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31.覚醒:呼ぶ終末

「その力を、俺に…!」


 山宮陽介やまみやようすけ…テューポーン怪人はそう言うと、肩から生えた無数の蛇を操り、攻撃を仕掛ける。


「力に、呑まれるな!」


 リループは高速で移動して蛇を躱す。だが、先程までの巨体とは違うため蛇の動きも速く、躱すので精一杯だ。


「貴方は、何のために力を望むんですか!」


 リループはそう叫ぶと、フェンリルの影を出現させる。

 フェンリルの影が、蛇を噛み砕いた。


「力がなきゃ、何も守れない!」


 テューポーン怪人は肩の蛇を再生させる。


「力…そうよね。」


 その戦いを傍で見ていたミオラは、そう呟いた。


「その力は、もう十分あるはずだ! これ以上戦う必要はない!」


 こうはそう叫んだ。テューポーンという絶大な力を手にし、ナハシュによって制御できるようになった陽介。

 もはや、力を求める必要もない。


「うるさい! 30年前から俺は、その力が憎かった! 救う力を求めてた! ずっと、超えたかった…」


 テューポーン怪人はそう言った。遥斗はるとは察する。もはやこれは世界を救う戦いでもなければ、正義のぶつかり合いでもない。


「超えさせない、超えちゃいけない…ここを超えると、貴方はもう止まれなくなる。」


 遥斗は知っている。強くなりたいと願い、力を求め続けた者の末路を。

 以前の一条煌は、遥斗を超えるために力を求め怪人となった。あの時は結局、一条煌の命を救うことはできなかった。

 でも今なら、救えるはずだ。だから遥斗は勝つしかない。


「リループ! 今の俺は、強い!」


 テューポーン怪人が肩の無数の蛇を1つに束ねると、大蛇となった。

 大蛇は、フェンリルの影をかき消すと、リループへ迫る。


 リループはそれを咄嗟に躱す。だが、躱した先に4体の神獣の影が出現した。


 3つの頭を持つ地獄の番犬、ケルベロス。

 9つの頭を持つ巨大な水蛇、ヒュドラ。

 ライオン、ヤギ、ヘビが融合した、キマイラ。

 女性の顔、ライオンの体、鷲の翼を持つ、スフィンクス。


 全てテューポーンに吸収されたコインたちであり、神話においてテューポーンの子とされるものたちだ。


「くっ…囲まれた。」


 まさに四面楚歌。だが、戦うしかない。


 リループは体に力を込める。すると、再びフェンリルの影が出現した。右手に牙も生えてくる。


 フェンリルの影がケルベロスに襲いかかる。ケルベロスの意識がそちらに向かっている隙に、高速で迫り、牙を突き刺した。


 ケルベロスが咆哮し、消滅した。

 その場にキマイラの炎が迫る。

 炎がリループのいた所にぶつかった。そして炎が晴れたが、そこにリループはいない。


