26.真相:禁断の果実
「いい場所だな、継裔会って。」
ゼクスの侵攻から1週間。避難した神裔たちは地下都市に戻っており、都市は活気を取り戻していた。
煌がセイヴァーに掛け合い、継裔会がただのテロ組織ではないと発覚したことで、セイヴァーと継裔会の対立も実質的に無くなっていた。
三上やゼクスからも特に動きは見受けられず、世界は驚くほど平和だ。
「これから、どうするんだ?」
アパートのベランダで、煌は遥斗に聞いた。和成を手にかけてしまった贖罪から、煌は地下都市を守るために移住していた。今は遥斗の隣の部屋で生活している。
「まだ脅威が残ってる…テューポーン怪人の誕生を阻止しないと。」
遥斗が以前見た未来…テューポーン怪人が世界を滅ぼす未来だけは阻止しないといけない。
「怪人…でも、力の権能を持つヴァルガが死んでいる。もう怪人は生まれないんじゃないか?」
煌はそう遥斗に聞いた。幹部たちを除き、これまで誕生してきた怪人は皆ヴァルガによって怪人化していた。
そのヴァルガがいない今、もはや怪人が誕生することは無いはずだった。
「分からない…俺が見た未来でも、テューポーン怪人が誕生した時には既にヴァルガは死んでいたんだ。だから、早くコインを見つけないと。」
テューポーンコインの持ち主…東彰吾は、その力を扱うために修行していると言っていた。
つまり、扱いきれない危険があるということ。怪人化は、テューポーンの能力によって力の権能無しでも起こるのかもしれない。
「その事なんだが…伝えたいことがある。」
下から声が響いた。遥斗が下を覗くと、そこには小太りのおじさん…山宮陽介がいた。
遥斗と煌は頷き、陽介の部屋へと移動した。
「頼む。テューポーンコインは、諦めてくれ。」
陽介が頭を下げた。深刻な顔をしている。
「それはだめだ。遥斗は、タイムリープしてここにいるらしい。コインを手に入れないと、世界が滅ぶって…」
煌は遥斗から事情を聞いていた。ディバイドギアが2台あり、エクリブリアムや四聖獣のコインを持っていることがタイムリープの証拠だ。
「だとしてもだ。少年がコインを手放すと、少年が死んでしまうんだよ。
それに、少年に限って怪人になるなんて有り得ない。テューポーンが彼を選んだ時点で、その力を制御できないわけがないんだ。」
陽介はそう告げた。遥斗は驚く。
「彰吾くんが…死ぬ…? それに、彰吾くんが怪人になることはないって…じゃあなぜ修行なんて?」
当然の疑問だった。陽介は、罪悪感に満ちた顔で答える。
「ああ。彼は…ナハシュによる果実を口にしてしまった。彼の身は今、呪いという毒にかかっている。
そしてそれを無効化しているのが、テューポーンの加護なんだ。」
「ナハシュの果実…? 呪い? 加護? 一体どういうことだ?」
煌が疑問に感じる。陽介は続けた。
「遥斗くん、君に渡した俺のコイン…ナハシュには、あらゆる神話の果実を作り出す力があるんだ。
30年前。俺は君のお母さんを助けるために禁断の果実を作り出し、少年のお父さんに渡した。
結局それを使う前に君のお母さんは助け出されたから、禁断の果実は残ったままだったんだ。
それを、5年前…当時5歳だった少年は、口にしてしまった。
果実を口にした者と、果実を与えた者は、神からの呪いが降り注ぐ。少年の父は、果実を食べさせたことで呪いにより死んでしまった。
少年もまた、呪いで死ぬはずだった。それをテューポーンが守っているんだ。」
謎が明かされると同時に、新たな謎が生まれる。
「30年前、一体何があったんですか?何のために、おじさんは禁断の果実を作ったんですか?」
遥斗はそう聞いた。30年前の両親の間に一体なにがあったのか。その真相が明かされようとしている。
「30年前、三上蒼一という男が神を降臨させようとした。君のお母さんを器にね。
だから俺は、君のお母さんを助けるために果実を作ったんだ。
禁断の果実を口にすることで、君のお母さんは器じゃなくなる。君のお母さんの持っていたペガサスの浄化の力なら、呪いも浄化できたはずだった。
なのに、あの男...東義晴の裏切りによって、俺の作戦は失敗した。
少年がこうなってしまったのは、全て俺のせいなんだ。少年がコインを持っている限り、怪人は生まれない。だから、見逃してくれ。」
陽介は再び頭を下げる。テューポーン怪人の正体が彰吾ではないのなら、一体誰なのだろうか。
「…母ちゃんが、ペガサスを持っていただって!?」
遥斗はそれに驚いた。ペガサスコインと言えば、戦士ルーサスになるためのコインだ。
「ああ。彼女はペガサスの加護を受けていた。彼女が助かるなら、俺は呪いで死んだっていい。だからナハシュコインを砕いて、ナハシュの力を使ったんだ。
神獣の実体化は、かなりの賭けだった。実体化した神獣は、制御できるものではない。ナハシュが俺に協力してくれたから、禁断の果実を作れたんだ。それなのに…」
「あれ? 皆さんお揃いで、何の話ですか?」
突然、誰かが部屋に入ってきた。声の方を見ると、そこには10歳の青髪の少年...東彰吾がいた。
「いやー、ほらほら、少年の毒のことさ。」
陽介は何かを誤魔化すかのようにそう言った。
「ああ、毒ですね。僕がテューポーンを使いこなすための、神様からの試練!」
彰吾は明るい声でそう言った。陽介は彰吾に、禁断の果実のことは隠しているようだ。
代わりに神からの試練ということにしていた。
「遥斗さん、僕、テューポーンの力を使いこなして毒なんて跳ね飛ばします!
