02.激流の水龍、傾く天秤
「なぜ君が、ゴズコインを持っている?」
セイヴァーの司令室で、ドクター霧島は遥斗に問いかける。いつもとは違い、真剣な面持ちだ。
「このコインには、神獣フェンリルの力が宿っている。神裔にしか持ちえないものだ。なぜ君がこれを持ってるんだ?」
「神裔…? このコインは、父ちゃんの形見なんです。5年前、父ちゃんが死ぬ前に俺にくれた、大切なコインで俺のお守りです。」
「形見…君の父は、ただ者ではなかったようだね。」
「そうですか? 普通の親父でしたけどね…それより、俺はやつらを倒さなければならないんです。知ってる情報を教えてください。」
「君が信頼に足る人物かどうか見極めるまでは、機密情報を教える訳にはいかな…」
ガタンと音がして、勢いよく扉が開く。一条煌が走って入ってきた。
「はぁ…はぁ…僕のディバイドギアを返してくれ!」
必死な声で煌はそう言った。
「ノーノーノー。待ちたまえ煌くん。ディバイドギアは、ひとまずここにいる彼…遥斗くんに持たせることにするよ。
遥斗くん、君が戦士として戦って、信頼できる人間だと証明してみせてくれ。」
「分かりました。どの道やつらを潰すことに変わりはありません。信頼できたら情報をくださいね。」
「ちょっと待ってくださいよ!! 彼は一般人ですよ! 一般人に我々の未来がかかった装備を渡すと言うのですか? ありえない!」
「ストーップ。落ち着きたまえ。煌くん、君の力じゃ継裔会に勝てない。
現状奴らに対抗できるのは、ディバイドギアを使いこなし怪人を倒した遥斗くんだけだ。
例え一般人だろうと、怪人を倒せる唯一の人間を手放す訳にはいかないだろう。
それに、この装備を使う以上、私からは逃げられないさ。」
霧島はふっと笑う。それを聞いた煌は、焦りの表情をみせた。
「僕にもう一度チャンスをください! 先ほどは3体相手に手こずっただけです。次は絶対倒します!」
「君はこれまで通り部隊長として頑張ってくれ。フェニックスコインは回収させてもらうよ。」
霧島が手を差し出す。だが、煌はコインを渡さない。
「そんな…僕が弱いから、もう用済みってことですか? なら僕は強くなります。強くなって、僕が戦士に相応しいと認めさせます!」
煌はフェニックスコインを握りしめたまま、セイヴァーを後にした。霧島は追う気はないようだ。
「やれやれ、困った男だ。さて遥斗くん、戦士としての君の活躍に期待してるよ。」
「やつらが現れたら、すぐに教えてください。」
その言葉を残し、遥斗もセイヴァーを後にしたのだった。
1人部屋に残された霧島は、怪しい笑みを浮かべる。
「私の研究が、ようやく形になった。」
その夜。天城遥斗は、家へ戻っていた。遥斗の家は、朝となにも変わっていない。幸いこの区画は被害にあわなかったようだ。
もしも今朝結愛が家にいたままだったら、きっと平和な日常が続いていただろう。
遥斗はずっとパソコンに向き合い、継裔会について調べていた。
「継裔会…そのトップ、俺が潰すべき相手はミオラ、ヴァルガ、ゼクスの3人か。
神裔という言葉についてはヒットなし…セイヴァーから聞く必要があるみたいだな。やつらのアジトは一体どこにあるんだ?」
遥斗は一晩中調べ続けた。
一方、一条煌は暗い夜道をただ歩いていた。
強くなりたい、なるためにはどうしたら良いかと思い悩む。
「どうすれば、力が手に入る…?」
自然と溢れた言葉だった。だがその言葉に食いついたものがいる。
「お前、力が欲しいんだって?俺ならお前に力を与えられる。」
灰色のタンクトップを着た大柄の男が煌の前に現れ、そう告げた。
「何者だ! …お前は!?」
煌は咄嗟に身構える。それに対し、大柄の男はニヤリと笑った。
「俺はヴァルガ。お前、昼間に戦ってた弱っちい戦士だろ?
