33.始 動
『その日は、突然やってきた。
赤い空、割れる大地、咆哮飛び交う魑魅魍魎。全ての記憶を取り戻した青年は、再び起こった終末を前に、立ち上がる。
覚悟を瞳に宿した青年の手の中には、お守りが握られていた______』
「さて、行きますか!」
ギアとコインをバッグに仕舞い、部屋を出る青年の名は、天城遥斗。
幾度も戦い、遂に平和への第1歩を実現した戦士だ。
『うむ。遅刻するなよ。』
フェンリルの声が聞こえる。遥斗とフェンリルが通じあったことで、会話が出来るようになっていた。
「分かってるって。」
遥斗はそう言いながらも慌ただしく階段をかけ下りる。時間はあまり無いようだ。
「うわっ! お兄ちゃん、どこ行くの?」
遥斗が階段を降りた先に、結愛がいた。ぶつかりかけたが、なんとか躱せた。
「ちょっと友達の誕生日を祝おうと思って!」
遥斗はそう言うと急いで玄関へ行く。
「お兄ちゃん友達いたんだ…行ってらっしゃい!」
結愛は遥斗を見送った。
「うん! 行ってきます!」
遥斗は外へ出て、自転車に跨った。
神裔用の学童施設。セイヴァーが提供したその建物で、山宮陽介と一条煌は子供たちと触れ合っていた。
神裔たちが地上に出てから、煌たちセイヴァーは彼らの支援をしており、煌はたまに学童に顔を出していた。
そこに、遥斗がやって来る。
「あ、ハルトお兄ちゃんだ!」
児童の1人が遥斗に気づいた。みんなが一斉に遥斗を見る。
「はぁ…はぁ…みんな、お待たせ!」
遥斗は息を切らしていた。全力で自転車を漕いで来たのだ。
「よーし、遥斗お兄ちゃんも来たし、全員揃ったね!」
陽介は児童たちを見つめる。児童たちはニヤニヤしているが、煌だけは何が起こるか分からないようだ。
「みんな、せーの!」
「「「コウお兄ちゃん、たんじょうびおめでとう!」」」
児童たちが一斉に大声をあげる。そう、この日…9月28日は一条煌の誕生日だった。
「えー! みんなありがとう!」
煌はそれを聞いて嬉しそうだった。
「はいこれ、みんなからのプレゼントだよ!」
陽介は1つの箱を渡した。煌がそれを受け取る。
「プレゼントまで!? 開けていいですか?」
煌は驚いていた。陽介は頷く。
紐を解き、箱を開ける。中には、手のひらぐらいの大きさの赤い鳥のぬいぐるみが入っていた。
「ぼくたちでつくったの!」
児童の1人がそう言った。動物を決め、縫うところまで子供たちと陽介で行ったのだ。
「改めて、誕生日おめでとう!」
遥斗も煌にそう言う。それから、学童ではバースデーソングや全員での遊びなどで盛り上がった。
子供たちが帰ったあと。遥斗は、煌に話しかける。
「煌、これは俺からのプレゼントだ。」
白く、薄い箱を渡した。煌がそれを開けると、中にはケースが。
「ありがとう、遥斗。」
そう言って、煌はケースを開けた。そこには、サングラスが入っている。
「全ての戦いが終わったら、みんなで旅行にでも行こう。その時に、きっと役に立つよ!」
遥斗は笑顔で煌にそう言った。煌は、早速サングラスを掛ける。
「どう? 似合ってるかな?」
煌も笑顔で、遥斗に聞く。
「うん。めっちゃ似合ってる!」
笑顔で笑い合う2人には、普段の戦士としての顔は見られなかった。
「20歳にもなると、こういうのも似合うようになるんだね。」
煌はそう言った。遥斗は、少し驚く。
「え、今年で20歳なの!? 俺も! まさか、同い年だったとは。」
遥斗も煌も、今年で20歳。世界を救うという大義を背負うには幼すぎる年齢だ。
「遥斗も20歳になったら、1杯交わすか!」
煌は笑顔を見せる。その時、煌の携帯にドクター霧島から着信が鳴った。
『煌くん、ゼクスが街に出現した。すぐに向かってくれ!』
煌と遥斗は頷く。ついに、ゼクスが動き出した。警戒していたため、すぐに見つけることができた。
被害が出る前に、絶対止めると決意して2人は駆け出した。
街では、ゼクスが麒麟怪人の姿で大人しく立っていた。そこに、遥斗と煌がやって来る。
「ゼクス! 何をしている!」
煌がゼクスを問い詰める。ゼクスは人の姿に戻り、笑って答える。
「この姿なら、すぐに見つかると思いましてね。貴方たちを倒しに来ました。」
ゼクスは余裕の表情だ。それに遥斗が返す。
「お前にはもう勝ち目はない。倒されるのはそっちだ!」
ゼクスは、以前遥斗と煌に敗北している。さらに、今の遥斗にはラグナロクの力もある。
「私はこの戦いで、完全な神になります。戦いに勝てば邪魔な貴方たちを消すことができ、負けてもどの道神になれる。私の勝利です。」
ゼクスは笑みを抑えられない。煌はゼクスに聞く。
「神になるだと? そんなことができるわけ無いだろ!」
それを聞いたゼクスは、アセンションギアを取り出した。
「私の人間卒業記念に教えて差し上げましょう。このアセンションギアを使い続けることで、私は神になれるのです。」