「間一髪、だな!」


 キマイラの背後に現れたリループは、赤黒いオーラを纏っている。ケルベロスを倒したことでコインがその場に落ち、それを使ってワープで回避したのだ。


「いくぞ!」


 リループが更に体に力を込める。すると、ケルベロスの影が現れる。


「俺に従え、ケルベロス!」


 そこに、テューポーン怪人が声をあげる。するとケルベロスの影の目が紫色に光り、あろうことかリループへ噛み付こうとした。

 リループはなんとかそれを躱すが、ディバイドギアが噛みつかれ、砕け散った。たちまち神獣のオーラが維持できなくなり、消える。

 同時にケルベロスも消えた。


「流石は親、というわけか!」


 その様子を見ていた霧島は、大興奮でそう言う。間近で神獣の影や怪人の力を見られて嬉しいといった様子だ。


「さあ、その力を俺に寄越せ! 遥斗!」


 テューポーン怪人が遥斗に迫る。いつもの優しい面影は全くなく、力を求めて彷徨う亡霊のようだった。


 テューポーン怪人が手をかざすと、フェンリルコインが吸い寄せられる。


 そして、コインが砕けた。


 遥斗とテューポーン怪人の間に、禍々しい紐に縛られた白い狼が、実体として現れた。


 それと同時に、その紐が勝手に動き、テューポーン怪人と遥斗をも縛る。テューポーン怪人が縛られたことで、キマイラ、ヒュドラ、スフィンクスの影が消滅した。


 神話の狼…グレイプニルに縛られたフェンリルが今、現実に出現したのだ。


「ぐっ、なんだこれは!」


 テューポーン怪人は身動きが取れなくなっていた。本来なら呪いに相当するグレイプニルは効かないはずだが、今は可死の果実により弱体化している。


『殺せ…! 殺せ…!』


 フェンリルはそう叫ぶ。紐に縛られ続けた狼の、悲痛の叫びを遥斗は感じ取った。


「お前が俺に訴えた殺せと言う声。それは相手を殺すことじゃない。…お前が、殺されたかったんだな。」


 フェンリルは30年間縛られ続け、何も出来なかった。もはや抵抗することを諦め、死を待つだけになるのもおかしくない。


「でもお前、本当は諦めちゃいないんだろ?」


 遥斗はそう語りかける。フェンリルは遥斗を見つめた。

 すると、遥斗の頭の中に、ある声が流れる。



 ◆◆◆



『俺は貴様の親父を選び、加護を与えた。30年前、やつの願いに応え力を貸し、神と戦った。


 その後、神から罰を受けた。俺とあいつは引き離され、俺は縛られた。

 あいつは俺からの加護を失い、神裔しんえいとしての力を奪われた。そして普通の人間として生きることを決めたようだ。


 俺はいつかこの紐を引き裂き、神を殺すと決めた。そして貴様が生まれた時、俺は貴様に加護を与えることにした。やつの子である貴様の力を借りれば、いつか俺の力を解放できると信じて。

