32.達成:終末の阻止
怪人と人間が融合したような戦士、リループ・ラグナロクが誕生した。
「あなたを、止める。」
リループ・ラグナロクは重打撃武器、狼牙棒を右手で引きずりながらゆっくり歩く。
「今の俺は、あいつより強い!」
テューポーン怪人が右手を突き出すと、キマイラ、ヒュドラ、スフィンクスの影が出現する。
キマイラの影が、リループ・ラグナロクに向かって火炎を放つ。
火炎は、直撃した。だが、それが直ぐに吸い取られた。
「お返しだ。」
リループ・ラグナロクが左手を前に出すと、キマイラの影に火炎が放たれる。
キマイラの影は火炎を放ち対抗するが、リループ・ラグナロクが放ったものの方が威力が高く、業火に焼かれて消滅した。
ポトッとコインが落ちる。
「倒しても無駄だ! 何度だって!」
テューポーン怪人がキマイラコインを吸い寄せようとする。
リループ・ラグナロクがそこに左手をかざすと、コインとテューポーン怪人の間の空間が裂ける。そして、コインが裂け目に消えた。
「確実に、止める。」
リループ・ラグナロクが狼牙棒を振るう。振るった瞬間、狼牙棒は巨大化し、ヒュドラの影に命中した。
ヒュドラの影は呆気なく消え去り、コインが落ちる。そのコインも、空間の裂け目に消えた。
「だから、戻ってきてください。」
リループ・ラグナロクが狼牙棒を置くと、それが消えた。そして、グッと1歩踏み込むと、高速でスフィンクスの影へ迫る。
そして右手にエクリブリアムを出現させ、左手に牙を生やし、両手で切り裂く。
スフィンクスの影も消え去り、コインは裂け目に消える。
「なんだ…この力は…! あいつも、こんな化け物みたいな力を使っていたのか!」
テューポーン怪人は驚いた。英雄に相応しい高潔な力を想像していたが、その実態は破壊を想起させるような歪んだ力だった。
「化け物を化け物たらしめるのは力じゃない。心の強さで、どんな者だってヒーローになれる。」
怪人となり、命を落とした和成。見た目こそ怪人だったが、彼の思想は立派なヒーローだった。
リループ・ラグナロクはそのことを思い出しつつ、再び狼牙棒を手に取り、振るう。
テューポーン怪人の元から、複数の神獣がコインとして分離した。それらも空間の裂け目に消える。
『俺の本来の力は捕食と破壊。コインの力を、俺に喰わせろ。』
ラグナロクハウラーからフェンリルの声が響く。リループ・ラグナロクが左手を横に伸ばすと、空間が裂ける。その裂け目に、手を入れた。
ベヒモス、レヴィアタン、フェニックスのコインを取り出し、ラグナロクハウラーに飲み込ませる。
「貴方も、彰吾くんにとってのヒーローだったはずだ。」
リループ・ラグナロクが地面を叩くと、テューポーン怪人に重さが伸し掛る。
そして、テューポーン怪人の左右の空間が裂け、水と炎がそれぞれ噴射される。
「ぐっ…もう、彰吾はいないんだ!」
テューポーン怪人は攻撃をくらい、更にコインを落とす。だがなんとか攻撃を振り払う。
「結局俺は、ずっと逃げてたんだ。自分の罪と向き合わないで、あくまで師匠としてしか接してあげられなかった。名前だって、ちゃんと呼ばずに…」
嘘を付き、罪から逃げて暮らしてきた。そんな自分はヒーローではないと感じている。
「それでも貴方はヒーローだったはずです。彰吾くんのことを誰よりも考えていたじゃないですか。
貴方が禁断の果実を作ったのは、俺の母ちゃんを救うため。間違ったことなんてしていない。」
リループ・ラグナロクはナハシュ、ヒュドラ、スカラベのコインをラグナロクハウラーに飲み込ませる。
無数の蛇が出現し、テューポーン怪人へと迫る。
テューポーン怪人も負けじと肩の蛇を這わせ迎え撃つ。
「貴方だけが背負うことじゃない。俺が、俺たちが、貴方の分まで背負って戦います。貴方は、力なんてものに縛られないでください。」
テューポーン怪人の足元に空間の裂け目が生まれる。
テューポーン怪人はそこに落ちた。そして、リループ・ラグナロクの真上に裂け目が生まれ、そこから落下する。
「罪悪感が、力を求める願いが貴方を縛る鎖なら、それを引き裂きましょう。」
リループ・ラグナロクが体に力を込める。そしてラグナロクハウラーのレバーを弾いた。
「アオォォーーーーン!」
リループ・ラグナロクが遠吠えをあげる。すると一瞬にして夜となり、満月が浮かび上がった。
リループ・ラグナロクの見た目が完全な狼に近づく。そして高速でテューポーン怪人に何度も両手の牙をぶつける。
その後上に飛び立ち、狼牙棒を手に取ると、両手でそれを振るった。
テューポーン怪人はそれをくらい、テューポーンコインと山宮陽介に分かれた。
月は消え、昼に戻る。リループ・ラグナロクの見た目も元に戻る。
「俺は…俺は強くならなきゃなんだ…!」
地面に転がった陽介は、そう言う。だがその頭の中には、彰吾と一緒におでんを食べる暖かな食卓が浮かんでいた。
「貴方は、強い。だからもう、強さに固執しないでください。」
リループ・ラグナロクはナハシュコインを手に取り、砕いた。
ナハシュが出現する。
『久しぶりだな、陽介。まさかお前が強さを求めるなんて。既に十分強いのに。』
ナハシュはそう言った。陽介は、ナハシュを見つめる。
『30年前だって、我に禁断の果実を作るよう頼み込んだだろ?
