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私の幼なじみの自認がうさぎなんだけど…  作者: 花田一郎
第3章「私たちの巣穴」

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第22話「いいじゃないですか、許可します」

「これが私たちの文化祭での出し物、“巣穴カフェ”の企画書です。確認お願いします」

「巣穴カフェ……初めて聞く日本語だが、うむ、ちゃんと目は通させてもらう」

「あ、このイラスト可愛いですね……カニさんが砂浜の巣穴から顔を出してます」

「んふふ、さすが生徒会長! それはあたしの渾身のイラストだよっ! ペンをハサミで握って丁寧に描きました☆」


 ついに文化祭の企画書をまとめた私たちは、それを提出するために生徒会室へ来ていた。

 今は生徒会も忙しいのか、ここにいたのは副会長と会長だけだった……会長、ちゃんとここで働くことがあるのね。

 なんて失礼なことを考えつつ、私たちは企画書をめくる二人を祈るような気持ちで見つめていた。


「……巣穴ごとの環境の違いを、カフェスペースとして再現……利用人数、安全対策、飲食物、アンケート方法までちゃんとまとめてあるな。初めての企画書作成としては、とても頑張っていると思う」

「ありがとうございます。弥生先生も忙しいのに何度も顔を出してくれて、その都度、企画書の書き方について指導してくれたんです」


 副会長は隅から隅まで確認するように、時間をかけて企画書を読んでいる。その隣では「あ、このうさぎさんのイラストも可愛いです……」なんて生徒会長が目を輝かせていた。この人の仕事って、何なのかしら……。

 ともかく、最初の掴みとしてはそんなに悪くない。今はここにいない弥生先生の指導は、決して無駄じゃなかった。多分今ごろは、飲食店をするということでほかの先生たちにも根回しをしている頃だろう。

 だからこそ、ここで私たちが企画を通さないといけない。そう意気込んでいたら、副会長の「ただな……」という含みのある声が聞こえた。


「企画単体ではよくできているとは思うんだが、やっぱり『これのどこが生物進化研究?』という疑問があるな……あなたたちは真面目にやっているのだろうけど、よくわからない部活名で煙に巻いた連中もいたから、その辺は厳しくせざるを得ないんだ」

「……それは……」


 世の中のルールは『破る人間が出てくるほど厳しくなる』という傾向があるけれど、今になってくだんの問題を引き起こした連中、オンラインセミナー同好会を恨みたくなった。

 私だって、副会長の言葉には説得力を感じる。そもそも、今この瞬間ですら「生物進化研究って何かしら……」なんて、哲学的な問いに答えを出せないでいた。

 陽菜多たちもその辺についてははっきりとした答えがまだないのか、別の動物園に引っ越したばかりの生き物みたいに静かだった。

 となると、飼育係として見なされている私が何とかするしかない。苦し紛れを自覚していても、それは無抵抗よりはマシだと信じられた。


「生物というのは……ほら、環境に合わせて進化しますよね。人間だって、道具や社会に合わせて暮らし方を変えてきました。だから私たちも、自分たちに合う場所を……その、進化させる研究なんです!」

「……生物進化とはいったい……あなたたちと話していると、私までわからなくなってくるぞ……」

「海さんは真面目ですからねぇ。ふふふ、こういうときこそ、この生徒会長である大寺花恵(おおでらはなえ)が決断せねばなりませんね」

「え!? 生徒会長さん、そんな名前だったのぉ!?」

「えぇ……たしかに名乗ってなかった気がしますが、これまで知らなかったんですか……ちょっとショックです、くすん」


 これまで新聞紙の上で寛ぐ猫みたいに企画書を読んでいた生徒会長……大寺先輩は、ようやく背筋を伸ばして私たちに微笑みかけた。ちなみに、私も本名は知らなかった。

 星のツッコミにわざとらしい泣き真似をしたかと思ったら、一度だけ咳払いして、企画書を両手で持ったまま私たちに差し出してくる。その所作は、いつか卒業式で全校生徒を代表しても恥ずかしくないほど堂々としていた。


