27.疑念:権能と怪人
「ゼクス? 一体なんのこと?」
ミオラは、困惑した顔でそう言った。
遥斗と煌はゼクスを見つけるためにミオラを頼ったが、どうやらミオラの記憶からは消えているようだ。
「そんな…アセンションギアの代償がミオラにまで…」
遥斗は驚く。同じ継裔会の幹部であったゼクスを、ミオラは忘れたのだ。
「何の話? それより遥斗くん、私と遊ばない?」
ミオラはヒュドラコインを取り出すと、そう言った。
「待った待った。ゼクスはつい先週、ここを襲った張本人だろ? そのヒュドラコインが君の元に戻ってきたのも、ヴァルガを倒したのも、ゼクスだ。」
煌はそう言った。煌は、まだゼクスのことを覚えている。
「襲った…ええ、確かに私は誰かにコインを奪われた…でも、それが誰だか思い出せないの。
そのゼクスとか言うやつを追い返した遥斗くんはもっと強いんでしょ? なら、私と遊ぼーよ!」
ミオラは戦いたいようだ。地下都市の危機が去った今、以前のミオラに戻っている。
「はぁ、こうなったら何を言っても無駄だな…よし、逃げるぞ! 煌!」
遥斗はそう言うと走って行った。ミオラの戦いへの執念は凄まじい。
遥斗を追いかけて玄武の試練へ行ったり、遥斗の家まで押しかけたりしたことだってある。
「えっ、ちょっ、遥斗!」
煌もダッシュで遥斗を追いかける。2人の姿が小さくなっていった。
「あーあ。…私は、いつ死ねるのかしら。」
誰もいなくなったその場所で、ミオラは小さく呟いた。
「はぁ、はぁ…何とか捲けたか?」
地上の街で、遥斗と煌は息を切らしている。
「遥斗は、ゼクスの居そうな場所に心当たりはないのか?」
息を整えた後、煌はそう聞いた。
「心当たり…俺の見た未来では、ゼクスはずっと継裔会にいたと思う。
もし知ってる人が居るとすれば…あっ」
遥斗は何かを思い出したようだ。
「そういえば、霧島さん!俺の見た未来では、霧島さんがアセンションギアを持ってきたんだ。…聖也さんに渡すために。」
今は、アセンションギアをゼクスが使用している。セイヴァーの科学者、ドクター霧島はアセンションギアを作ったのがゼクスであることも知っていた。もしかしたら、他にも何か知っているかもしれない。
『プルルルル、プルルルル…』
その時、突然煌の携帯がなった。
「霧島さん!? なんていいタイミングだ…どうしましたか?」
電話をかけてきたのは、霧島だった。
『ヘイ、煌くん。地下都市での生活はいかがかな?
リループくんも一緒にいるみたいだね。今日は君たちに、エキサイティングな情報をプレゼントしよう。』
霧島は相変わらずのテンションでそう言った。
「情報? 一体なにを?」
遥斗は落ち着いて聞いた。
『なんと、セイヴァーには三上の隠し部屋がある。場所をメモしておいたから、司令室まで来てくれ。
君たちのクールな活躍、期待しているよ。』
そう言うと霧島は、電話を切った。
「三上の隠し部屋…偶然にしては、出来すぎてる…」
遥斗はそう言った。霧島は聖也にアセンションギアを渡した前例がある。
聖也の記憶が彼からも消えている今、もし彼の中に正義心がないとしたら…研究に取り憑かれた、悪魔の科学者になっているかもしれない。
「でも、貴重な手がかりだ。他に何も情報がない今、行くしかない。」
煌はそう言うと、セイヴァーへと足を進める。遥斗もそれに納得し、先へと進むのだった。
セイヴァー本部 司令室。モニターと絵画が並ぶその部屋に、1枚のメモが置いてあった。
「ここに隠し部屋あり、か…一体、何が待ち受けているんだろう。」
遥斗はメモを持ってそう言う。
そのメモには、セイヴァーの地下の地図があった。壁の部分に赤いペンで丸が描かれてある。
「…なあ、この絵って、神獣たちだよな?」
煌は壁に飾られている絵画を見て、遥斗に聞いた。
炎の中から翼を広げる美しい鳥、フェニックス。泉の傍で凛とただずむ羽の生えた馬、ペガサス。
様々な絵画が並んでいる。
「この絵…もしかして、フェンリルか?」