あれを人に直接与えた者は死ぬ。それを知りながら、お前は果実を使おうとした。その強い覚悟を見たから、我はお前に力を貸したんだ。』
30年前、陽介は自分を犠牲に遥斗の母親を救おうとした。強く、立派なヒーローだ。
「俺が…強い…? そうだな、きっとそうだ。」
陽介はなにかを思い出したかのように笑っている。
「あいつも、ずっと俺を強いって言ってくれてたな。これ以上変な姿見せたら、あいつに笑われちまう。」
空を見上げ、微笑む陽介。まるで自分ももうすぐそこへ行くことを悟っているようだった。
「おじさんは、これからも生きてください。彰吾くんの分まで。」
リループ・ラグナロクはラグナロクハウラーを投げると、それがフェンリルコインへと変わった。そして天城遥斗としての姿に戻る。
「…ああ。優しい師匠を、見せてやらないと。」
陽介は涙を流しながらも、笑っている。こうして、戦いは幕を閉じたのだった。
1ヶ月後。
継裔会の地下都市は壊滅状態に追いやられていたが、神裔たちの犠牲は少なかった。
以前ゼクスが攻めた際に確立した避難ルートにより、多くの人が生き延びていたのだ。
そして、神裔たちは再び人間社会で暮らすこととなった。
最初は不安もあっただろうが、地上と地下であまり違いはなかった。
自分が神裔であるというプライドが無くなれば、人間と神裔の間に大きな違いはないのだ。
2台のディバイドギアの修復も完了した。ドクター霧島は自分のギアを頼ることに満足しつつも、テューポーンのデータから新たな装備を開発中だ。
相変わらず聖也を忘れたことで失った正義は取り戻せていないが、今は開発に熱中している。
ミオラは、ヒュドラとベヒモスのコインを手に取りどこかへ消えてしまった。
遥斗や煌は何度か探したが、見つけられていない。
そして、陽介は神裔の子供たちと触れ合う学童の先生となった。
子供たちを笑顔にし、優しい先生として慕われている。
彼の作る特製おでんは、学童でも屈指の人気メニューだ。
一度怪人となった彼だが、力の権能ではなくテューポーン自身の能力であったため、消滅の危険は無かったようだ。
だが彼は彰吾の形見として、テューポーンコインを常に持っている。
煌は、この平和な世界に喜びを感じつつ、今後迫り来るであろう脅威に備えていた。
三上とゼクス。まだ敵は残っているため油断はできない。
ギアとコインを片手に、今日も街をパトロールする。
そして、遥斗は...結愛との平和な暮らしに戻っていた。
以前怒られ、それから潜入もあり会えていなかった2人。遥斗はまた怒られると思っていたが、久しぶりに家に帰った日、結愛から抱きしめられた。
ずっと、心配をかけてしまっていた。でももう離れ離れになる必要もない。2人は仲直りをし、毎朝一緒に味噌汁を食べる日々が帰ってきた。
一方、三上とゼクスは、暗い部屋で話している。
「ついにアセンションギア修復が完了しました。あと一度戦えば、私は完全な神となれる!」
ゼクスはそう高らかに笑うと、アセンションギアとペガサスコインを手に取る。
「ようやく、計画を完遂する時が来たな。」
三上は、満足気に笑っていた。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、キマイラ、朱雀、玄武、青龍、白虎、ジズ
一条煌…フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス、グリフォン、スカラベ
ゼクス…ペガサス、麒麟
ミオラ…ヒュドラ、ベヒモス
山宮陽介…ナハシュ、テューポーン




