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15.絶望の獲麟!? ジズ降臨!

『正義が、俺の中にはあった。


 純血の神裔しんえいの家に生まれた俺は、人間と神裔の間にあった出来事を知っている。もう両者は手を取りあって、平和な日常を送っているんだ。


 幼少期から、リループの伝説を聞いて育ってきた俺は、正義のヒーローに憧れていた。だから、平和な日常を守るために、警察官になろうと思っていた。


 ただ漠然とそう思っていたが、5年前の継裔会けいえいかいの発足が、全てを変えた。

 俺はお前と出会ったんだ。そこから全てが始まった。


 あの時のお前は、ただ神の研究に没頭していたな。世界なんてどうでもよくて、俺すらも純血の神裔として研究対象としか見ていなかった。


 三上さんの作ったセイヴァーに席を置いたのも、ただ研究をするためだ。

 だから俺は、お前にコインを渡さなかった。フェニックスの力は、研究ではなく純粋な正義のために扱うべきだと感じていたからだ。


 あの日、お前を信じるまで、俺とお前はいがみ合っていたな。

 でも、今のお前には正義がある。

 だから、俺は、お前の正義を守るよ。』



◆◆◆



「無事にゼクスを倒し、おめでとう…って空気でも無さそうだ。」


 セイヴァー本部 司令室。戦いから戻ってきた遥斗はるとこう聖也せいやを迎える霧島は、重苦しい空気を感じ取った。


「とりあえず、ディバイドギアの修復は無事に完了した。」


 霧島は遥斗にディバイドギアを渡す。まるで、目の前の現実から目を背けるように。


「…霧島さん、ありがとうございます。」


 遥斗も、重苦しい表情でそれを受け取った。

 司令室に沈黙が流れる。


「霧島さん! 彼は本当に、セイヴァーの司令官で、僕たちと共に戦ってきた戦士なのですか?」


 口を開いた煌は、霧島にそう聞いた。セイヴァーに来るまでの道中で、聖也の話は聞いていたらしい。


「どうやら、本当に忘れてしまったようだね…」


 霧島は悲しい顔で煌を見る。もはや聖也のことを覚えているのは、霧島と遥斗しかいないのかもしれない。


「…一条。いつかお前が俺を忘れるのも、覚悟の上だった。だがこれだけは忘れないで欲しい。

 例え俺がいなくても、お前の中に正義はある。その正義だけは、忘れるな。」


 聖也は、涙を堪えながら煌に告げた。煌は困惑している。


「…ちょっと、出てきます。」


 煌はそういうと、ディバイドギアを置いて司令室を後にした。自分が大切な人を忘れてしまったらしいと知り、その空気に耐えられなかった。


「アセンションギアは、もう使ってはいけない。私が預かるよ。」


 霧島は、聖也に静かにそう告げる。だが聖也は、アセンションギアを出さなかった。


「私まで君のことを忘れてしまうかもしれない。私は、君から正義を教わった。君を忘れるということは、私が正義を忘れるということだ!」


 霧島が珍しく大きな声をあげる。だが、聖也は動かなかった。


「…聖也さん、約束、しましたよね。俺が四聖獣しせいじゅうの試練を突破したら、もうギアは使わないって。」


 遥斗は静かに言う。

 それを聞いた聖也は、ゆっくりギアとコインを取り出し、机に置いた。それを霧島が回収する。


「もう、俺はセイヴァーの司令ではない。戦士ですらなくなった。これから俺はどうすればいいのだろうか…」


 聖也にとって、セイヴァーとして、戦士として戦うことが唯一の居場所だった。

 世界を救うため、全てを投げ出してきた彼は、その立場を失ったことで先を見失った。


「煌くんのディバイドギア…彼がなぜこれを置いていったのかは分からない。

 でも、これは元々君のためのシステムだ。記憶を失っても、彼の心がこれを君に渡そうとしたのかもしれない。

 アセンションギアを使わなくても、これなら君は戦士でいられるさ。」


