34.悲 願
リループ・ラグナロク、フェイト、ルーサス…それから街のあらゆるものの動きが止まっている。
その中で唯一動いているのが、三上蒼一だった。
「さて、これで君の役目も終わった。」
三上はそう言うと、ルーサスの元からアセンションギアを奪った。
そして、ゴズコインを入れていく。
1枚、2枚、3枚…数え切れないほどのゴズコインを入れる。
「最後に、感謝を伝えよう。」
三上がゼクスの肩に触れた。ゼクスが動き出す。
「はっ…これは、時の権能…先生、助けに来てくれたのですか?」
ゼクスは三上を見て、笑みを溢す。
「ゼクス、君が完全に神に近づいてくれたお陰で、ついに降臨の準備が整った!感謝するよ。」
三上はゼクスにそう言いながら、大量のコインをアセンションギアへ投入していく。
「降臨? まさか、私を器にするつもりですか?冗談ですよね。」
ゼクスは若干の恐れを抱きながらそう言った。三上はコインを入れながら話す。
「君はこれまでよく働いてくれたね。最後の仕事は、神の器となることだ。」
三上も笑ってゼクスへ語った。
「君を拾ったその日から、いつか器にすることを考えていたよ。そのために神についての知識を与え、神になることを意識させてきた。
さあ、君も喜べ。悲願が果たされる時だ!」
三上は、全てのコインを投入した。そして、ギアの紐を揺らす。
「待ってください! 先生! 私は器ではなく、神になる! …私を育て、共に過ごしたあの時間は、全部嘘だったのですか?」
ゼクスの声が震えていた。ゼクスの脳裏には、ある情景が浮かんでいる。
霧島と、喧嘩しながらも共に神について話し合った幼少期の記憶。
神について知る度に、三上は嬉しそうに笑っていた。
もっと知りたいと願うようになり、知の権能を手に入れた時の三上の喜ぶ顔を見ると、自分も嬉しかった。
三上の期待に応えるため、神になると決めた。
「いや、本気で嬉しかったよ。君が器となる日をどれだけ待ちわびたことか。」
大量の神獣の影が、ゼクスにまとわりつく。そして光の柱がゼクスを包み込む。
「私はただ、貴方と…」
その言葉を言い終える前に、ゼクスは消滅した。光の柱は消え、神獣の影もゼクスと共に消える。
「さあ、神の降臨だ!」
三上は高らかに宣言する。…だが、何も起こらなかった。
「…まあいい、神は確かに降臨した。後は、見つけ出すのみ。」
三上がそう言うと、時が動き出す。リループ・ラグナロクもフェイトも、動けるようになった。
「いくぞ! …って、三上!? あれ、ゼクスは…」
フェイトは困惑した。何が起きたか分からない、というようだ。
「ゼクスは…死んだ。三上が裏切ったんだ。」
リループ・ラグナロクは静かにそう言う。体こそ動けなかったが、確かにその目で見た。
「ほう、止まった時の中でも意識を保てるとは…さすが時の権能の保持者だ。」
三上は感心する。そして、右手を突き出した。
「これまで君の権能を利用させてもらったよ。タイムリープの引き金が死という不完全なものだけどね。…そして、もはやその必要もない。」
三上が手に力を込めると、リループ・ラグナロクの胸の辺りが光り出した。
だがリループ・ラグナロクが手を振るうと、その光が消える。
「フェンリルの力は邪魔だな。だが、逆に君の死を利用して神を誘い出すというのも手だ。
では、また近い未来に会おう。」
それだけ言うと、三上は去ろうとする。
「待て!」
リループ・ラグナロクはそう言うと、高速で迫りエクリブリアムで三上を切り裂いた。
切り裂かれた三上は、すぐに消える。
「幻影、だったのか…」
ハウラーをコインに戻し、人間へと戻った遥斗はそう言った。確かに切り裂いたが、感触はない。
地面には、アセンションギアが転がっている。三上がいれた大量のコインは消滅したが、ペガサスだけが残っていた。
「ゼクスまで利用するなんて…三上、あいつだけは許せない。」
ペガサスコインを拾った遥斗は、そう感じた。
30年前に遥斗の母を利用して神を降臨させようとしたのも、5年前に多くの神裔と遥斗の父を殺したのも、そしてセイヴァーと継裔会を作り戦わせたのも、全ては三上の仕業だ。
煌も、三上を倒すと決意する。
自分が手にかけてしまった和成は、神裔の笑顔のために戦っていた。
ゼクスが三上に利用されてきたように、自分も三上に利用されていた。
そして、アセンションギア…自分が忘れてしまったという、大切な人。
彼らのためにも、必ず三上を倒す。
遥斗と煌は、共にセイヴァーへと戻る。
