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私の幼なじみの自認がうさぎなんだけど…  作者: 花田一郎
第3章「私たちの巣穴」

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20/25

第20話「本当にいいの?」

「それじゃあ、まずは陽菜多の『誰かが落ち着ける巣穴を作って、安心してもらいたい』というアイデアから出し物を考えましょう。ちなみに、私は……」


 差し入れで頬を膨らませている如月を一瞥する。お菓子を喜んで食べる妹の姿が、ふと頭をよぎった。私は手元の紙に、自分なりのアイデアを書いてみる。

 自分は部長だから……なんて殊勝なことは考えていないのだけど、自ら進行役のような立場に落ち着いた以上、一例くらいは示すべきだろう。

 ちなみに星は「この差し入れ、本当においしいねぇ……奈緒ちゃん、あたしの嫁に来ない?」なんてほざいたけれど、陽菜多が「うちの奈緒は嫁にやらないよ?」なんて真顔で突っ込んでいた。どこ目線なのか謎だけど、ちょっと安心する。


「みんなの巣穴の違いを元に、明るさ・狭さ・音・外からの見え方とか、落ち着ける環境の違いを来場者に体験してもらうっていうのはどうかしら。ここは生物進化研究会なんだし、そういう簡易的な環境の違いを巣穴作りを通して再現すれば、ちょっとした休憩所みたいにもなるかもしれないわ」

「うん、いいね。星さんも如月さんも器用だから、そういうスペースを量産するのとかもできそう」


 率直な自己評価をするなら、私の案は過去の話し合いでも指摘された、『小学生の自由研究』に近いと思う。こういうとき、心の中にうさぎなどの生き物を育ててこなかった自分の平凡さが恨めしかった。

 ……というか、この子たちのように特定の動物を心に住まわせている人のほうがレアなのだけど。みんなと一緒に過ごしていると、逆に自分のほうが珍しい生き物みたいに感じた。

 それでも陽菜多は、涼しげでありながらもしっかりと同意してくれた。好きな人の肯定だけで浮かれそうになる自分が、またしても恨めしい。


「あたしもその方針はいいと思う! でもさ、ここを休憩所っぽくするんなら、あたしのカニ穴を応用して、腰を落ち着けつつ外の様子を眺められるスペースなんてどう? そうすれば、ほかの展示物をゆっくり見られていいと思うな〜。あ、展示物は巨大なカニ模型を推奨するよっ!」

「バリエーションとしてはいいと思うけど……巣穴と展示物の両方を用意するのは大変じゃないかしら? というか、カニ模型は悪目立ちして落ち着けないでしょ。ここは食い倒れの町じゃないんだから」


 元々星の巣穴は『みんなの様子を眺められる場所』という仕組みだけあって、落ち着く場所であると同時に、誰かとの交流を妨げない作りでもあった。

 最近はそれもこいつの美徳だと思えるようになりつつあるけれど、陽菜多や如月とは明確に方針が異なっていて、全面採用は難しそうだった。

 というか、カニの模型がいろいろと台無しにしている気がする。肝心の星は「みんなもカニになりたいはずなのに……」と残念そうだった。その自信、どこから出てくるのよ……。


「あ、あの、僭越ながら私も……段ボールで作った迷路の先に、休憩スペースを設置するのはどうでしょう……? あ、そのスペースから簡単に脱出できる通路も作ることで、『誰にも見つからないけど万が一のときは逃げ出せる場所』として落ち着くかも……」

「文化祭では迷路を用意するクラスもあるって耳にしたけれど……私たちの規模だとそれも大変だし、そもそも『迷路なのか巣穴なのかわからない』って副会長あたりに突っ込まれるんじゃないかしら……」


 おずおずと、それでもちゃんと自分の意見を言えるようになった如月に感心しつつ耳を傾けた。

 彼女自身がその迷路に迷い込んだような、面白いけれど採用の難しい案だった。最悪の場合は家庭科部のみんなに人手を貸してもらえそうだけど、「ここって何を目指してるの?」と突っ込まれそうだ……。

 だからできるだけやんわりと見送ったら、如月は「逃げることを前提に考える私はハムスター以下の微生物です……」なんてへこんでいた。この子の中の微生物、どんな存在なのだろう。


