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30.対峙:可死の果実

陽介ようすけおじさん! やめてください!」


 フェンリル怪人となった遥斗はるとが叫び、高速でテューポーンに迫る。


『壊せ…倒せ…殺せ…!』


 遥斗の頭の中ではフェンリルの声が響いている。


 テューポーン怪人は尾を振るった。

 遥斗は咄嗟とっさに鎖で身を守った。


「これなら…行けるかもしれない!」


 以前、リループ・ゴセイとして戦った時は呆気なく吹っ飛ばされたが、今回は鎖の力で守りきれた。


「世界を…我がものに!」


 テューポーン怪人が叫ぶ。もはやそこに陽介の意思などないのかもしれない。


『殺せ…! 殺せ…!』


 フェンリルが遥斗にしつこく告げる。


「フェンリル。今は黙っててくれ。」


 遥斗はそう言う。それにフェンリルは反発した。


『黙るだと? お前を選び、ようやく地獄から抜け出せた俺は、殺すことでしか生きられない!』


 フェンリルがそう強く言う。その声には、怒りが含まれていた。


「殺すためじゃない。守るために、戦うんだ!」


 遥斗はそう言うと、鎖でテューポーンを縛る。

 テューポーンはその鎖を、いとも簡単に砕いた。


「くっ、グレイプニルの力だけじゃだめか。おいフェンリル! お前の力を貸せ!」


 遥斗はフェンリルに叫ぶ。以前、三上が言っていた。テューポーンを止められるとしたら、フェンリルの力だと。

 ディバイドギアもなく、エクリブリアムも起動できない今は、フェンリルの力に頼るしかない。


『不可能だ。我に、この力で、呪いは打ち砕けぬ。』


 フェンリルはそう言った。30年前の伝説のリループの力…それにすら今は期待できない。


 テューポーン怪人は街を破壊し続け、どんどん大きくなっていく。

 遂に地下都市を突き抜け、地上へと侵出したのだった。




「ちょっと、これって…」


 地上にいたミオラは、テューポーン怪人を目にして驚いた。

 今、地上ではこうと霧島がテューポーン怪人と遥斗の戦いを見守っている。


「都市が…みんなの、幸せが…」


 ミオラは膝をついた。大切な都市が、テューポーン怪人によって破壊されている。


「もっと力を…!」


 テューポーン怪人がそう言うと、ミオラの持っていた2枚のコインがテューポーン怪人の元に行く。

 すぐに吸収されてしまった。


「陽介さん…テューポーン怪人によって、都市はもう…」


 煌はミオラに駆け寄り、暗い顔でそう言った。


「今、遥斗が必死に戦っている。僕たちも、出来ることをするしかない。」


 煌はそれだけ言うと霧島の方へ走っていった。今の彼にできることは、テューポーン怪人の弱点を探ることだ。


「私に…できること…」


 ミオラはそう言うと、立ち上がった。そして、禍々しい鎌を生成する。


「私も、戦う!」


 ミオラはテューポーン怪人の元へと走る。だが、暴れるテューポーンの前に、生身の彼女はなかなか近づけない。


「これが怪人のパワーか! フォー!」


 霧島は大興奮でそう叫ぶ。その胸ぐらを、煌が掴んだ。


「霧島! こうなるよう仕向けたのはあんたか!」


 煌はそう叫ぶ。もはや敬語すらなかった。


「ノーノー。私はただ、テューポーンの研究をしたかっただけさ。彼らの事情なんて、ちっとも知らない。」


 霧島は平然と返す。自分が悪いとは全く思っていないようだ。


「ふざけるな!」


 煌は霧島の右頬を殴った。霧島はよろめき、サングラスは地面へ落ちた。


「痛いな…酷いじゃないか、煌くん。」


 霧島はそう言うとサングラスを拾う。煌は息を整えた。