セイヴァー本部 司令室。
2人は、三上を倒す作戦を考えていた。
「三上は、時を止める力があった。やつも時の権能を持っている可能性が高い。」
遥斗は分析する。そこに霧島が反応した。
「先生が権能を持っていたとしても、恐らく扱えないはずだ。なにせ、先生は純血の人間だからね。」
霧島はパソコンを操作しながらそう言った。
「純血の人間…そうか、純血の神裔がいるなら、純血の人間がいてもおかしくない。」
煌は気づいた。霧島は、続ける。
「権能を扱うためには、神裔の持つ血…神の力が必要だ。きっと先生は、密かにその力を集めていたんだろう。」
三上は、神裔の持つ力を集めていた。5年前に多くの神裔を殺していたのも、セイヴァーの戦士に継裔会の神裔を倒させていたのも、全てそのためだとしたら納得がいく。
「ゼクスを生贄に、三上は神を降臨させた。一体なぜ、降臨させる必要があったのだろう。」
遥斗はそう言う。もし三上の目的が時の権能を扱うことなら、わざわざゼクスと手を組む必要もない。
「ゼクスとやらは知らないけど、先生の目的は…神を殺すことだ。」
霧島は、そう言った。アセンションギアの代償により、ゼクスの記憶は失っている。
「「神を殺すこと…?」」
遥斗と煌の声が重なった。その時だ。
パンッ
乾いた音が響く。そして、霧島が血を流して倒れた。
「少々話しすぎだよ、霧島。」
司令室のドアには、拳銃を持った三上が立っていた。
セイヴァーの隊員の中には、創設者の三上を悪だと信じないものも大勢いた。その者たちの手を借りて、ここまで辿り着いたのだろう。
「三上! よくも!」
煌が叫ぶ。だが、三上はそれを無視して遥斗に話しかける。
「遥斗くん、君を使わせてもらうよ。」
パンッ
再び、乾いた音が響く。だが遥斗は咄嗟にフェンリルを呼び出し、銃弾を弾いた。
『人の武器など俺には通用しないぞ。』
フェンリルはそう言うと、三上に襲いかかろうとする。
「なかなか威勢のいい犬だ。」
三上がそう言うと、フェンリルの動きが止まった。フェンリルだけではない。全ての動きが止まっている。
「あまり神の力を消費したくないのだが、仕方ない。神を呼び出すために、これから君には何度も死んでもらう。」
三上はそう言うと、遥斗へ近づいた。拳銃の銃口が、遥斗の胸へピタリとつく。
(ふざけるな、三上…!)
遥斗は心でそう思ったが、口には出せない。完全に動きが止まっているのだ。
パンッ
3度目の銃声。そして、時が動き出した。
「さようなら、この時間よ。」
三上はそう呟く。遥斗は、鮮やかな血を流して倒れた。
せっかく掴んだ平和な世界。それを一瞬にして、三上は壊したのだった。
◆◆◆
「はっ!」
遥斗は目を覚まし、ベッドから起き上がった。
「また、世界が戻ったのか。」
遥斗はそう言い、外へ出ようと部屋のドアを向く。
「ああ。これから何度も戻るとも。」
そこには、三上が立っていた。拳銃の銃口は、遥斗に向けられている。
パンッ
再び遥斗は撃ち抜かれ、倒れる。
◆◆◆
「はっ!」
遥斗は目を覚ました。
「時の権能が持つ時間の力で、何度も世界を戻そう。」
パンッ
目覚めた直後の遥斗を、三上が撃ち抜く。
◆◆◆
「はっ!」
遥斗は目を覚ました。
「世界が何度も戻れば、神も怒って出てくるはずだ。」
パンッ
三上が、遥斗を撃ち抜いた。
◆◆◆
「はっ!」
遥斗は目を覚ますとすぐに、三上の方を向いた。
「固定の力で記憶と装備を引き継いだ君なら、対応も出来るというわけか。」
パンッパンッパンッ
立て続けに3発の銃弾を放つ三上。そのうちの1つが命中し、遥斗は血を流す。
◆◆◆
◆◆◆
◆◆◆…
「…」
遥斗は、目を覚ます。完全に疲れ果てていた。
一体何度死んだのだろうか。目覚めた直後の銃撃に対処のしようがない。
「おはよう。」
パンッ
三上は遥斗を撃ち抜いた。
◆◆◆
何度も何度も繰り返される死。その苦しみの中で遥斗の頭の中には、ある情景が浮かび上がっていた。
赤い空、割れる大地、咆哮飛び交う魑魅魍魎…遥斗ですら知らない、失われた自分の記憶を、徐々に取り戻していく。
そして、遂に全ての記憶を取り戻した。遥斗も知らない世界線…遥斗が復讐を乗り越えた時より、更に前。これは、遥斗がただの夢だと思っていた、0周目の記憶である。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、キマイラ、朱雀、玄武、青龍、白虎、ジズ、ペガサス




