20.再臨:ルーサス
「さあ、今日も調査だ。」
天城遥斗は伸びをして、そう言った。
潜入開始から1週間。目立った進展もなく、継裔会にも動きがない。
強いていえば、遥斗が和成と連絡先を交換し、食事をする仲になったくらいだろう。
継裔会は悪人の集まりと決めつけていたが、実際はそうではなかった。
ここでは、皆が平和に暮らしている。地上と同じくらいの賑わいがあった。
だが、この都市は地下にあるため、太陽が届かない。
人工的な光だけじゃ朝の爽快な気分も削がれるな…と思いつつ、遥斗は外へ出た。
最初のミッションは、ゴミ出しだ。これまで結愛がやっていたので、初めてだった。
遥斗がゴミ袋を持ってアパートのゴミ捨て場に行く。すると、見知った人物と出会った。
「あれ? 遥斗くんじゃないか! 大きくなったなー。」
少し太った、気さくなおじさん。遥斗はこの人を知っていた。
「おじさん? 陽介おじさん! ここに住んでるんですか!?」
山宮陽介。遥斗の父親の親友で、よく遊びに来ていた。
5年前、父親の葬式で会ってからというもの、一度も見ていなかった。
「遥斗くんがここにいるってことは、自分が神裔だってことに気づいちゃった?」
陽介は遥斗にそう言った。
「俺が神裔? いやいや、俺の父ちゃんは神裔だったけど、俺は違いますよ!
というか、おじさんは神裔なんですか!?」
ここにいるということは、純血の神裔ということだ。
潜入している遥斗とは違い、陽介はただ神裔としてここに移住してきたことになる。
「そう、実は俺、神裔なのよ。ここに移って来たから、会いに行けなくてごめんね。
結愛ちゃんは、元気にしてるかな?」
それを聞いて、遥斗は暗い顔をする。結愛とはあれから連絡を取っていない。心配なのだ。
「結愛は…元気だと思います。
まさかこんな所でおじさんと会えるなんて、夢にも思わなかったな…」
遥斗は、孤独を抱えていた。煌や霧島と仲間だったことも、聖也の存在も、覚えているのは自分だけ。
結愛とも離れ離れになり、ここで暮らすこととなった。
和成とは仲良くなったけど、まだ心の内を吐けるほどではない。
陽介と会えたことは、とても嬉しかった。
「なにか困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれよ!
じゃあ、一人暮らし頑張って! 俺も仕事を頑張る!」
そう言うと、陽介は小走りに去っていった。出勤時間がやばいのだろうか。
遥斗は変わらない陽介に笑いつつ、ゴミ捨てを終えて訓練施設へ赴くのだった。
セイヴァー本部 司令室。
こちらでは、動きが無い継裔会に対して、一条煌が憤りを見せていた。
「なぜ何も起こらない! これでは手がかりも見つけられないだろう!」
煌のミッションは、ジズコインを見つけ出すこと。そのためには継裔会を追う必要がある。
「それなんだけど、煌くん。最近ファニーなことが起きていてね。
研究のために黙っていたんだが、何も進展がない。だから君に調査して欲しいんだ。」
霧島は笑いながらそう言う。煌は、霧島に聞く。
「研究第一なのは変わりませんね…一体なんですか?」
霧島は答える。
「最近、なにやら街にモンスターが現れているみたいだ。
破壊するでもなく、何かを探しているらしい。
私の研究によると、神獣の力を扱っている。怪人とでも呼ぶべきかな。
ちょうど今出現しているし、煌くん、倒してサンプル取ってきてくれない?」
霧島は狂気の笑みを浮かべる。それに煌は怒った。
「なんでそんな大事な手がかりを隠してたんですか! 場所を教えてください!」
一条煌はすぐにセイヴァーを出て、走り出した。
聖也の居なくなったセイヴァーは、以前のような正義に溢れる組織から変わっていた。
街では、ヴァルガが怪人態となり、何かを探している。
そこに、煌がやってきた。
「お前が継裔会か! 何をしている?」
煌が尋ねた。ヴァルガは答える。
「お前には関係ない!」
だが、煌は引き下がる訳にはいかなかった。
「残念だが僕には用があってな。ジズコインはどこにある?」
それを聞いて、ヴァルガは驚いた。
「ほう。俺もジズコインを探しているんだ。」
その時だった。突然、どこかからコインが投げられた。
そのコインには、巨大な鳥が描かれている。
「あれは…ジズコイン。」
ヴァルガが呟く。それを聞いた煌は、ディバイドギアを取り出した。
「それは僕がもらう。お前を倒してな!」
ディバイドギアの右側にフェニックスコインをはめる。煌が深呼吸すると、天秤が釣り合った。
フェニックスのオーラを纏った戦士フェイトとなる。
そして、フェイトとヴァルガの交戦が始まった。
「これで、時間稼ぎは十分だ。」
影からその様子を見ていたのは、三上蒼一。ヴァルガと煌にジズコインを見つけるよう命じ、先ほどジズコインを投げた男だ。
三上は勝敗などどうでもいいのか、その場を立ち去った。
継裔会 地下都市。
遥斗は和成と、ラーメンを食べていた。
「なあ遥斗、お前はどうしてここに来たんだ?」
和成は遥斗にそう聞く。遥斗は返答に困った。ただの支配するためのテロリスト組織だと思っていたので、そっち系の言い訳しか用意していなかったのだ。
その様子を和成が見て、笑う。
「ふふっ…愚問だったな。天城さんは、今のこの平和な都市を作ったと言っても過言では無い。
息子であるお前がここに住むのも当然っちゃ当然だよな。」
遥斗は全く知らなかった。この都市ができたのは5年前。父が死ぬ前に、この都市で何か起こったのだろうか。
「そういう和成は、なんでここに?」
遥斗は聞いた。探りを入れるのもあったが、純粋に気になっていた。
和成は明るく、笑顔だ。地上でも上手くやっていけるはずなのに、ここにいるのは何故なのだろう。
「最初はただ、家族に連れてこられただけさ。
でも今は、君のお父さんみたいな人になりたいと思ってる。
だから、君のお父さんが守ったこの場所を、俺が守っていくんだ。」
和成は真っ直ぐな瞳でそう言った。
「そっか…5年前って一体なにがあったんだ?