 聖也は、煌が置いていったディバイドギアを手に取った。


「それから、遥斗くん。ゼクスの持っていた麒麟きりんのコインだが、私に貸してくれないか。

 彼が知の権能を持っていたのなら、コインからなにか分かるかもしれない。」


 遥斗は、コインを霧島に渡す。そしてあることを思い出した。


「ゼクスは、やられる直前、なにやら不吉な言葉を呟いていました。」


『麒麟の死がどういう意味か…あなた達の、未来は…』


 この言葉が何を意味するのか、遥斗は引っかかっていたのだ。


「麒麟の死…獲麟のことか。麒麟が死んだ後、世界が破滅するという意味で…」


 霧島は、言葉に詰まった。そして、聖也にあることを告げる。


「…そういえば、隠していたことが1つある。このアセンションギアは、ゼクスが作ったものだ。

 ならもしかしたら、アセンションギアの代償は、ゼクスが意図して仕込んでいたのか…?」


 遥斗と聖也は驚く。聖也の記憶の消失は、ゼクスの残した置き土産だったわけだ。


「本当に、申し訳ない。私は自分の研究のために、君を犠牲にしようとした。君から正義を教わったのに、また研究の道へ走ろうと…」


 聖也は、霧島の言葉を静止する。そして、静かに語りだした。


「途中で気づけたのなら、それでいい。お前の中に正義が芽生え始めている証拠だ。お前が俺を忘れる前に、それに気付けた。

 お前の研究者の部分が消えないことは分かってる。少しでも正義の気持ちに目覚めたのなら、それは成長だ。」


 聖也は、優しい笑顔だ。以前の作り笑いではなく、本当に心からの笑顔だった。




 一方、一条煌は1人でセイヴァーを歩いていた。


「僕は、あの人と知り合いだったんだな…」


 煌は、1枚の写真を見つめる。部隊長に就任した時のものだ。煌と霧島が映っているが、右側が不自然に空いている。


「ここに、あの人がいたんだ。」


 煌は、現実を受け止めようと思った。あの人とずっと関わっていけば、いつか思い出せるかもしれない。

 例え思い出せなくても、新しく思い出を作っていけばいいはずだ。

 そんな煌に、ある人物が話しかける。


「記憶を…取り戻したくないかね?」


 セイヴァーの創設者、三上蒼一だった。


「三上さん…? こんな所でどうしたんですか?」


 三上は、セイヴァー内でも滅多に見かけない。創設者でありながら、その素性は謎な人物だ。


 煌は聖也とアセンションギアに関する記憶を失っている…当然、三上への警戒もないのである。


「私に着いてくれば、君の記憶を取り戻せるかもしれない。」


 三上は煌を自身の隠し部屋へと案内する。煌はただ、それに続いた。


 セイヴァー地下のなんの変哲もない壁。その壁に三上が手を当てると、左右に開いて部屋が出てくる。


「さあ、入りたまえ。」


 三上は煌を部屋へと入れた。煌はその部屋を見て唖然とする。

 その部屋には、様々なゴズコインが並んでいたのだ。


「なぜこんなにコインが…」


 煌は、驚いた。三上は一体何者なのだろうか。


 その時だった。


 三上は煌を、後ろから拘束しようとする。

 即座に気づいた煌は、それを躱す。そしてディバイドギアを取り出そうとしたが…無かった。司令室に置いてきたのだ。


 すぐに携帯を取り出し、遥斗へ電話をかけようとする。そこに、三上の蹴りが直撃。携帯を落としてしまった。


「くっ…随分な歳なはずなのに、こんなに動けるとは…」


「君とは…経験が、違うのだよ。」


 三上はそう言うと、部屋の棚にあった拳銃を取り、打つ。

 咄嗟に煌は射線を切り、棚から拳銃を取る。


 広い部屋、数々のコインに囲まれる中で、銃撃戦が幕を開けた。


 三上と煌は、互いに隙を探りつつ銃を放つ。だが、セイヴァー創設者の三上と、戦士としてこれまで戦ってきた煌は互角だった。


 三上が机の紙束に銃を当てる。紙が机から落ち、物音を立てた。

