37.笑 顔
「世界を、壊すな!」
神と三上の壮絶な戦い。その間に、リループ・ラグナロクは割って入った。
「死に損ないが。邪魔をしないでもらえるかな?」
三上はそう言うと鎌を振るう。
「危ない!」
神がリループ・ラグナロクの前に立ち、半透明のバリアを展開し、防ぐ。
その衝撃波で、周囲の家が吹き飛んだ。
「大丈夫? 危ないじゃないか。」
神はリループ・ラグナロクに笑いかける。リループ・ラグナロクは神を睨み、反発した。
「お前らが戦うと、世界は滅ぶ。だから、戦うのは辞めてくれ。」
それを聞いて、神は声を上げて笑った。
「あはは、大丈夫だよ。あいつを殺せば、残ったエネルギーで1度だけ時間を戻せる。そしたら全部元通り。」
神は笑った。それを聞いたリループ・ラグナロクは、狼牙棒を手に取った。
「なら、俺が三上を倒す。神様がやられると世界が戻せなくなるかもしれないから、黙って見ててくれ。」
意外にも、神はあっさり引き下がった。
「僕がやられる訳ないと思うけど、愛しい我が子の頼みなら仕方ないね。」
これで、リループ・ラグナロクと、怪人となった三上の一騎打ち。
「三上! お前を倒す!」
リループ・ラグナロクが狼牙棒を振るう。その瞬間、狼牙棒は巨大化する。
三上は、それに対して鎌で迎え撃った。鎌が狼牙棒にぶつかると、狼牙棒が砕ける。
「アダマスで出来たこの鎌に、切れないものはない!」
アダマス…あらゆるものを切り裂く強度を持つ、不壊の金属。それで出来た大きな鎌を、更に三上は振るう。
「くっ…」
リループ・ラグナロクは咄嗟に空間の裂け目を作る。その裂け目すら、切り裂かれた。
「無駄だ!」
更に鎌で連撃する三上。その攻撃が、リループ・ラグナロクに直撃した。
「ぐはっ!」
リループ・ラグナロクは吹き飛ばされ、地面に這い蹲る。
たった一撃で、この有様だ。
「馬鹿な。確かに切り裂いたはず…まだ生きてるとはな。」
三上の鎌は、あらゆるものを切り裂ける。少し掠っただけで神が傷ついた程の代物だ。
それが直撃したリループ・ラグナロクは、真っ二つになってもおかしくなかった。
「なんとか…な。」
リループ・ラグナロクの手には、ケルベロスコインが握られていた。
三上に切り裂かれる直前、ラグナロクハウラーにケルベロスコインを喰らわせた。そして咄嗟に犬を呼び出し、盾にしたのだった。
だが、それでもリループ・ラグナロクは衝撃で飛ばされ、もはや動くこともできない。
「しぶとい。だが、すぐに楽にしてやろう。」
三上は鎌を握ると、リループ・ラグナロクへ迫る。
更に、脅威はそれだけではない。今や地上には、神の血から生まれた魑魅魍魎が蠢いている。
圧倒的、無力。もはや、何もできない。
世界はもはや壊滅状態だ。それを引き起こした元凶を前に、ボロボロの体は言うことを聞かなかった。
父を殺し、多くの神裔を殺し、人間と神裔の共存を壊し、聖也やゼクスを世界から消した男を前に…
『絶対、帰ってきてね。』
遥斗の心に、ある言葉が流れる。脳裏に、帰りを待つ結愛の姿が浮かんだ。
「負け、られない…!」
その時、4枚のコインが現れた。朱雀、玄武、青龍、白虎…四聖獣のコインだ。
そして、ラグナロクハウラーが動き出し、それらを喰らう。
「うおおおおおおおおお!!!!」
リループ・ラグナロクは声を上げ、立ち上がる。右手にはエクリブリアムが握られている。
「力を、貸してくれ!!」
リループ・ラグナロクは叫ぶ。すると、エクリブリアムのコイン装填部に、ラグナロクハウラーが合体する。
エクリブリアムから実体化した黄龍が出現。そして、四聖獣の4色のオーラを纏ったフェンリルも現れた。
『手を貸そう。天城遥斗よ。』
黄龍はそう言った。
『ああ。それにあいつは気に食わん。』
フェンリルも言葉を発する。
「絶対に、帰るんだ!」
凄まじい衝撃波が、天へと広がった。
黄龍とフェンリルが三上へと噛み付き、そこにリループ・ラグナロクはエクリブリアムを投げ飛ばす。
エクリブリアムが、三上に突き刺さった。
「ぐっ。こんなことまで、出来るとは…」
三上が、爆散した。リループ・ラグナロクはその姿を維持できなくなり、人間の姿へと戻ると倒れ込む。
「勝て、た…」
遥斗の顔には笑顔が浮かんでいる。
「そう簡単にやられるとでも?」
その瞬間、広がった爆発が収束する。まるで逆再生のようだ。
そして、傷1つない三上が出現した。
「時の権能を持った私は、不死身だよ。」
シュンッ
その音と共に、三上は姿を消した。
まだ、終わっていない…
「うーん、困った力だ。自分自身の時間を戻すとは…」
