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私の幼なじみの自認がうさぎなんだけど…  作者: 花田一郎
第4章「誰かのための巣穴」

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第24話「奈緒にも巣穴が必要だよ」

 巣穴カフェで出す食事メニューが概ね決まる頃、みんなが作った巣穴も完成に近づいていた。


「今度こそ、正真正銘の完成です……開閉式の出入り口の精度を限界までブラッシュアップした、心配性の齧歯類も安心してくつろげる私の巣穴です……! 森田先輩、ご査収を!」

「段ボール工作でよくここまでツライチにしたわね……一般家庭の猫用出入り口よりも精度が上に見えるんだけど……」


 放っておくと遊園地の大迷路を造りかねない如月だけど、私がこまめに安全性について指摘すると、その都度素直に対応してくれていた。

 結果として彼女の巣穴は『狭くて落ち着ける居住スペース』と『居住スペースよりも大きな脱出路』が両立した、どちらかといえば子供が喜びそうなアトラクション的なブースになっている。

 中でも脱出路へつながる出入り口、そのフラップ式ペットドアを思わせる機構は、まるで業者に裁断してもらったような精度だった。

 ……如月って、ハムスターになるよりも建築設計の仕事に従事したほうがいいんじゃないかしら……本人は「もっと時間とスペースがあれば、回し車も作れたのに……」なんて努力の方向音痴ぶりを見せていたけど。


「んーふふ、遥ちゃんの巣穴も負けてないよ! カニはインテリジェンスな進化先の代表格、だからこそブース内の飾り付けに“カニ・うさぎ・ハムスターの歴史”みたいな役立つTipsもちりばめてみたよ♪」

「外側は派手なのに、内側は妙にためになる情報……あんたらしいわね。ちなみに、今回は褒め言葉よ」

「今回は!? 普段はどーいう意味かなぁ!?」


 そして個人的に“この中で一番何をしでかすかわからない存在”である星は、飾り付けの安全性を確保していただけでなく、内側の充実に力を入れていたらしい。

 文化祭で使うブース内には、さまざまな生き物の生態についての豆知識が書かれた、いくつものリフィルが貼り付けられていた。カラフルなペンと可愛らしい文字は星の性格が出ているだけでなく、小難しい内容もどこか親しみやすくなっている。

 念のために書かれている内容の真偽について軽く確認したけれど、大きな間違いはなかった。こいつ、本当に頭がいいのよね……普段の言動で帳消しにしているように感じるんだけど。


「陽菜多の巣穴は……うん、やっぱり安定しているわね。その調子で頼むわよ」

「ちょっと! 奈緒ちゃん、やっぱり陽菜多ちゃんにだけは甘くない!? もっとカニとハムスターも可愛がってよ!」

「ぷぅぷぅ。奈緒は犬派であると同時にうさぎ派だからね」

「わかります……森田先輩はまるで『うさぎの面倒を見るゴールデン・レトリバー』、動画サイトで見かけるような光景が目の前で繰り広げられている……私、この同好会に入れて本当によかったです……!」

「別に贔屓してないわよ! 陽菜多は元々いい子でしょ!」


 陽菜多の巣穴については、本当に──いい意味で──言うことがない。

 ちょっと眠気を感じる程度に薄暗く、天井が近く感じる程度に狭くて、目隠しは天蓋のように優しく包んでくれている……星と如月には多少悪いという自覚もあるけれど、私はやっぱり、陽菜多の作る巣穴が一番好きだった。

 この巣穴に入って目を閉じるたび、二人で制服のジャケットをかぶった日の薄暗さが、星のようにまぶたの裏へ灯った。


「私たちの巣穴は、だいたい完成したから……そろそろ奈緒用の巣穴も作ろうよ。文化祭で出すためのブースでもいいし、ここでくつろぐための巣穴でもいいよ」

「文化祭用ならともかく、ここで過ごすための巣穴なら陽菜多の隣があるから大丈夫よ。それに、残り時間だってそんなにないし……」


 陽菜多の巣穴から出ると、彼女に迎えられてそんな提案をされた。陽菜多の手を取って立ち上がりつつ、私は今後のスケジュールも考えて遠慮する。

 ましてや、自分が過ごすための巣穴を作ってしまえば、『陽菜多に引っ付きながら過ごすための口実』を失ってしまうような気がした。私は自分のパーソナルスペースと同じくらい、陽菜多と過ごせる空間が大切なのだ。

