第7話:ネオ・ヨコスカのネオンサイン
「うお、すっげえ……! 噂には聞いてたが、マジで街が丸ごと宇宙に浮いてるな」
ボロい作業艇のフロントシールド越しに、ルカは目を輝かせた。アヴァロンをデブリの陰に隠し、作業艇だけでやってきたのは、第17セクター最大の宇宙港『ネオ・ヨコスカ』。
無数の巨大な居住用リング(コロニー)が重なり合い、極彩色のホログラム広告が闇を派手に彩っている。ジャンク屋の辺境セクターとは何もかもが違う、欲望と活気に満ちたメガロポリスだ。
『マスター、あそこに見える『極上合成マグロ丼』という電子看板は何ですか? 私のデータベースにはない、非常に興味深い文字列です!』
ルカの胸ポケットから、少女の頭がひょっこりと飛び出した。といっても本物ではない。ネオ・ヨコスカの街のインフラWi-Fiに接続したことで、アイリスは携帯用の小型プロジェクターから、手のひらサイズの3Dホログラムとして現れることができるようになったのだ。
「あれはただのメシだ。データドライブが高く売れたら、本物を食わせてやるよ。お前はデータしか食えないけどな」
『む、意地悪ですね。では私は、あの輝くエーテル燃料の最高級グレードを所望します!』
「はいはい、予算が合えばな」
ルカは苦笑しながら、作業艇を指定のドックへ着艦させた。腰のバッグには、あの沈没船から命懸けで持ち帰った古代のデータドライブが収まっている。
二人が向かったのは、ネオ・ヨコスカの最下層。ジャンク屋や裏稼業の人間が集まる薄暗いスラム街だ。
怪しいサイバーウェアを仕込んだ露天商たちの間を抜け、ルカは目当てのジャンクショップ『鉄屑屋』の暖簾をくぐった。
「よお、オヤジ。極上のロストテクノロジーを持ってきたぜ。色をつけて買い取ってくれ」
カウンターにドライブをドン、と置く。サイボーグ化された隻眼の店主は、ドライブを一瞥した瞬間、義眼のレンズを激しく明滅させた。
「おいおい、ボウズ……。これをお前、どこで拾った?」
オヤジの声が、明らかに引きつっている。
「『星の墓場』の沈没船だ。旧大戦の機密データだろ? いくらになる?」
「馬鹿野郎、いくらになるかじゃねえ! これは……連邦軍の『最高機密・コード:アヴァロン』のオリジナルデータじゃねえか! こんなもんを街のネットワークに繋いだら、一発で軍の検閲システムに――」
その言葉が終わるより速く。店の外から、鼓膜を突き刺すような大音量のサイレンが鳴り響いた。
『――警告。ネオ・ヨコスカ警察、およびセクター駐留連邦軍です。店内のジャンク屋ルカ、および未登録AI。あなた方は連邦安全保障法違反の容疑で包囲されています。直ちに投降しなさい』
重厚なパワードスーツに身を包んだ連邦軍の特殊部隊が、店の入り口を一瞬で取り囲む。彼らを率いるのは、軍服を隙なく着こなした、冷徹な瞳の若い女性将校だった。
「チェックメイトよ、ジャンク屋の少年。古代の遺物は、すべて連邦の管理下に置かれるべき。……さあ、そのドライブと、あなたが隠している『本体』の居場所を吐いてもらいましょうか」
オヤジはすでに両手を上げてガタガタと震えている。一瞬にして、逃げ場のない絶体絶命の窮地に立たされたルカ。
『マ、マスター! どうしましょう、相手の武装は現行の最新鋭です!』
手のひらの上で、ミニアイリスがパニックを起こす。だが、ルカは不敵に口の端を吊り上げた。
「へっ、大層なお出迎えじゃねえか。だがよ、少佐殿。ジャンク屋を舐めない方がいいぜ。この街の『構造』なら、お前らより俺の方が詳しいんだよ!」
ルカは懐から、作業用の強力な電磁パルス(EMP)グレネードを引っ掴んだ。(