「あなたたちの企画、とてもいいと思います。ですので、生徒会は生物進化研究会の、巣穴カフェの出店を許可します」

「会長!? 失礼を承知で聞きますが、本当に最後まで読んだんですか!? 生物進化と巣穴カフェ、これでは周囲も納得が」

「海さんはもうちょっと私を信じてですね……そして、企画書のこの部分をもう一度確認してみましょう」


 ちっちっちっ、生徒会長は猫をじゃらすように指を振る。もちろん生真面目な副会長はそれで納得するはずがなく、すぐに再考を促した。

 会長は私たちへ返す前にもう一度企画書を開き、いくつかの項目を指でなぞる。まるで、私たちに代わってプレゼンテーションでもするように。


「まず、巣穴とは『誰かのための落ち着ける場所』ですよね? これは来場者が一休みするための休憩所のような役割を持てます。ただ単に休憩所として提供するのなら、独自性はありません。しかし、休憩所を“進化”させ、より落ち着ける場所として巣穴を作るというのは、騒がしさゆえに疲れる人も出てくる文化祭においても大変有益かつ目新しさもあるでしょう」

「ぬ、ぬうぅぅぅ……こういうときだけ口が回るのですから……」

「海さん、私を素直に評価してくださいよ……おっと、話が逸れてしまいそうですね」


 ……この人、やっぱり生徒会長なのね……内心で失礼な意見を重ね、私はその言い分に聞き惚れそうだった。

 現にあの副会長ですら、生徒会長の言葉には真っ向からの反論をしない。それは単なる上下関係だけじゃなくて、漫才のようなやりとりの中に、少なからず信頼を覗かせていた。


「そして、活動実績を測るためのアンケートも面白いです。どんな環境に落ち着くか、どんな要素に安心できるか……それを知ることは同好会の活動実績になるだけでなく、来場者自身が『自分はどんなときに安らぎを感じるか』を見つめ直す機会にもなります。そうした違いを進化と捉える感性は、多様な文化が並ぶ催しにおいて必要なものだと考えます」

「……会長……では、本音も聞かせてもらえますか?」

「……文化祭での見回り、かなり疲れるので……私も休める場所が欲しかったんです……あっ、もちろん出し物自体がよかったというのも本当ですよ?」

「あなたという人は……! はぁ、もう……」


 ……見直して損をしたのか、それとも正当な評価だったのか、自分の判断が迷子になっていた。

 そして副会長は生徒会長から「怒らないでくださいにゃあ……」と両手を上げながら言われて、深いため息をついた。

 それでも最後は会長と同じように企画書を両手で持って、私たちに戻してくる。そして、小さく頷いてくれた。


「巣穴カフェの出店を許可する。そして教室の継続使用の可否については、お店の運営状況とアンケート結果によって判断する……これでいいか?」

「! はい、ありがとうございます!」

「やったぁ! 花ちゃん先輩、ありがとー!」

「うふふ、どういたしまして。ああそうだ、私は猫さんが好きですから……猫さんが落ち着けるような巣穴もあれば、当日はゆっくり休めて助かります」

「お、お任せください! 当日に向けて、段ボール工場から最高品質の箱をお取り寄せいたしますので……!」


 こうして私たちは生徒会の許可を得られて、巣穴カフェの準備に取り掛かった。

 もちろん、まだまだ課題はある。どんな巣穴を作るか、どんな料理を出すか、どうやって段ボールを調達するか……大変なことばかりだ。とりあえず、如月が提案したような高い段ボールを確保するのは見送るだろうけど。


「奈緒、ありがとう」

「……私は何もしてないわ。みんなが頑張ったからよ」

「そのみんなの中に、奈緒だっているでしょ? そしてあの教室は、奈緒の巣穴でもあるから……一緒に作ろうね、『誰かのための巣穴』を」

「……ん」


 それでも私は、きっとへこたれない。だって、いつも隣に陽菜多がいてくれるから。

 袖を小さく引っ張ってくる陽菜多に返事をして、微笑む。すると副会長に「相思相愛はいいことだが、校内での不純交友は禁止だぞ」なんて言われたので、「そういうのじゃありませんから!」と取り繕った。

 そして私たちの、新たな巣穴作りが始まった──。

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