗に投げ渡した。


「遥斗くんなら、私を楽しませてくれるよね。こんなのより全然強いし。」


「ああ、速攻でお前を消してやる。」


 遥斗はフェンリルコインを手に取り、ギアに装填しようとした。その時…


「こんな所で油を売っていたのですね、ミオラ。」


 1人の青年が現れた。青のロングコートに、金のマフラーをした男だ。


「急になに? ゼクス。」


 ミオラはこの男をゼクスと呼んだ。ゼクスは薄ら笑いを浮かべ、優しい口調でミオラに告げる。


「そろそろ帰りましょう。次の作戦が動きますよ。」


 ミオラは人の姿へと戻った。すると煌を縛る蛇も消え、煌は地面に倒れ込む。


「えー、もう?しょーがないなぁ…遥斗くん、次こそは楽しく遊ぼうね。」


 そう言うと2人は黒いモヤに包まれ、姿を消した。


「待て! 2人とも俺と戦え!」


 遥斗は叫ぶが、もう2人の影は無かった。


「これなら俺が戦っとけばよかったな…」


 そう呟き、遥斗は去っていった。




 残された煌は、地面を這ってフェニックスコインを掴む。


「くそ! なんで僕は弱いんだ!

 …そうだ、きっと焦ってたんだ。僕が弱いんじゃない。

 あんなやつがいるから…あんなやつがいるから! 僕は見捨てられたんだ! あいつさえいなければ、僕だって強く戦えるはずだ…」


 そこに、灰色のタンクトップを着た大柄の男、ヴァルガが現れる。


「そうだ。リループを消せば、お前は強くなれる。俺と来る気になったか?」


 ヴァルガは煌へ手を伸ばした。


「ヴァルガ…。もう誰でもいい。例え悪魔の手を取ろうとも、僕は力を手に入れる。

 僕のこれまでの努力は無駄じゃなかったと、証明してみせる。」


 煌はヴァルガの手を取り、立ち上がる。

 その瞬間、煌の手の中のフェニックスコインが紫に光った。


「ならば、お前の望む力を与えよう。そのコインを、こちらに。」


 煌はヴァルガにコインを差し出す。ヴァルガがそこに手をかざすと、コインが浮かび上がった。

 コインからフェニックスの影が現れる。


「ふん!」


 ヴァルガが気合いの入った声をだし、かざした手を握りしめた。

 するとフェニックスの影が苦しみだし、煌と重なった。煌の体がじわじわと変化しだし、異形へと近づいていく。

 そしてフェニックスの影が完全に消えたと思ったら、そこにはヴァルガと、1人の怪人が立っていた。

 血のように暗い赤色と恨みに満ちた紫が全身に走り、背中の翼は折れている…


「これなら…リループを消せる…」


 そこに立つのは正義の戦士ではなく、嫉妬に駆られた化け物であった。





【所持コインリスト】


天城遥斗…フェンリル、レヴィアタン、ケルベロス


一条煌…フェニックス

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