そしたら、コイン渡すので待っててくださいね!」
彰吾の目は輝いている。テューポーンに毒を無効化する力はあっても、呪いを消すことはできないというのに。
「そうだ、ミオラの生の権能なら、毒を消せるんじゃないか?」
遥斗はそう言った。彼女の力は、以前死にかけた遥斗を救っている。
「…だめだ。神からの毒は、ただの毒じゃない。生の権能でも不可能だろう。
消せるとしたら…浄化する必要がある。ペガサスのコインがあれば…」
陽介は、悔しそうな顔でそう言った。ペガサスコイン。ゼクスが持ち去った2枚のコインのうちの1つだ。
以前ゼクスが残したコインは、遥斗と煌とミオラで回収していた。
「ゼクスから、ペガサスコインを取り戻すことができれば、彰吾くんを救える…行こう、煌!」
遥斗は煌にそう言った。
「ゼクス? そいつが、ペガサスコインを持っているのかい?」
陽介がそう聞く。アセンションギア使用によって、陽介はゼクスの存在を忘れているようだ。
遥斗と煌は頷き、外へ出る。テューポーン怪人の誕生まで、時間は限られている。
遥斗と煌は外へ出た。
「…なあ、本当にこれでいいのか? 彰吾くんだっけ…あの少年からコインを奪えば、世界全部を救えるんだろ?
彰吾くんの命と全人類の命…天秤にかけるまでもないはずだ。」
煌は遥斗にそう言った。確実に世界を救うためなら、その判断は大事だ。
「…俺は、みんなの笑顔を守りたい。世界を救うために、彰吾くんの笑顔を犠牲にするなんてしたくない。
だから、ペガサスコインを手に入れて、全員救うんだ!」
遥斗はそう言った。ペガサスコインさえあれば、テューポーンの誕生を阻止しつつ、彰吾くんも助けられる。その望みに賭ける価値はある。
「やっぱり、遥斗の正義は本物だな。絶対に救おう! あの子も、世界も。」
煌も遥斗を信じた。2人はゼクスをおびき出す作戦を立てるため、ミオラの元へと向かったのだった。
一方、セイヴァーの三上の隠し部屋。
ゴズコインが大量に並ぶその部屋で、三上とゼクスが話している。
「戦士たちが何度も怪人を撃破してくれたお陰で、神の力は十分に集まった。
これで私は、時の権能を扱えるはずだ。」
三上は笑う。
「全く…5年前の神裔の大量虐殺も、ヴァルガの力の権能で怪人を生み出させていたのも、全ては神の力を集めるためとは、酷いことしますね。」
ゼクスも笑いながらそう言った。
「セイヴァーと継裔会を対立させ、怪人を倒させる。そうして増幅された神の力を、私が集める。
この作戦が始まったのも全て、5年前に知の権能を手に入れた、君のおかげだ。」
三上はそう言うと、ゼクスの頭を撫でた。
「アセンションギアによってペガサスの力を引き出し、強制的に器となる。そして器となって尚、使い続けることで神と同等の存在へと至る。
5年前に、知の権能を私に渡した時点で、神の敗北は決まっています。神とは、実に愚かですね。」
ゼクスは満更でもないようにそう言った。
「ああ。30年前、器を失った時はどうなるかと思ったが…あの時ペガサスコインを手に入れられたのは、幸運だったな。」
三上はペガサスのコインを手に取り、眺める。
「ええ。…既に私は、器の段階まで来ています。アセンションギアを修復して、あと数回使えば神となるでしょう。
私とは別に、器となる人間を作り出す必要がある。再びアセンションギアを作るのは骨が折れますね。あなたの権能で、時間を戻しては?」
ゼクスはそう言った。
「生憎だが、権能の使用はせっかく集めた神の力を消費するのでね。神を殺すその時まで、取っておきたいものだ。
時間は沢山ある。君なら、再びアセンションギアを作れると信じているよ。」
三上はそう言うと、ゼクスの元にペガサスコインを置いた。
隠し部屋の傍で、壁に耳を当てて会話を聞いていた男がいる。
しわくちゃな白衣にピンクのサングラスをかけた金髪の男、ドクター霧島はその場を去っていった。
彼の顔には、隠し切れない笑顔が浮かんでいる。
「先生に、ゼクス。あんたらを、私が出し抜くチャンスの到来だ!」
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、朱雀、玄武、青龍、白虎、ナハシュ、ジズ、キマイラ
一条煌…フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス、グリフォン、スカラベ
ゼクス…ペガサス、麒麟
ミオラ…ヒュドラ、ベヒモス




