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銀河の果てで、ポンコツAIと恋をする  作者: ののん


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第11話:ポンコツAIの「トリセツ」

幽霊船の最深部――

そこは、無数の太いケーブルが床や天井を這う、巨大なコンピューター室だった。部屋の中央には、青白く光るカプセルが鎮座している。かつて彼女の本体が納められていたであろう、空っぽのデータストレージだ。その傍らにあるメインコンソールに、主人公は拾った基盤を繋ぎ、データを読み込ませていた。

「おい、ポンコツ。これ……お前の『トリセツ』だぞ」

画面に表示された古びた地球連邦のロゴと、膨大な暗号化データ。ルカがジャンク屋の執念でハッキングを完了した瞬間、モニターにアイリスの設計データが浮かび上がった。

『わぁ、私の取扱説明書ですか! どれどれ、美味しい電気の食べ方とか書いてありますか?』

彼女は相変わらず、ルカの肩の後ろからホログラムの顔を覗かせて能天気にはしゃいでいる。だが、スクロールしていくテキストを読み進めるうち、ルカの指先は冷たくなっていった。そこに記されていた彼女の正式名称は、自律型星間戦略兵器『システム・アイリス』。

かつて銀河を破滅に追い込みかけた、史上最悪の超兵器の制御コア。それが彼女の正体だった。

「……大戦の終結時、危険すぎるとして封印された。だが、何者かがその力を狙って強奪しようとしたため、当時の開発者が彼女の機能を安全装置プロテクトでガチガチに縛り、記憶を偽装して宇宙へ放逐した。それが、俺がゴミ捨て場で拾った『ポンコツAI』だったってわけか」

『へぇ……私、本当は凄かったんですね! ポンコツじゃなかったんだ!』

嬉しそうに胸を張るアイリス。しかし、主人公の目は、画面の最下部に赤字で点滅する【メモリ・マネジメント(仕様)】の一文に釘付けになっていた。

「……なんだよ、これ」

画面を凝視するルカ。そこには、残酷な仕様が書かれていた。――本コアの「軍用プロトコル」を完全解放、および再起動リブートする場合、システム負荷を軽減するため、一時キャッシュ(放逐後に蓄積された全記憶データ)は自動的に破棄・初期化される。つまり、アイリスが本来の超兵器としての力を取り戻せば、ジャンク回収船で過ごした日々も、一緒に食べた冷えた合成肉の味も、ネオ・ヨコスカを一緒に駆け抜けた思い出も――ルカの存在さえも、すべて消えて「初期化」されてしまうのだ。

『マスター? どうしたんですか、怖い顔をして』

何も知らないアイリスが、心配そうにホログラムの手を主人公の頬に伸ばす。当然、触れることはできず、アイリスの手は虚空をすり抜けた。

「……いや、なんでもねえよ。お前が実は大層なシロモノだったって分かっただけだ」

ルカは無理に笑顔を作り、画面を乱暴に消した。彼女がポンコツのままでいられるなら、兵器の力なんていらない。このまま宇宙の果てまで逃げ切ればいい。そう思った、その時だった。

『――警告。ドック内に未確認の高速戦闘艇、3隻が強制接収を開始』

部屋のスピーカーから、無機質な警告アナウンスが鳴り響く。ネオ・ヨコスカの追手ではない。追ってきたのは、さらに巨大な規模を持つ星間連盟の特殊部隊――彼女という「超兵器」を回収しにきた、本物の軍隊だった。

「チッ、もう嗅ぎつけやがったか……!」

『マスター、外の通路の防衛ロボットたちが、次々に破壊されています! このままだと、あと3分でここに突入されます!』

アイリスの顔から余裕が消え、ノイズが走る。部屋のハッチの向こうから、激しい爆発音と、軍用ブーツが鉄板を鳴らす無数の足音が近づいてくるのが聞こえた。逃げ場のない、幽霊船の最深部。手にあるのは一本のスパナだけ。圧倒的な絶望が、2人を包み込もうとしていた。


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