「ふう、やっぱり簡単には決まらないわね……陽菜多? どうしたの?」

「ごめんね、ちょっとだけ巣穴に戻るよ」

「……おおう? 陽菜多ちゃん、食べ物と飲み物を持って……自分の巣穴に?」

「……うさぎ先輩、可愛いです……」


 それまでは黙ってみんなと自分の巣穴を交互に見ていた陽菜多は、ついに立ち上がって巣穴へと向かう。

 その手にはお茶とお菓子が握られていて、巣穴へ到着すると同時に、まるで話し合いの途中であることを忘れた様子で黙々と食べ始めた。

 私たちは、その様子を眺める。陽菜多はすでにここにいるメンバーに対して心を開いているのか、視線が集まったとしても落ち着いていた。

 ……見慣れた光景なのに、私たちは全員が「可愛い」と感じている。人間に懐いたうさぎは寛いでいるだけでも愛らしいけれど、陽菜多の様子はそれを痛感させてくれた。


「……これかもしれない。みんな、ちょっといい?」

「それはいいけど、口元にお菓子がついているわよ。ちょっとこっち来なさい」

「わぷっ……ありがと、奈緒」

「……奈緒ちゃんってさぁ……実は人生二週目だったりする? あたし、たまに奈緒ちゃんが『子持ちの既婚者』に見えるんだけど……」

「失礼ね! 結婚どころか、誰とも付き合ったことないわよ!」

「ですよね、森田先輩はうさぎ先輩だけが好きで、うさぎ先輩も森田先輩だけが好きなんですよね……誰かと付き合ったことがあるだなんて、解釈違いです……」

「如月、聞こえてるわよ! 次に変なことを抜かしたら、そのほっぺたにシュワシュワするラムネをぶち込むわよ!」


 戻ってきた陽菜多の口元を拭うと同時に、星と如月が茶々を入れる。この流れは定番過ぎて、もはや話し合いの妨害ではなく、本題に入るまでの一呼吸みたいだった。

 だからこそ、陽菜多も気負うことなく自分の考えを伝えてくれる。


「えっとね、食べ物も一緒に出す、動物カフェ的な巣穴はどうかな? 私たちの巣穴を喫茶スペースにする感じで……ほら、うさぎカフェとかハムスターカフェとかあるでしょ? カニカフェは……ごめん、聞いたことない」

「陽菜多ちゃん、あたしのためにも先に調べるそぶりくらい見せてよ!? もうっ、日本は広いんだから、検索すれば一件くらい……なかったー!?」


 食べ物。陽菜多が口にした提案の中で、その単語はひときわ強い響きを持っていた。少なくとも、私にとっては。

 その意図が伝わった瞬間、嬉しさと同じだけの申し訳なさが胸に込み上げた。

 ちなみに星はカニカフェについて検索したみたいだけど、現実は残酷だったらしい。机に突っ伏して「あたしが作るしかないかなぁ……」なんてぼやいている。本当にやりかねないわね……。


「料理を出す以上は、奈緒の力が絶対に必要になる。だから、奈緒の意見が聞きたいよ」

「……私は。もちろん、いいけど」


 陽菜多から、「奈緒は私たちに必要な人だから」という、うさぎらしい声なき声が聞こえるようだった。

 陽菜多はいつも、私のことを見てくれていた。小さな頃から私の悲しみに気付いて、寄り添って。

 だから今も、「私は役に立てない」という、表に出していないつもりだったコンプレックスを見つけてしまったのだろう。優しすぎる陽菜多の気遣いは、もはや私の心に痛みすら伴わせた。

 それでも、拒否なんてできない。心の中に、新たな不安が芽生えたとしても。


「出し物の名前は……うーん、生き物カフェ、かな? いろんな生き物がいるから、これが無難かも」

「いやいや、それだとカワイさが足りないよ! もっと進化を感じさせる……カフェ・カーシニゼーションとかどうかな!? エボリューション!」

「あ、あの、店名もいいですが……皆さんは美少女なので、うさ耳やカニのハサミを模したカチューシャとか着けてみてはどうでしょう……うへへ、眼福です……」


 生徒会相手に啖呵を切ったときみたいに、陽菜多はいつも私たちのために突破口を作ってくれる。

 だからきっと、私たちはカフェを開くのだろう。けれど陽菜多の提案通りであれば、みんなの巣穴を展示物というよりも、いろんな人へ入れ替わり立ち替わり明け渡すようにも感じてしまう。

 ……カフェ……巣穴……。


「……“巣穴カフェ”……」

「!! それだよ、奈緒ちゃん! ああもう、なんであたしも気付けなかったんだろう……!」

「あ、いや……別に、すぐに決めなくても」

「ううん、私も奈緒のアイデアがいい。だから、決められることは今のうちに決めておこう」

「ですね……! 記録は任せてください、校外活動の時、うさぎさんたちに鍛えてもらいましたので……!」


 ここはみんなにとっての巣穴。それは変えたくない。

 だから、巣穴のままで多くの人の憩いの場になるとしたら? そんな疑問を口にしただけなのに、みんなは躊躇する私をよそに、統率の取れた群れを形成していく。


 巣穴単位で席を用意し、来場者に好きな環境で過ごしてもらう。

 それぞれの巣穴には個性を持たせて、どんな人でも落ち着けるようにする。

 最後に来場者にはアンケートを書いてもらい、どの環境が落ち着いたか、どの要素に安心を感じたかをまとめ、活動実績にする。


 こうして、巣穴カフェの骨格はあっという間に形になっていった。私の懸念を置き去りにしたまま。

 ……違う。みんなが勝手に突っ走っているんじゃなくて、私がそれを言い訳にしているだけ。

 カフェなら自分でも役立てること、なにより、陽菜多が私のために群れの先頭に立って提案してくれたことが、嬉しかったんだろう。


「……あの、陽菜多。この案でいく場合、あなたの大切な巣穴が……見世物みたいに」

「奈緒。今日は奈緒の部屋に行きたいけど、いい?」

「あ、うん……」


 それでも私は、か細い声で陽菜多に尋ねた。彼女の優しさに甘えっぱなしだと、きっと罪悪感で当日まで耐えられないから。

 誰かのための巣穴を作ることには賛成した。けれど、陽菜多が自分の巣穴まで差し出すつもりなら、それは少しだけ話が違う。

 だけど陽菜多は私の質問には答えず、机の上に置かれた私の手に、そっと上から自分の手をかぶせておねだりしてきた。

 その当たり前の行為を改めて尋ねられた私は「今日の私の下着、ちゃんと可愛いやつだったかしら……」なんて内心で色ボケをかまし、ますます罪悪感を積み増した。

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