 だがあいつは、貴様の元から我がコインを奪った。神裔としてコインの力を扱うことも出来ないと言うのに。


 5年前、あいつが死ぬ前、お前に我がコインを返した。やつは、自分が死ぬことを分かっていたはずだ。それなのに、自ら死地に飛び込み、やつは死んだ。


 そして貴様は戦士となった。だが、あの時の貴様は、ただの復讐鬼だった。

 神に復讐しようとした俺を見ているようで、俺も貴様に手を貸した。

 そして貴様がやり直したいと願い、あろうことか俺の憎む神から力を与えられ、時が戻った。


 やり直したお前は、再び復讐鬼となった。やり直したいと願ったくせに、再び同じ道を行こうとした。記憶を無くした貴様は、同じ行動を繰り返そうとした。


 だが、貴様は復讐に取り憑かれながらも、あの時とは違うことをした。

 あの時より早く戦士になり、戦った。そして復讐を乗り越えてみせたのだ。


 あの時貴様の辿り着いた結論は、俺にも響いた。俺も、神に復讐する意志が無くなった。


 復讐を力に変え、この紐を引き裂こうとしたが、貴様のせいでその力が消えた。

 もはや引き裂くことなど不可能。なら、後は死を待つのみ。


 さあ、我を殺せ…殺せ…!』



 ◆◆◆



 遥斗は、フェンリルの言葉を静かに聞き、感じ取った。

 30年前のリループの伝説。あの日から、フェンリルは縛られ、父は普通の人間と同じ扱いを受けた。

 だから遥斗から見た父親は、普通の人間だったのだ。


 そして、遥斗が純血の神裔として生まれ持ったコイン、それがフェンリル。

 父はそれを預かり、5年前に遥斗に渡した。

 フェンリルコインは、父の形見。ずっとそう思っていたが、今あるコインは、遥斗自身のものだった。


 そして、遥斗ですら知らない記憶。遥斗が戦士となったのは、煌と戦ったあの時間軸が初めてではなかった。

 そして、復讐鬼だったその時間と、やり直して復讐を乗り越えた時間。その2つが、フェンリルを変えたのだ。


「ずっと俺を見てきたなら、もう分かってるだろ? お前は、グレイプニルを打ち破れる。」


 遥斗は、フェンリルの声を聞いて確信した。フェンリル自身も復讐を乗り越えることが出来た。なら、きっと呪いを打ち破れる。


「俺は、復讐を乗り越えて強くなった。1人じゃない、仲間と一緒に強くなったんだ。」


 遥斗は思い出す。


 煌と乗り越えた朱雀の試練。ミオラに助けられた玄武の試練。煌、聖也と共にリループ・ゴセイとしてゼクスと戦い、勝利したこと。


 そして、ルーサスとなったゼクスに、1人では勝てなかったが、煌と2人なら勝つことができた。


 仲間がいたから、遥斗はここまで来られた。1人で力を求め続けるだけじゃだめだと知った。


『だが…俺に、仲間など…』


 フェンリルは悲しみを帯びた声でそう言った。フェンリルの相棒であった遥斗の父親はもういない。


「俺がいる。神獣が主人を信じるなら、お前は俺を信じてくれ。俺も、共に戦ってきたお前を信じるよ。」


 遥斗は優しく微笑む。フェンリルは、それを見て頷いた。


『貴様は、やはりあの男の子だな。』


「貴様じゃない。天城遥斗だ!」


 遥斗はそう叫ぶと、体に力を込める。


『うむ。いくぞ、遥斗!』


 フェンリルも、体に力を込めた。


『「アオォォーーーーン!」』


 遥斗とフェンリルの叫びが重なる。そして、縛っていた紐が千切れた。


 バラバラになった紐は、光となって消滅する。

 ついに、神話の狼フェンリルがグレイプニルを打ち破ったのだ。


「その力は、俺がもらう!」


 解き放たれたのはテューポーン怪人も同じだ。テューポーン怪人は、フェンリルの力を狙い、手をかざす。フェンリルを引き寄せようとした。


『力は1人で求めるものではない!』


 フェンリルはそれを振り払った。そして、遥斗の背後へ立つ。


「そうだ。託しちゃだめだってあなたは言いましたよね。でも、違います。

 託して、託されて、強くなるんです。」


 遥斗が天に手を伸ばす。するとフェンリルが小さくなり、その手に収まった。


『俺の力を使え、遥斗。』


 そう声が響く。遥斗の手の中にある小さな狼型ガジェット。その中にフェンリルがいるようだ。


「フェンリル、お前こんなこと出来たのか!?」


 遥斗は驚く。神獣そのものが装備になるのは初めてだ。


『ああ。かつてのあいつも、似たリアクションをしていたな。ラグナロクハウラー、そうあいつは呼んでいた。さあ、使え!』


 30年前のリループがディバイドギア無しで神獣の力を纏えていたのは、ラグナロクハウラーを使用していたからと考えると納得いく。


 遥斗は、ラグナロクハウラーのしっぽ型レバーを下げる。


 すると、ハウラーから狼の影が出現。狼の影が遥斗を喰らうと、纏わりついた。

 遥斗の髪が白くなり、狼のような耳と尾が生える。


 硬いマスクのようなものが口元を覆い、胸の辺りに狼のようなアーマーがつく。


 手には無数の牙のようなものが生えた重打撃武器…いわゆる狼牙棒を持っている。


 まるで半分怪人、半分人間のような見た目である。


『リループ・ラグナロク。終末を呼ぶ力。』


 フェンリルはそう告げる。


「この力で、貴方を止めます!」


 リループ・ラグナロクは宣言した。30年前の伝説のリループと同じ力を、その身に宿して。





【所持コインリスト】


 天城遥斗…フェンリル(ラグナロクハウラー)


 ゼクス…ペガサス、麒麟きりん

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