実は、父ちゃんはなにも言わずに家を出ていって、その後に…」
5年前、遥斗の父は突然いなくなった。遥斗にコインを、結愛にお守りを渡した翌日の出来事だった。
結愛の笑顔を必ず守れ。これは、父から最後に聞いた言葉であり、遥斗と父の約束だ。
「知らなかったんだな…天城さんは、俺のことを庇って死んだ。
5年前のこの都市は、神裔の平和を掲げつつも実際は酷かったよ。
ある男が全てを管理し、無理なルールを押し付けて、神裔を容赦なく処刑する。
でも、君のお父さんが住民たちをまとめあげ、その男を追い出すことができた。
でも、天城さんは死んだんだ…弱い俺を庇って。本当にごめん、遥斗。」
和成は遥斗に謝る。その話を聞いて、遥斗は驚くと共に、少しだけ嬉しさがあった。
「大丈夫だよ、もう過ぎたことだ。
それより…この都市に、こんな事があったんだ。父ちゃんは、みんなの笑顔を守るために戦ってたんだな。」
遥斗の父は、今の遥斗と同じように正義のヒーローだった。
その事実を知って、遥斗は孤独な潜入も耐えられるかもしれないと感じる。
「そっか、ありがとう…って、話しすぎたな、麺が伸びてる!」
ラーメン屋の店主が睨んでる中、2人はズルズルと麺を啜るのだった。
一方、継裔会の秘密基地。
ミオラは鼻歌を歌いながら、祭壇を掃除していた。
そこに、ゼクスがやってくる。
「おや? ミオラ、1人ですか?」
ゼクスはミオラに問う。ミオラはゼクスの方を見た。
「そうだけど…どしたの?」
ゼクスは、ふっと笑う。そして言った。
「貴方の力が1番厄介だ…邪魔なヴァルガも足止めできたようですし、今が好機ですかね。」
そう言うと、ゼクスはアセンションギアを取り出す。ミオラがゼクスに聞いた。
「なに? それ。私は別にあんたと戦おうなんて思ってないよ?」
ミオラの声色が少し低くなる。ゼクスは笑うと、ギアにペガサスのコインを入れた。
「はっきり言おう。今日から、私はあなたたちを裏切ります。まずは、ヒュドラの力を頂きますよ。」
ゼクスが紐を揺らすと、ガラガラと鐘の音が鳴った。ペガサスの影がゼクスを包み、戦士ルーサスとなる。
「へー、遥斗くんみたいなことするんだね。」
そう言ってミオラがコインを取り出す。その瞬間、ルーサスは麒麟コインをギアへ投入した。
ルーサスが高速で移動し、一瞬でヒュドラコインを奪い取る。
「ちょっとー、それは卑怯なんじゃない?」
ミオラが文句を言う。
その時、天城遥斗が偶然その場にやって来た。
それを見たルーサスは、急いでギアにヒュドラコインを投入した。
蛇の意匠が施された剣が、生成された。
「知的、と言ってもらいたいものですね。」
ルーサスがそう言うと、ミオラの腹部に剣を突き刺した。
「がはっ」
ミオラが血を吐き、倒れた。
「…ミオラ!? ゼクス、これはどういう状況だ! 仲間じゃないのか?」
遥斗は目の前で見たショッキングな状況に驚いた。遥斗が見た瞬間には、もうミオラが貫かれていたのだ。
「ミオラ! おい、ミオラ!!」
倒れたミオラの元に駆け寄る遥斗。直後、ミオラの体が光ると、傷口が消えていた。
「はぁ、いきなり突き刺すなんて酷いじゃない。...あれ? 遥斗くん! 心配してくれたの?」
ミオラは元気にそう言った。生の権能恐るべし。
「貴方は、死にたくても死ねない哀れな女ですものね。
ですがもうヒュドラの力は奪いました。無力な貴方に用はありません。」
死にたくても死ねない…その言葉が遥斗に引っかかる。
「言ってくれるじゃない。でも、ここに来てあの地獄は終わった。
今はとーっても楽しめてるから、この力にも感謝してるよ?」
ミオラの言葉の節々から、遥斗は察するものがあった。
恐らくミオラは、想像を絶するほどの苦しみを味わってきたのだろう。
「せっかくです。このアセンションギアの力で継裔会を破壊しましょうか。
貴方の楽しみとやらを消すのもまた一興です。」
遥斗は、ゼクスがアセンションギアを持っていることに驚く。
かつて聖也が戦ったルーサスの名に、彼は泥を塗ろうとしている。
「…継裔会は、父ちゃんが守ったこの都市は、壊させない。」
遥斗は静かな怒りが込み上げてきた。この地に住む人々や、ミオラの幸せを平然と踏みにじろうとしているゼクスに対しての、怒りだ。
エクリブリアムを取り出すと、4枚のコインがセットされる。
それを天に掲げ、リループ・ゴセイとなった。
リループ・ゴセイとルーサスは、互いに剣を構えるのだった。
【所持コインリスト】
天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、朱雀、玄武、青龍、白虎
一条煌…フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス
ゼクス…ペガサス、グリフォン、キマイラ、麒麟、ヒュドラ