遥斗と煌は驚く。遥斗は、記憶が消えることが神になるために必要なプロセスだと以前ゼクスから聞いたことがあった。
「まあ、このことも貴方はすぐに忘れるでしょうが。神になるにつれて、この世界との繋がりが失われていきます。
神はこの世界に干渉できないというルールだけは、知の権能でも覆せませんでした。」
そう言うとゼクスは、アセンションギアにペガサスと麒麟のコインを投入する。
「テューポーンを倒し、貴方たちの役目は終わった。全ての装備を奪わせて頂きます。」
ゼクスはギアの紐を揺らし、ペガサスのオーラを纏って戦士ルーサスとなる。
「完全に撃破すれば、神にはなれないはずだ。」
遥斗はそう言うと、フェンリルコインを取り出す。コインからフェンリルが出現し、ラグナロクハウラーとなった。
煌もディバイドギアを取り出し、フェニックスコインをセットする。天秤が右に傾いた。
「いくぞ、煌!」
「ああ! もうこれ以上、何も奪わせない。」
遥斗はハウラーのしっぽ型レバーを下げ、リループ・ラグナロクとなる。
煌は目を閉じ、深呼吸。するとギアの天秤が釣り合い、フェニックスのオーラを纏う。戦士フェイトだ。
「さて、悲願達成の時です。」
ルーサスが高速で迫る。リループ・ラグナロクもそれに応じるようにエクリブリアムを手に持ち、高速で移動する。
これまで何度も繰り広げられた、周りを置き去りにした高速バトルだ。
だが、今回の戦いはひと味違う。
「消し炭にして差し上げましょう。」
ルーサスが焔を放った。それをリループ・ラグナロクは吸収する。
「お前じゃ、俺には勝てない。」
リループ・ラグナロクが左手を突き出す。すると焔が放たれた。
「私の技を吸収し、コピーですか。面白い力ですね。」
そう言うとルーサスは、虹色の光を腕に纏ってガードした。
その後高速でリループ・ラグナロクの元へ行き、光を纏った拳を振るう。
「何をしても無駄だ。」
ルーサスが殴りかかった時、彼の真下に空間の裂け目が生まれた。そこにゼクスは落ちる。
そして、リループ・ラグナロクの真上に空間の裂け目ができ、ゼクスが落ちてくる。
「目指せ、ホームラン!」
リループ・ラグナロクが狼牙棒を生成し、落ちてきたルーサスに向かって振るう。ルーサスは吹っ飛んだ。
「くっ、これ程とは…」
ルーサスは驚いた。そこに、後ろから炎が迫る。
「貴方もいましたね!」
咄嗟にルーサスは翼で身を包み、ガードする。
その後翼を広げると、落雷を放って牽制しつつ距離を保つ。
「この力を使うのも最後かもしれませんね…知の権能、発動。」
ルーサスは人差し指で頭をトントンと2回叩き、領域を展開した。
リループ・ラグナロクはハウラーに朱雀、ジズ、キマイラコインを飲み込ませる。
「思考が…読めないだと!?」
ルーサスは驚きつつ、技を察知して焔と雷を纏う。
『当たり前だ。今、遥斗は俺と同化している。』
フェンリルはそう言った。知の権能でも、神獣の思考は読めない。
リループ・ラグナロクは炎と嵐を引き起こした。ルーサスはそこに炎と雷をぶつけ、相殺する。
「貴方には勝てませんね。でも、彼なら。」
ルーサスは雷を纏ってフェイトに迫る。フェイトは避けようとしたが、その思考を読まれて攻撃を食らってしまった。ルーサスは更に追撃しようとする。
「させるか!」
リループ・ラグナロクがそう言うと、フェイトの横に空間の裂け目が生まれた。フェイトはそこに飛び込むと、リループ・ラグナロクの横から現れる。
「この空間を、破壊する。」
リループ・ラグナロクがハウラーのレバーを3回倒す。すると、巨大な狼の影が出現した。
『喰らい尽くしてやる』
狼の影が領域を喰い破った。
「なっ…権能すら破壊するというのか! この化け物が!」
ルーサスはそう言うと、体に力を込めてペガサスの影を召喚した。完全に取り乱しており、いつもの口調も崩れている。
「これが、俺たちの強さだ!」
リループ・ラグナロクはハウラーのレバーを1回倒す。フェイトは体に力を込め、フェニックスの影を出現させる。
「神の御前だ、ひれ伏せ!」
ルーサスはそう叫ぶと、動き出す。
その時だった。
突然、リループ・ラグナロクの体が動かなくなる。
フェイトも、ルーサスも、目に映るあらゆるものが動いていない。
「さあ、そろそろ十分だろう。」
止まった時の中で、唯一動いている男。
三上蒼一が、こちらへ向かって来る。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、キマイラ、朱雀、玄武、青龍、白虎、ジズ
一条煌…フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス、グリフォン、スカラベ
ゼクス…ペガサス、麒麟
ミオラ…ヒュドラ、ベヒモス
山宮陽介…ナハシュ、テューポーン




