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29.再来:世界の終焉

「これは…ワッツ!? プリティボーイ、君の力は一体!」


 セイヴァー司令室で、東彰吾あずましょうごの体を調べていたドクター霧島は驚いた。


「えへん! 僕はテューポーンに選ばれたからね!」


 彰吾はドヤ顔で言う。こっそり地下都市を抜け出し、司令室まで来ていたのだった。

 興奮冷めやまぬ霧島は、彰吾の体に触れる。


「いや…これはテューポーンではない! むしろテューポーンが、その力を妨げているようだ。」


 霧島はそう言うと、キーボードを激しく操作する。

 彰吾の検査データを見て、驚いた。


「ワーオ、そういうことか…なるほど、これなら説明がつく!」


 霧島は彰吾を向く。その様子を見て、彰吾は少しだけ不安を抱いた。


「あの…僕、本当に戦士になれますよね?」


 彰吾は恐る恐る聞く。彰吾はただ、テューポーンの力を使いこなして陽介を安心させたかった。


「いや、君の力は戦士以上だ。君には恐らく、禁断の果実の力が宿っている!」


 霧島はそう言った。パソコンの画面に映っている彰吾の胸の辺りには、蛇のように畝る未知の模様があった。


「禁断の果実…またの名を善悪の知識の木の実。恐らくそれを君は口にした。そして、超常的な力に目覚めつつある!」


 霧島は彰吾の肩を揺らす。


「うわぁっ! ……でも僕、そんなもの食べた覚えないです。それに、僕に力なんて…」


 彰吾はそう言った。霧島は彰吾から手を離し、落胆した表情で説明を続ける。


「そこなんだよ。君の持つテューポーンの加護が、その覚醒を妨げている。

 そのコインを手放すと、君は戦士をも超える最強の存在になれるはずだ。」


 その発言は、彰吾にはあまりにも魅力的だった。


 これまで、自分をテューポーンに選ばれた特別な存在だと思っていた彰吾。

 でもそれが、実際は最悪の力だと聞いてショックはあった。

 それでも使いこなそうと頑張っていた彼の前に、より特別な力を使えるチャンスが訪れた。


 懸念点があるとすれば、1つ。


「でも、このコインを手放すと、僕は毒に蝕まれて死ぬって…」


 神は自分に毒を与えた。それを、テューポーンの力で防いでいる。

 これは神がテューポーンコインの持ち主に与える試練だと、陽介ようすけから聞いていた。


 その旨を聞いた霧島は、ふっと笑う。


「それは真っ赤な嘘だよ。そもそも神がこの世界に干渉することは禁じられてる。特別なケースを除いてね。」


 さも当然かのように、霧島は言った。彰吾の顔に衝撃が走る。


「師匠が…僕に嘘を? 一体どうして…」


 彰吾にとって陽介は憧れであり、もう1人の父親のような存在だった。

 5年前、彰吾の前から実の父親は姿を消した。そして1人で地下都市を彷徨っていた時に、陽介に拾われたのだ。


「恐らく…君の力を、狙っていたのではないかな? 君の力の覚醒を意図的に抑えていたのは、君を脅威と見なしていたからだろう。」


 霧島はそう言った。彰吾は、ショックを受ける。


「そんな…信じていたのに。師匠に文句を言ってきます。」


 彰吾はテューポーンコインを机に置き、司令室を出ていく。

 彰吾の中にあった優しい陽介のイメージにヒビが入った。

 覚醒した自分の力を見せて、師匠から真相を聞き出したい。その一心だ。


「やれやれ…子供ってのは、単純だね。」


 霧島はテューポーンのコインを機材に乗せ、パソコンを操作する。


「あ、特別なケース…神の呪いを彼が打ち破れるかは五分五分だって、伝え忘れたかな?」




 継裔会けいえいかいの地下都市。山宮陽介やまみやようすけは自宅で、昼間から料理をしていた。


『ピーンポーン』


