第13話:ネオンと錆にまみれた無法者の街。海賊市場『クレーター・タウン』
小惑星帯を漂う巨大な歪な岩石。その内部を力任せにくり抜いて作られたのが、海賊市場『クレーター・タウン』だった。
錆びついた金属のドックに『オンボロ・コメット号』を滑り込ませ、ルカとポンコツAIは街へと降り立つ。頭上を行き交う怪しげな私掠船、路地裏でジャンクパーツを値切るサイボーグたち。ネオ・ヨコスカ以上の熱気と、剥き出しの危険がそこにはあった。
「いいか、ここは星間連盟の目が届かない代わりに、法も警察もない。絶対に俺から離れるなよ」
『了解です、マスター! 右手に警戒、左手にジャンク、胸に秘めたる熱いハグですね!』
「ハグのことはもう忘れてくれっ……!」
ルカは顔を真っ赤にして歩調を速める。あの劇的な瞬間以来、アイリスは妙にその話題をいじってくるのだ。ホログラムの彼女はニシシと悪戯っぽく笑いながら、ルカの後を浮遊してついてくる。
2人の目的は一つ。
連盟の追手を完全に撒くための情報と、彼女の不可解な「バグ」――ルカとシンクロした時だけ記憶を保って力を引き出せる現象――の解析だ。
街の最奥、ネオンサインが不気味に明滅する酒場『ジャンク・ヤード』の扉を叩く。
事前に仕入れた噂通り、カウンターの隅に、その男は座っていた。
両腕がゴツゴツとした機械義手の男。仕立ての悪いコートを羽織り、不敵な笑みを浮かべて琥珀色のアルコールを煽っている。彼こそが、この宙域のあらゆる秘密を握る情報屋、ジャックだった。
「よぉ、お出ましだな。ネオ・ヨコスカを大脱走して、連盟の特殊部隊を返り討ちにしたっていう、今銀河で一番ホットなイカれジャンク屋ボーイ」
ジャックは振り返りもせず、義手の指先をパチパチと鳴らした。
「……耳が早いな。さすが情報屋だ」
「へっ、その程度のネタを掴めなきゃ、この無法者の街じゃ明日には宇宙の塵だ。で? 命知らずのお坊ちゃんが、俺に何の用だ? 金次第じゃ、連盟に居場所を売ってやってもいいんだぜ?」
ニヤリと下品に笑うジャック。その目は、品定めをするようにルカと、その後ろのアイリスを見据えていた。
「あんたが義理人情に厚い情報屋だって聞いたから、ここに来たんだ。金の話をしに来たつもりはない」
ルカは臆せずジャックの隣の席に座り、懐からネオ・ヨコスカで手に入れた連盟の暗号化データチップをカウンターに叩きつけた。
「俺たちの手配書を消す方法と、連盟がこの『システム・アイリス』を使って何を企んでるのか、その裏を暴きたい。手を貸してくれ」
ジャックはチップを一瞥し、それからルカの目をじっと見つめた。お調子者の空気が消え、プロの、そして一人の泥臭い男の鋭い視線がルカを刺す。
「……ハッ、ハハハ! 傑作だ! 手配書を消すだけじゃなく、連盟の裏を暴くだと? ガキが正義の味方でも気取るつもりかよ!」
ジャックは大声を上げて笑った。しかし、その笑みには蔑みではなく、どこか楽しげな色が混じっていた。
「いいぜ、気に入った。俺もあいつらの規律ガチガチのツラが反吐が出るほど嫌いでね。割に合わねえ大仕事だが……お前らみたいな無茶なガキ、嫌いじゃない」
ジャックは義手でチップを拾い上げると、ウインクしてみせた。
「ただし、タダじゃ動かねえ。情報屋のプライドってやつだ。まずは俺の依頼を一つこなしてもらう。この市場のボスが隠し持ってる、連盟の『極秘通信のバイパスコード』を盗み出す。……お前らのその『最強の力』、俺にちょっと見せてみな?」
新しき相棒、ジャックからの最初の試練。
ルカとアイリスは顔を見合わせ、ニヤリと不敵な笑みを交わした。連盟をひっくり返すための反撃の作戦が、この無法者の街で静かに幕を開ける。