「今はこんなことしてる場合じゃない…霧島、テューポーン怪人をどう倒せばいいか教えろ。」


 煌はそう言った。その表情には怒りが残っている。


「さすがの私も、世界を壊されたら困る。テューポーン怪人の倒し方について、レクチャーしてあげてもいい。」


 霧島はサングラスをかけ直すと、そう言った。煌はその態度に対し、気に食わない表情だったが、今はいがみ合ってる場合では無い。




 遥斗は、鎖で攻撃を防ぎつつ、隙を見て両手の牙で攻撃していた。

 だが、遥斗の攻撃が全く通用しない。


「一体、どうすればいい…」


 遥斗は考えながら戦う。テューポーン怪人の大振りな攻撃に対して、フェンリルの高速移動とグレイプニルのガードは回避がしやすい。

 だが、肝心のパワーが、今のフェンリルには無い。


「私が、抑えるわ!」


 その時、地面の方から声がした。鎌を持ったミオラが、テューポーン怪人の元へと走っている。


 テューポーン怪人が尾を振るう。ミオラは、その衝撃波で吹き飛ばされそうになりながらも、必死に食らいついて前へ進む。


「ただ満足に戦って、みんなを守って、いつか死ねればそれでいいって思ってた。

 でも、今の私には何も守れない。だからこの力を使ってみせる。


 …今なら、あなたの考えも分かるような気がするわ、ヴァルガ。」


 ミオラはそう言うと、1歩1歩前へ進む。死の力なら、怪人を倒せると信じて。


「俺が引きつける! その隙に頼んだぞ!」


 遥斗はミオラにそう言って、テューポーン怪人へ迫る。

 両手の牙でテューポーン怪人へ攻撃するが、テューポーン怪人には通用しない。


「ぐっ…やるしか、ない!」


 ミオラがテューポーン怪人の近くまで来ているのを見て、遥斗は捨て身の特攻へ出た。テューポーン怪人はそれに対処しようと肩の蛇を向かわせる。

 遥斗はそれを高速移動で躱しつつ、テューポーン怪人へ両手の牙を突き刺す。

 テューポーンはそれを簡単に腕で払った。遥斗が地面へ落ちていく。両手の牙は、折れていた。


「ミオラ…任せた」


 落ちていきながら、遥斗はそう呟く。


「はあああああ!」


 テューポーン怪人の足元で、ミオラが全力で鎌を振り払った。

 鎌が怪人へと突き刺さる。


「ぐはあああ…力を寄越せ!」


 怪人は一瞬苦しんだが、すぐに回復した。落ちていく遥斗と、足元のミオラが吹っ飛ばされる。


「そんな…通用しない…」


 ミオラは絶望した。神の呪いすら無効化するテューポーンに、死の力は意味がなかった。


「ぐっ…ぐはああああ!」


 その時、遥斗が苦しみ出した。もはや怪人としての姿を維持できなくなり、人の姿へと戻る。


「遥斗くん! 大丈夫!?」


 ミオラは生の権能で遥斗を助けようとする。だが、神の呪いに対して、生の権能では回復すらできない。


「だい…じょうぶだ…!」


 遥斗はなんとか立ち上がろうとする。


「私…こんなに弱いんだね…」


 ミオラは嘆いた。もはや今のミオラにできることはない。


「はぁ…はぁ…遥斗! 怪人を倒す方法があるかもしれない!」


 遥斗とミオラの方に、煌が走ってくる。


「ナハシュだ! ナハシュの力で、可死の果実を作れ!」


 煌が霧島から聞き出した情報によると、こうだ。


 可死の果実。それはギリシャ神話におけるエフェメロスという名の果実だ。

 怪物テューポーンが、女神に欺かれて口にした結果、敗北を招いてしまったという神話がある。


「ナハシュなら、神話の果実を作ることが出来る! さあ!」


 煌が叫ぶ。遥斗は苦しみながら、ナハシュコインを手に取る。

 だが、ディバイドギアは持ち合わせていない。フェンリル怪人になる時の要領で力を使おうとしたが、それすら何も起こらなかった。