 インターホンが鳴る。大根を切っていた陽介は手を止め、ドアを開ける。


「おお少年! 今夜は少年の大好きなおでんだよ! ちょうど今仕込みをしててね…」


 陽介は笑顔で語りかける。だが、彰吾の顔は暗かった。


「…師匠。話があります。」


 彰吾はそう言うと、陽介の手を引く。

 陽介は少しの驚きと焦りを抱えつつ、彰吾と共に移動するのだった。




 広場にて。彰吾は陽介に質問する。


「禁断の果実。師匠は、これを知っていましたか?」


 暗く、抑揚のないトーンでそう言った彰吾。陽介は、隠してきた事実に気づかれてしまったことから焦りが強くなった。


「ああ。5年前に君が口にしてしまった…俺が作った果実だ。」


 陽介はそう言う。30年前にナハシュの力で作った果実を巡り巡って彰吾が口にしてしまった。


「師匠が…? 最初から、僕は実験台だったってことですね。」


 彰吾がそう言うと、彰吾の周りに黄金の蛇のオーラがまとわりつく。

 リループ・ゴセイのものとは違い、複数の禍々しい蛇とくすんだ金色だ。


「この力を抑えていたテューポーンはもういない。この力は僕のものです。

 師匠が僕を利用してた悪者だったのなら、僕は師匠を倒す!」


 彰吾がゆっくりと歩み寄ってくる。陽介は慌てて説明しようとする。


「待ってくれ少年! 何か誤解をしてるよ!」


 だが、彰吾は歩みを止めない。陽介に手をかざし、開く。


 バァン


 その音と共に、陽介は吹っ飛んだ。


「言い訳は聞きたくありません。僕の中の優しい師匠を、これ以上壊さないで。」


 吹っ飛ばされた陽介は、うめき声をあげながらも、遥斗はるとに連絡する。


『遥斗くん! すぐ広場に来てく』


 そこまで言った時だった。


「遥斗さんまで、利用するんですか?」


 彰吾が陽介の携帯に手をかざすと、携帯がぐにゃりと歪んだ。


「少年! それ以上力を使うな! 君の力が完全に覚醒してしまったら、君は…」


「うるさい! もうそんな言葉には騙されません!」


 陽介の叫びを彰吾が静止する。もはや、彰吾には何を言っても無駄だった。


 その様子を何者かが見に来ていた。木陰から、伺っている。


「テューポーンのデータは概ね把握した。後は…禁断の果実と、神の呪いを見せてもらおうか。」


 ドクター霧島はそう言った。天才である彼は、テューポーンの解析を一瞬で終え、彰吾の後をつけていたのだった。


「師匠。僕を育ててくれて、ありがとうございました。」


 彰吾が天に手をかざすと、蛇のオーラが集まる。そして、そのオーラは更に濃くなる。


「僕はこの力で、正義の…」


 そこまで言いかけた時だった。急に彰吾のオーラが消える。


 ドサッ


 突然、彰吾が倒れた。


「少年!」


 陽介は慌てて駆け寄る。


「し…しょう…なんで、ちからが…」


 彰吾の体から急に力が抜けたのだ。


「おっと、耐えられなかったか。ドンマイだよ、プリティボーイ。」


 霧島が木陰から現れてそう言った。テューポーンコインを見つめている。


「そのコインを返せ!」


 陽介は叫んだ。そして霧島へと走る。


「それはノーだ。彼の命なんかより、私が新たな装備を作ることの方が価値がある。

 ディバイドギアも、アセンションギアすらも超える装備をね。」


 霧島はそう言うと、迫る陽介をひょいと躱した。陽介は、躓いて転ぶ。


「返せ…! 頼む、返してくれ!」


 陽介は懇願した。霧島は平然と言う。


「神獣を統合する力は装備への応用も容易いんだけどね…怪人化の力がまだ解析できていない。それまでは、渡せないよ。」


 そう言うと、霧島は帰ろうとする。陽介は必死に起き上がった。


「待て…! それを、寄越せ!」


 陽介が霧島にぶつかった。霧島は倒れ、陽介がそれに覆い被さる。