煌は1枚の絵画を目にして、そう言った。魔法の紐に縛られ、口に剣の刺さった怒りに満ちし狼の絵だ。
「ああ…多分そうだろう。それがどうした?」
遥斗はそう言う。もはや見慣れた絵画たちだ。
「いや…フェンリル、辛そうだ。他の絵画の神獣たちは美しいのに、フェンリルだけは縛られて…」
煌は、そこに引っかかった。一体なぜ、フェンリルだけは縛られているのだろう。
「確かにな…でも今は、三上の元に行くことが先決だ。行こう、煌。」
遥斗はさして気にも止めず、そう言った。煌もついて行くのだった。
「ワーオ、ここが地下都市か…」
遥斗たちがセイヴァーに着いた頃、ドクター霧島は継裔会の地下都市へと赴いていた。
「この中に、あの人たちを超えるための力…テューポーンコインの持ち主が、いるかもしれない。」
流石研究者と言うべきか、霧島はテューポーンの存在もリサーチ済みだった。
「三上先生は結局、私の作ったディバイドギアを利用していただけだ。私は、あの2人を超えてみせる。」
霧島は、その為にここへ来たのだ。
「テューポーンがどうしたんですか? おじさん。」
そんな霧島に話しかけた少年がいた。テューポーンコインの持ち主、東彰吾だ。
「これはプリティなボーイだね。私は今、テューポーンコインを持ってる人を探しているんだ。プリティボーイは、何か知らないかい?」
霧島は笑顔でかがんでそう言った。
「テューポーンコインの持ち主を見つけて、どうするんですか?」
彰吾はそう聞く。若干警戒しているようだった。
「もちろん、世界を救うのさ。何を隠そう、戦士たちの使っている装備を作ったのはこの私だ。
テューポーンのような強大な力を持つ人とは、ぜひ手を組みたい。」
霧島のこの言葉を聞き、彰吾の顔が明るくなった。
「凄い! 凄いですおじさん! …実は、テューポーンコインはここにあります。
おじさんなら、僕を戦士にできますか?」
彰吾はテューポーンコインを見せて、そう言った。
霧島が驚く。
「これはとんだサプライズだ! 神は私に味方しているようだね。
少年、私は君に手を貸そう。」
霧島はそう言うと、彰吾の手にあるテューポーンコインを掴み取ろうとする。
「一体、何してるの?」
その時、女性の声が響いた。声の主は、ミオラだった。
「おっと失礼。私はドクター霧島。ディバイドシステムを作り上げた、天才さ。」
霧島はそうミオラに言った。
「なーんだ、セイヴァーか。遥斗くんやフェイトの仲間なら仕方ないけど、余計なことはしないでちょうだいね。
私は、人間がここに来ることを認めた訳じゃないから。」
ミオラはそう言う。少し不機嫌な様子だ。
「これは申し訳ないね、レディ。…プリティボーイ、いつでも私に連絡してくれ。他の人には内緒で頼むよ。それじゃ、私はさっさと出ていくよ。」
それだけ言うと、霧島は去っていった。
「彰吾くん、なにか変なことされてない? 大丈夫?」
ミオラは彰吾に駆け寄った。
「はい、大丈夫です! あのおじさんが道に迷ってたみたいだから、案内しようと思って。」
彰吾は霧島との会話を隠し、そう言った。
「偉いねー彰吾くん。よしよーし。」
ミオラは彰吾の頭を撫でる。彰吾は、テューポーンのコインを握りしめ、少し笑みを零した。
一方、遥斗と煌は地下の壁の元へ向かっていた。
「これ、どうやって中に入るんだ…?」
一見すると、何の変哲もない壁だ。煌は壁を前に悩んでいる。
「こういうのは、合言葉があるのかも…開け、ごま!」
遥斗はそう唱えた。
シーン。
扉は、開かなかった。
「ええい、面倒だ! ギアの力で破壊しよう。」
先程の沈黙が恥ずかしかったのか、遥斗はディバイドギアを取り出す。
「待ってくれ遥斗! いくら何でもそれはやり過ぎ!」
煌は慌てて遥斗を抑えようとする。そして遥斗の方へ向かった時、ツルッと滑った。
「うわっ! …危なかったー!」
咄嗟に壁に手をついて、転ばずに済んだ。その時だった。
ガシャン。
煌が手をついていた壁が左右に別れ、開いた。煌は手をついていた壁が無くなり、盛大に転ぶ。
「いてて…って、え!」
煌は立ち上がりながら、周囲を見渡す。