 煌が一瞬それを見た時に、三上は弾丸を放つ。

 煌は頬にかすりつつも、なんとか避ける。が、煌の後ろのコインに命中した。

 命中したコインにヒビが入る。


「さて、終わりにしようか。」


 三上が再びそのコインを撃ち抜くと、コインが完全に砕ける。


 その時、コインから神獣が現れた。


 無数の蛇を髪に持ち、黄金の翼を持つ神獣…メドゥーサ。

 煌は警戒して後ろを見る。メドゥーサと、目が合ってしまった。

 煌の体が足元からじわじわと石になっていく。


「くっ…ここまでか…

 なぜあんたが僕を殺そうとしてるのかは分からないが、その野望は潰える。

 きっと、遥斗が…」


 その言葉を最後に、煌は完全に石となった。

 三上は、ポケットから無地のコインを取り出すと、メドゥーサに投げる。

 コインに、メドゥーサが吸い込まれた。


「やれやれ、交渉材料の調達にも一苦労だ。」


 三上は、石となった煌を担いでどこかに行くのだった。




 その夜、継裔会の秘密基地。


「ゼクスやられちゃったんだー。遥斗くん、そんなに強くなったんだね。次は、私が遊ぼーっと。」


 ミオラは、ゼクスの死を悼むことなくそう呟く。


「待て、ミオラ。次の計画は動き出している。」


 ミオラの呟きに反応したのは、ヴァルガとは違う声だった。聞き覚えのない声に、ミオラとヴァルガはその方を向く。


「初めまして、私は三上蒼一。ゼクスの師にして、継裔会の創設者だ。」


 現れた男…三上はそう言った。ミオラは敵意のある瞳を向ける。


「三上…ゼクスから話には聞いたことあるな。創設者が今になってお出ましとは、何の用だ?」


 ヴァルガは三上に詰め寄る。


「セイヴァーを潰し、継裔会が支配者となる。その計画は、既に始まっているのだよ。」


 三上は怪しく笑う。そこにミオラが口を挟む。


「えー、なんであんたの言うこと聞かなきゃいけないわけ?私は計画なんてどーでもいいの。」


 ミオラは自由奔放だ。そこに、三上が返す。


「そうだな。たが、この計画が完了すれば天城遥斗以外の戦士は消える。邪魔なく存分に戦えるさ。」


 それを聞いてミオラは笑う。悪くない、といった風だ。

 だが、ヴァルガが反発した。


「創設者だからって、それに従う義理はねぇ。」


 三上はそれに対しても、笑いながら返す。


「ああ、確かにそうだろう。ここは1つ友好の証として、私からのプレゼントを贈らせてもらうよ。」


 そう言って三上が外から引っ張ってきたのは、石となった一条煌だった。


「この祭壇の前で、気高き鳥…彼を、壊す。そして、ジズを降臨させてみせよう。」


 三上はそう言った。ジズ…空を象徴する怪鳥だ。


 石となった煌が祭壇の前へ置かれる。


「ふっ、おもしれぇ!いいだろう、貴様の計画に乗ってやる。」


 ヴァルガはそう言うと、コインを弾いた。ベヒモスの怪人へと変貌。


「あばよ、弱っちいセイヴァーの戦士さん!」


 ヴァルガが煌を殴りつける。煌だったものが、粉々に砕け散った。


『ジィイイイイ!!!』


 その瞬間、世界中に叫び声が響く。


「さあ、ジズの降臨だ!」


 三上は高らかに叫ぶ。そして無地のコインを祭壇に向けると、そのコインが光った。

 光が収まると、コインの絵柄には巨大な鳥が。ジズコインが誕生したのだった。


 こうして三上は、ヴァルガと手を組んで最悪の計画を始めるのだった。

 これは、絶望の始まりに過ぎない。





【所持コインリスト】


天城遥斗…フェンリル、ケルベロス、朱雀、玄武、青龍、白虎


飛翔聖也…ペガサス、グリフォン、キマイラ、スカラベ


三上蒼一…ジズ、メドゥーサ、フェニックス、レヴィアタン、スフィンクス…

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