 長く一緒に過ごすと恋心はゆっくり冷めていくらしいけれど、私の場合は年々持て余すほど熱されていった。煮物だって、こんな温度は必要ない。


「だって、奈緒だけ巣穴がないのは、なんとなく寂しいから。だから、そうだな……奈緒は犬っぽいし、犬小屋……犬みたいな巣穴がいいと思うんだよね」

「今、犬小屋って言ったわよね? というか、犬の巣穴って時点で犬小屋と大差ないでしょうが!」

「犬小屋かぁ……睦美ちゃん、奈緒ちゃん用の犬小屋って作れそう? 入口の上のほうに『なお』ってネームプレートも設置する感じの!」

「あっ、それじゃあ設計図を作ってみますね……とりあえず、内側にはうさぎ先輩の写真をたくさん貼り付けないと……!」

「あんたらもやる気を出すんじゃないわよ! いいから、今は文化祭のことだけ考えなさい! 優先順位を忘れない!」


 陽菜多の考えをストレートに表現すると、『奈緒が欲しいかどうかよりも、私が欲しいから』といった感じになるだろう。

 ……その気持ちは、顔がにやけそうな程度には嬉しい。犬小屋扱いされたことを差し引いても、私のことを思って行動しようとしてくれる陽菜多は、いつも恋心をくすぐってくれるのだから。

 それゆえに真っ向から拒絶できない私は、文化祭をだしに照れ隠しをするしかなかった。私が手を叩きながら作業を再開させると、三人は声を揃えて「は〜い、ママ」なんて言ったので、「ママじゃないわよ!」と訂正しておいた。


 *


 部活が終わって帰る直前、陽菜多と二人きりになる時間。私はこの瞬間が、線香花火が燃え尽きる前のように美しく感じていた。

 星も如月もすぐに帰ってしまうのは、気を遣ってくれている証拠なのかもしれない。


「……ねえ、陽菜多。“私のための巣穴”って、本当に必要なのかしら」


 あえてゆっくり荷物をまとめながら、隣で試食用のクッキーをもぐもぐしている陽菜多に尋ねる。食いしん坊だけど一口が小さい彼女は、本当にうさぎみたいな口の動きで愛らしい。

 そんな陽菜多しかいないからこそ、私は素直に質問できていた。世話をする側だった私に、“それ”が必要なのかどうか……今もずっと、迷子だった。


「それを決めるのは私じゃないよ。私は奈緒の巣穴が欲しいけれど、もしも奈緒が『陽菜多の巣穴で十分』だって言ってくれるなら、私は私の巣穴を、奈緒のためにも守り続けたい」

「……そんなふうに言われたら、私は」

「けどね、“奈緒の好きなもの”が詰まった場所も見てみたいって思うんだ。奈緒が好きなものなら、きっと私にとっても好きなものだから」


 陽菜多の巣穴がいい。陽菜多と一緒にいられるから。

 そんな本音を口にするには、この子はとてもずるかった。私は……陽菜多が好きだと言ってくれるものを、無下に扱いたくない。

 陽菜多が大切にしたいと言ってくれる、私自身の“好き”。それなら私も、少しくらい大切にしてみたかった。そうして自分のための場所を選ぶ私は、もしかすると「そんな自分が好き」と言える私に少し近づけるのかもしれない。


「……どうしても作るんなら。昔一緒にいたあの子が使っていたような巣穴がいいわね。犬用の、ふかふかベッド」

「そっか。じゃあさ、一緒に作ろうよ」


 犬小屋に引っ張られたわけじゃないけど。それでも私にとっての巣穴と考えて浮かぶのは、私と一緒にいてくれた家族、愛犬の寝床だった。

 それはただ単にあの子が眠るのに使っていただけじゃなくて、お気に入りのボールとか、クッションとか、あの子が好きなものが持ち込まれる場所。

 そして小さな頃の私はそこで一緒に過ごすことも多くて、今思うと、私もあの子にとっての好きなものだったと思ったら……それは、私の目指す『大切な人との巣穴』に見えたのだ。

 陽菜多は私のぼんやりしたイメージに、二つ返事で乗ってきた。手を握られて、吐息が漏れそうになる。


「行こう、奈緒。お母さんに『奈緒の家に行くから、今日は遅くなるかも』って伝えておくから」

「ちょ、ちょっと、今から? 別に、またの機会でも」

「奈緒が『優先順位を大事にしろ』って言ってたでしょ? 私たちにとって、きっと大切なことだから……善は急ぐウサね」


 陽菜多は私の手を握ったまま、夕焼けの中を飛び跳ねるうさぎのように歩き出した。もちろん私は、引っ張られるがまま。

 本当に作るかどうかもわからないのに、陽菜多と少しでも長く過ごす口実になっていることを、現金な私は内心で喜んでいた。

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