神は、遥斗の元へ降りるとそう言った。そして遥斗に手を差し伸べる。
「あいつはただの人間。神の力を消費し切ると権能は使えなくなると思うから、もう後は無いはずだよ。」
神はキリッとした顔でそう言う。遥斗は、神の手を握り立ち上がった。
「つまり、次に全てを賭けてくるはず。その時は、僕も戦うからね!」
そう言うと、神も消えた。
遥斗は、周囲を見渡す。
魑魅魍魎たちによって破壊される街。セイヴァーも崩壊している。
「帰らないと…」
遥斗はそう言うと、歩き出した。
「お兄ちゃん! 大丈夫?」
結愛は、ボロボロになって帰ってきた遥斗を見てそう言った。
世界各国が更地になり、近くの都市では化け物が蠢いていることはラジオで知っている。だが、結愛は遥斗の帰りを待ち続けていた。
「…ああ。世界は、今どうなってる?」
遥斗はそう聞いた。神と三上の戦いは、想像を絶するほどの被害をもたらした事だろう。
「もう、だめみたい。お兄ちゃん、何か知ってるんでしょ!なんでこんな、こんなことに…」
結愛は、泣いていた。完全に絶望し切った表情だ。
遥斗はそれを見て、ある決意をする。
それはずっと前、青龍の試練で決めたこと。
「結愛…全部、話すよ。」
遥斗の口から、結愛にこれまでの事が明かされる。
父親が戦士だったこと、そして自分も戦士になったこと、何度も同じ時間を繰り返していること…そして、世界のためにこれから戦わなきゃいけないこと。
結愛は、ゆっくりそれらを聞いた。にわかには信じられないことだが、それでも信じる。
目の前にいる遥斗が、大きな覚悟を背負っている。そのことを、感じ取っていたから。
「お兄ちゃんじゃなきゃ、だめなの? お兄ちゃん1人で、あんな化け物に立ち向かって!」
信じることはできても、受け入れることはまた別だ。大好きな自分の兄が、こんなにボロボロになってまで戦う。それを、認めることはできなかった。
「結愛…そんなに悲しそうな顔をするな。」
遥斗は、笑っていた。こんなに絶望的な状況で、一体なぜ笑うことができるのか、結愛には分からなかった。
「…例えどんなに苦しくても、諦めずに立ち向かえば、世界はきっと良くなる。だから、平和な世界を夢見て笑うんだ。」
遥斗は思い出す。
フェニックス怪人との戦いで、死にそうになっても遥斗は煌に語りかけた。その結果、煌の中の正義感を知り、タイムリープを重ねて相棒になれた。
テューポーン怪人との戦いで、1度は惨敗した。だが諦めずに立ち向かった結果、陽介を救い、人間と神裔の共存が実現した。
今も、世界は絶望的な状況だ。あらゆる国が滅んだ、紛れもない終末。それでも遥斗は諦めずに戦う。
例え何度も殺され続ける地獄を経験しても、決して諦めなかった。
「笑う…うん、そうだね。」
結愛はそう言って、笑顔を作ろうとする。だが、上手く笑えなかった。
遥斗は、それを見て感じる。笑顔を守ると決めたはずなのに、結愛の笑顔すら守れていない。
まずは、目の前の妹を笑顔にしてやろうと決めた。
「よし、兄ちゃん特製味噌スープを作ってやる。これを飲めば、心も体もほっかほかだ。」
遥斗は、キッチンへと向かった。結愛も、涙の混じった声で返す。
「お兄ちゃん、いっつもそればっかり…でも、これが無いとね。」
非日常的な世界の中で行われる、たった1つの日常。この日常を大切にしたいと、遥斗は改めて思った。
2人は、食卓を囲み味噌汁を啜る。結愛は、安心からか涙を流した。でもその顔は、笑顔を浮かべている。
その時。
ドゴォーンと、どこからか音が響いた。恐らく、神と三上の戦いが始まったのだろう。
「俺、行かなくちゃ。世界を救いに。」
遥斗は、味噌汁を飲み干すと立ち上がる。結愛は、そんな遥斗を見つめた。
「お兄ちゃん、頑張ってね。これ、お守り。きっと、お父さんとお母さんが見ててくれるから。」
結愛は遥斗にお守りを差し出した。
5年前、父親から貰ったお守り。このお守りは、元々母親が持っていたものだと聞いていた。
結愛はそれを、いつも肌身離さず持ち歩いている。
「ありがとう、結愛。よーし、ちょっくら世界を救ってくるか!」
遥斗は、わざと明るくそう言った。そして、家を後にする。
赤い空、割れる大地、咆哮飛び交う魑魅魍魎。全ての記憶を取り戻した青年は、再び起こった終末を前に、立ち上がる。
覚悟を瞳に宿した青年…天城遥斗の手の中には、結愛から託された、大切なお守りが握られていた。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、キマイラ、朱雀、玄武、青龍、白虎、ジズ、ペガサス