運良く生きていたようだが、こんな所で1人でいるとは、クビにでもなったか?」
「ヴァルガ…継裔会が僕に何の用だ。消しにでも来たのか?」
ヴァルガは大きく笑う。
「はっはっは。消すだって? それほどの価値はお前にはない。
言っただろ? 俺ならお前を強くできる。俺と共に来ないか?」
それを聞いた煌は激昂する。
「ふざけるな! 僕が継裔会なんかと手を組む訳がないだろう! ここでお前を倒す!」
煌はヴァルガへと殴り掛かる。だがその拳はヴァルガに片手で受け止められた。
「お前がリループを倒せ。そうすれば、お前が戦士に相応しいと証明される。
俺はいつでも、お前の力になるぜ。」
ヴァルガは煌の手を振り払い、暗闇の中へ消えていった。
「あいつを…倒せば…」
煌の手には力がこもっていた。
『プルルルル、プルルルル…』
翌日昼、机に突っ伏して寝ていた遥斗は着信音で目を覚ます。
「はい…天城です…」
『遥斗くん、お疲れのところ悪いが緊急事態だ。怪人が海沿いの街で暴れてるようだ。位置情報を転送するよ。直ちに向かってくれ。』
「はっ。そうだ、俺は……わかりました。すぐ行きます!」
遥斗はギアを手に取り、家を飛び出た。
「リループはどこだ!」
怪人が街で暴れている。頭と両手、それぞれに犬のような顔があり、両手の牙で建物に喰らいついている。そこに走ってきた遥斗が到着した。
「はぁ…自転車買っとかないとな…おいお前! 街を破壊するな!」
怪人は遥斗の方を見る。
「ならリループを呼べ! 継裔会の脅威となるやつを倒すのだ!」
「倒されるのはそっちだっての…」
遥斗はディバイドギアを取り出し、右にフェンリルのコインをはめる。天秤が右に傾いた。
「俺がそのリループってやつらしい。俺と戦え! 化け物!」
天秤が左に傾いていき、完全に釣り合う。白い狼の影が遥斗を包む。
それと同時に遥斗は走り、怪人へ1発蹴りを入れる。怪人はそれを腕でガードした。
リループはグッと踏み込み、高速で怪人の後ろへ回る。そして後ろから再び蹴り。だがそれも、腕でガードされた。
「甘いな! 地獄の番犬、3つの頭を持つケルベロスの力を纏った我に死角はないぞ!」
そういうと、ガードしたのとは逆の手でリループの腕に噛み付く。そして離さない。
「これで貴様の動きは封じた。継裔会のため、死んでもらうぞリループ!」
怪人の蛇のようなしっぽがリループへと迫る。
「ぐっ…あれに噛まれたらヤバそうだな。なんとか抜け出さなきゃ。」
リループは体に力を込める。すると狼の影が、怪人の背後へ現れた。
「死角はないと言っているだろ!」
怪人はその狼の方を向き、リループを噛み付いてない方の腕で対応しようとする。
「今だ!」
注意が向いてないその隙に、リループはなんとか怪人の腕を払うことに成功する。その後すぐに距離を置いた。
「やつとフェンリルじゃ相性が悪いみたいだ…そうだ、フェンリル以外の力なら…」
リループは何か思いついた様子で、コインを取り出す。
コインには、龍が描かれていた。先日のレヴィアタンの怪人がドロップしたものだ。
ディバイドギアからフェンリルのコインを外し、レヴィアタンのコインをはめた。
天秤は一度右に傾いたが、徐々に釣り合っていく。
そして完全に釣り合った時、狼の影が消え、1匹の青い龍の影がリループを包んだ。
「いくぞ、化け物!」
リループが右手を突き出すと、激流のように水が吹き出す。
その水の勢いに怪人は押し出され、街のはずれの海岸へたどり着いた。
「犬は犬かきでもしてろ。」
リループがそう言うと、海が激しい波を打ち、怪人を飲み込んだ。怪人は水の中で、思うように身動きがとれない様子だ。
そこに、素早く動く龍の影が。龍はしっぽで怪人を弾き、怪人は海岸へと打ち上げられる。そこにリループが待っていた。
「これで終わりだ!」
水でできた槍を怪人の腹へと突き刺す。
「まさか、これほどとは…ぐああああああ!」
怪人は消滅し、1枚のコインが残った。リループはそのコインを拾うと、ギアからレヴィアタンコインを抜き取った。
「別のコインも使えて助かったな…敵との相性は、かなり大事みたいだ。」
遥斗はコインを弾き、掴む。
「とりあえず、これで信頼は得られただろうか…継裔会について聞きに行こう。」
遥斗の足は、セイヴァーへと向かった。
「ふーん、彼がリループね…なかなかやるじゃない。」
無数の蛇の影が、その様子を見つめていた。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、レヴィアタン、ケルベロス
一条煌…フェニックス