「扉が…開いた!」
遥斗は喜んで中に入った。
かなり広い部屋だ。周囲の棚には、大量のゴズコインが並んでいる。
「凄い数のコインだ…こんなに、一体どうやって手に入れたんだ?」
煌はその圧巻の景色を見て声を漏らす。遥斗は、ある事に気づいて顔が暗くなった。
「…5年前、三上は地下都市の支配者として、理不尽に神裔を殺していたらしい。
もしかしたらこのコインは、その時に奪ったものかもしれない。」
こんなにも犠牲者がいたのかと、遥斗の胸が締め付けられる。
「やれやれ、人の部屋に勝手に入るとは、マナーがなっていないな。」
その時、扉の方から声がした。三上が、そこに立っていた。
「三上! ペガサスのコインはどこにある!」
遥斗はディバイドギアを取り出し、そう言った。
「さあな。君には関係ないさ。」
三上は咄嗟にピストルを持ち、発砲した。
銃弾は遥斗の持つディバイドギアに命中し、ディバイドギアが転がる。
「三上さん…貴方はなぜこんなことを!」
煌がディバイドギアを取り出し、そう言う。
その時、後ろから煌を抑えつけた者がいた。
「随分なご登場だな。ゼクス。」
ゼクスだった。後ろから来たということは、最初から部屋に潜伏していたということだ。
「貴方たちは罠にはまったんですよ。霧島がこの部屋を特定したことは、すぐに分かっていました。」
ゼクスは煌の持っていたディバイドギアを弾き飛ばすと、煌にピストルを突きつける。
「リループ。彼の命が惜しければ、エクリブリアムを捨ててください。」
ゼクスはそう要求した。
「だめだ遥斗! それがなくなれば、お前に戦う力はもう!」
煌はそう叫ぶ。だが、遥斗はエクリブリアムを取り出した。
「…分かった。絶対だ。」
遥斗は大人しくエクリブリアムを投げ捨てた。
「賢明な判断ですね。私はいずれ神になる男。約束は守りましょう。」
ゼクスはそう言うと、煌を遥斗の元へ投げ飛ばし、2人の方へ銃口を向ける。
ゼクスと三上。ピストルを持った2人に挟まれ、ギアもエクリブリアムも持っていない状況が生まれた。
「くっ、どうすれば…なんてな。」
遥斗はエクリブリアムに手をかざす。すると、エクリブリアムが遥斗へ引き寄せられた。
「させませんよ。」
ゼクスが咄嗟に怪人となり、高速で移動してエクリブリアムを掴んだ。
「権能の保持者なら、コインの力を完全に引き出せる。実に便利です。」
ゼクスはそう言うと、暴れるエクリブリアムを抑える。
「さて…天城遥斗くん。君に今死なれたら困る。四肢を切り裂いて私が保管しておこうか。」
三上が、笑いながらそう言った。遥斗は、ゼクスの発言をヒントに、あることを思いついていた。
「なんて物騒な…それはごめんだ。」
遥斗がフェンリルコインを取り出す。
「遥斗…?ギアもないのに、一体何をするんだ?」
煌はそう聞いた。今、ギアは遥斗たちからは離れた場所に転がっている。
「ゼクス、お前は言ったな。俺の中に時の権能の1部があると。そして権能の保持者は神獣の力を完全に扱える。なら…」
遥斗はフェンリルコインを弾いた。
「力を貸せ、フェンリル!」
そう叫ぶ。その瞬間、アオーンと遠吠えが響いた。
1匹の狼の影が出現し、遥斗の胸へと吸収される。その後、胸の辺りから実体化した毛並みが遥斗の体を変化させていく。
灰色の毛並みに覆われ、全身が鎖で縛られた怪人へと、変貌した。
両腕から牙のようなものが生えており、顔は狼そのものだ。
「フェンリル…怪人…」
その様子を真横で見た煌は、そう呟いた。
「ペガサスコインを、返してもらうぞ!」
天城遥斗…フェンリル怪人は、そう告げる。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、朱雀、玄武、青龍、白虎、ナハシュ、ジズ、キマイラ
一条煌…フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス、グリフォン、スカラベ
ゼクス…ペガサス、麒麟
ミオラ…ヒュドラ、ベヒモス