「くっ…こうなったら…」


 遥斗はコインを持つ手に力を込める。


 絶対に、世界を終わらせない。

 絶対に、正義を貫く。

 絶対に、陽介を救う。


 強い思いが力となり、ついにナハシュのコインが砕けた。


『うーん…はっ、これは一体…』


 コインから、1匹の小さな蛇がでてきた。


「ナハ…シュ…」


 遥斗は苦しみながらそう言った。


『お前、大丈夫か? ほら、これでも食べな』


 ナハシュが果実を作り出す。それは、黄金に輝く林檎だった。

 遥斗がそれを齧ると、たちまち体が回復する。


「助かった。ナハシュ、あの怪人をたおさなきゃいけないんだ。力を貸してくれ。」


 遥斗はナハシュに頼み込む。ナハシュは怪人を見て、驚いた。


『うわぁ! あれ、もしかして陽介か? 我が寝てる間に、大変なことが起きてたみたいだな。』


 ナハシュはそう言うと、遥斗の方を向く。


『陽介を助けるために、エフェメロスを作る。それはいいけど、何とか食べさせないとな。』


 ナハシュはいともあっさり、果実を作り上げた。


「随分、協力的なんだな。」


 その様子を見ていた煌がそう言った。


『神獣が主人を信じるのは、当たり前だろ?』


 ナハシュはそう言った。神獣は主人を信じる。

 遥斗は純血の神裔であることが分かっているが、彼を主人として選んだ神獣については分かっていない。


「力を…更なる力を!」


 テューポーン怪人がそう叫ぶと、ナハシュが引き寄せられる。


『そうだ! お前、エフェメロスをこっちに!』


 ナハシュはなにかを思いついたようで、遥斗に言う。咄嗟に遥斗は果実を投げた。


『陽介のことは、お前たちに任せた!』


 ナハシュはそう言うと、可死の果実をキャッチした。

 そして、可死の果実と共にテューポーン怪人へと吸収されていった。


「力を…! もっと…!」


 テューポーン怪人が叫んで遥斗たちに拳を振るう。


「危ない!」


 煌は咄嗟に、ミオラを庇う。


「なんで…」


 ミオラはそう言う。涙の混じった声だ。

 そして、テューポーン怪人の拳が彼らにぶつかる…


 直前、動きがピタリと止まった。


「ぐああああああ!!!!!!!!」


 テューポーン怪人が声をあげると共に、小さくなっていく。

 人と同じ大きさにまで戻った。


「俺は、一体…」


 テューポーン怪人がそう言った。


「おじさん! 意識が戻ったんですね!」


 遥斗がテューポーン怪人に駆け寄ろうとする。


「近づくな! …俺はずっと、本当は力が欲しかったんだ。あの時も、彼女を助けたのは俺じゃくてあいつだった。

 俺は今、力を手に入れた! あいつの、フェンリルの力も俺に寄越せ!」


 テューポーン怪人…山宮陽介やまみやようすけの、心の叫びだった。


 30年前、遥斗の母親を助けるために行動した2人の男。

 片方は伝説として語り継がれ、片方は過ちを産んでしまった。

 一度壊れたブレーキは、元に戻ることはない。


「この力は、父ちゃんが俺にくれた大切な力なんです。

 だから、俺は…リループは貴方を止める。絶対に。」


 遥斗は煌の方を向く。煌は頷き、ディバイドギアを投げ渡した。

 遥斗は天秤の右側にフェンリルのコインをセットする。

 覚悟はとっくにできている。天秤が釣り合うと、白い狼のオーラを纏う。


 怪人ではなく、リループで。父と同じ名の戦士が、テューポーン怪人へと向き合うのだった。





【所持コインリスト】


 天城遥斗…フェンリル


 ゼクス…ペガサス、麒麟きりん

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