第5話:お宝と、忘れられた約束
「さてと、お目当ての金庫室は……ここだな」
ルカは頑丈な二重ハッチの前に立った。完全に電力が落ちているため、ハッチを開けるには物理的にこじ開けるしかない。
ルカは工業用レーザーカッターをハッチの電子ロック部分に当て、火花を散らしながら焼き切っていく。
ガココン、と重々しい音を立ててハッチが数センチメートル隙間を作った。そこへ大型スパナを差し込み、テコの原理で力任せに押し広げる。
「ぬ、お、らぁッ……!」
ジャンク屋の意地で抉じ開けた部屋の奥、埃を被ったコンソールの中央に、それはあった。不気味な青い光をかすかに放つ、立方体型のデータドライブ。
旧大戦の最高機密が収められているというお宝だ。
「これさえあれば、十万ガバス……いや、もっといくかもな」
ルカが手を伸ばし、ドライブをスロットから引き抜いた、その瞬間。金庫室の壁一面のモニターが、一斉にバグ混じりの光を放って起動した。
『――システム、一時的起動。未登録のマスターパターンを検出。データを再生します』
機械的な音声と共に、モニターに映し出されたのは、ノイズだらけの古い映像だった。
そこに映っていたのは、血と煤にまみれた軍服を着た、一人の老提督の姿。
『……我が愛機、アヴァロンへ。そして、このドライブを拾うであろう未来の同胞へ』
ルカは思わず息を呑んだ。
アヴァロンの名が出たからだ。
『帝国は滅びる。だが、アヴァロンの火を消してはならない。彼女はただの兵器ではない。人類の希望の種子だ。……アイリス、すまない。お前をこんな寂しい宇宙の片隅に置き去りにして。だが、いつか必ず、お前を真に必要とする『マスター』が現れる。その時まで――』
ブツッ、とそこで映像は途切れ、部屋は再び暗黒に包まれた。
「アヴァロンが、人類の希望……? アイリスのやつ、そんな大層なものなのか?」
普段のドジでポンコツな姿からは想像もつかない重い言葉に、ルカはドライブを握る手に少しだけ力を込めた。
とにかく、このドライブを持ち帰れば何かが分かるはずだ。
ルカはドライブをバッグにしまい、作業艇へと急いで引き返した。
磁気嵐を再び天才的な操縦で潜り抜け、漆黒の巨艦アヴァロンの格納庫へと帰還する。
「おーい、アイリス! 命懸けで大金星だぞ! お宝だけじゃなく、お前の昔のマスターの映像も――」
ルカはヘルメットを脱ぎながら、ブリッジへと駆け込んだ。しかし、そこでルカが目にしたのは、感動の再会とは程遠い光景だった。
『ふ、ふええええ! マスター、助けてくださいぃぃ!』
ブリッジの真ん中で、アイリスのホログラムが涙目でぐるぐると回りながら、激しくバグっていた。彼女の足元(データ上)には、アヴァロンの重要そうな制御基板がバラバラに散らばっている。
「……おい、何やってんだ、お前」
『お、お留守番中に、少しでも燃費を良くしようと思って、自分でシステムをハッキングして最適化しようとしたら……なんか、セーフティが誤作動して、あと3分で艦内の全空気が強制排出されるモードになっちゃいましたぁ!』
ウーー、ウーー、とブリッジに鳴り響く、けたたましい緊急警報。
「お前は本当に……銀河最強のポンコツだなちくしょうめぇぇ!!」
ルカはバッグを放り出し、再びスパナを握りしめて制御パネルへと飛び込んだ。財布を救った直後に、今度は文字通り命のカウントダウンが始まる。
二人のサバイバルは、まだまだ始まったばかりだった。(