 霧島の手にあったテューポーンコインが、転がって行った。


「絶対に助けるから…少年…」


 陽介は転がったコインを掴み取る。そして走って彰吾の元へ向かう。


「少年! テューポーンコインだ! これで呪いに耐えて、君は生きてられる!」


 目を閉じて倒れている彰吾の手に、テューポーンコインを置いた。

 だが、彰吾はピクリとも動かない。


「少年! …動いてくれよ。彰吾!なあ!」


 陽介の悲痛な叫び。だが、東彰吾はもはや、息をしていなかった。


 そこに、遥斗とこうがやってきた。ゼクスの捜索をしていた2人だが、陽介からの連絡があってすぐに向かっていた。


「おじさん! 一体何が!」


 遥斗はそう呼びかける。だが、倒れている彰吾と泣き叫ぶ陽介、そして少し離れた所にいる霧島を見て、全てを察した。


「そんな…まさか、彰吾くんが…」


 煌も察したようで、声を漏らす。


「俺が…弱いから。だから彰吾を守れなかった。

 あいつからすぐにコインを取り返せてれば、救えていたかもしれないのに!」


 陽介が声をあげる。そして涙を拭うと、遥斗の方を向いた。


「遥斗くん…君に俺のコインを渡したね。過ちを犯した俺なんかと違って、君ならナハシュの力を平和のために使えると信じていた。」


 陽介は淡々とそう言った。何かを悟ったようであった。


「俺が間違っていたよ。俺には力が必要だ。誰かに託してちゃだめなんだ!」


 その時、彰吾の手の中のテューポーンコインが紫に光った。そして、禍々しい黒い蛇が、陽介を覆う。


「テューポーンの持つ怪人化の力…あの男の負の感情と共鳴したのか…!」


 霧島は笑ってそう言う。まだ解析できていない力を目の当たりにして、興奮していた。


「力…力を!」


 陽介の声が歪んでいた。その直後、陽介は完全な怪人へと変貌した。

 上半身は人の形をしており、下半身はとぐろを巻いている。肩から100匹を超えるほどの蛇の頭が生えている…


「テューポーン…怪人…」


 遥斗はそう言った。以前見たものと違い、大きさは人とさほど変わらない。だがその見た目は確実に、世界を終わらせたテューポーン怪人そのものだ。


「力を…寄越せ…!」


 テューポーン怪人が叫ぶ。すると、遥斗と煌の手元にあるコインが勝手に吸い寄せられて行った。


「だめだ! 神獣を飲み込むな!」


 遥斗はそう言って咄嗟に手を伸ばし、コインを掴む。掴めたコインは、フェンリルとナハシュの2枚だ。

 以前、テューポーン怪人は神獣を吸収して巨大化した。

 手も足も出なくなる前に、どうにかする必要がある。


 掴めなかったコイン…テューポーンの元に引き寄せられたコインが、破壊される。

 フェニックスが、ケルベロスが、四聖獣しせいじゅうが…その他多くの、遥斗と煌が持っていたコインの神獣が実体化した。


「やめろ!」


 遥斗は叫ぶ。だがその叫びも虚しく、全ての神獣がテューポーン怪人に吸収された。


「完全に暴走している…! まるで、力の権能の性質を持っているかのようだ!」


 霧島は興奮し、そう叫んだ。

 もはやテューポーン怪人に陽介の意識すらほぼなく、欲望のために動いている。


 テューポーン怪人は巨大化し、都市を破壊する。

 それと共に地下都市の人々が持っていたであろうコインが砕け、神獣を吸収。どんどん大きくなっていく。


「俺が、止めないと…!」


 遥斗はフェンリルコインを弾き、怪人となった。


 テューポーン怪人の誕生の阻止、失敗。

 終末を回避するためには…テューポーン怪人を、倒せ。





【所持コインリスト】


 天城遥斗…フェンリル、ナハシュ


 ゼクス…ペガサス、麒麟きりん


 ミオラ…ヒュドラ、ベヒモス

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