第68話
ダンジョン内からギルドの入口へ行き探索者カードを機械にかざして出ていこうとしたとき、一人の職員が呼び止めた。
「申し訳ございません、こちらの方は講習がありますのでこちらへどうぞ」
そう言って別の窓口に案内された。
案内された先にいる職員に確認する。
「すみません、どういうことでしょう?」
困惑しながら事情の説明を求めると、職員は丁寧に説明してくれる。
「アルタニヤ王国から日本へ渡られた方は常識が違うためトラブルが起きることが多いことから、このたび日本に来る際に講習を受講していただくことが義務付けられました。これからはアルタニヤ王国から日本へ渡られる方はすべて受講していただくことになっています。逆に日本からアルタニヤ王国へ渡られる方も同じ条件になります。今は日本側で双方の講習をしていますがアルタニヤ王国側のギルドの準備が終わりましたら日本側から行く人たちはアルタニヤ王国のギルド内で行う予定です」
なるほど、道理でダンジョンの入り口で工事が行われていたわけだ。
おそらくギルド併設で入場管理をして講習をするためなのだろう。
しかし、日本からアルタニヤ王国に渡る人も同様に講習が必要となるとは思わなかった。
日本とアルタニヤ王国では価値観や法制度など随分と異なるから、それでアルタニヤ王国側でもトラブルが起きていたのだろう。
「なるほど、わかりました」
話を聞いていたところで、
「カイトくん、マリちゃん」
カイトとマリに声がかかる。
振り向くと中年の男性が声をかけていた。
「こんにちは」
彼は気さくに挨拶してきた。
誰だろうかとカイトを見ると、カイトは親しいようで丁寧に対応していた。
彼の視線が私達に向けられると、互いに疑問符が浮かぶ顔になった。
そこでカイトが助け舟を出すように紹介してくれる。
「あ、すみませんこちらの方は僕たちの母です。そしてこっちの方々は僕たちの友達ですよ」
カイトの言葉を聞き彼が驚いた表情を見せる。
多分、カイトたちの母と紹介された私の見た目に驚いているのだろう。
しかし、すぐに平静を取り戻し、私達の方へ向き直った。
「失礼しました。俺は兼六園ギルドのギルド長をしている九条 蒼太と言います」
九条さんの自己紹介を受け、私も丁寧にお辞儀をしながら名乗り返す。
「ギルド長さんですか。初めまして、レーナ・カザハナです。いつもカイトとマリがお世話になっております」
続けてフィアメールたちも簡単な自己紹介を行う。
カイトとマリが彼女らの紹介を補完してくれる。
みんなが挨拶を終えると、九条さんは微笑みながら、
「こちらこそ、いつもお世話になっています」
と言葉を返してくれた。
彼の雰囲気から感じる温かさは信頼できる人物であることを物語っているように思えた。
「カイト君、今日もダンジョンに行くのかい?」
九条は気さくな笑顔で話しかけていた。その問いに対してカイトは、
「今日は母の知り合いに会って配信について教わる予定です」
「そうなのか、レーナさんの知り合いというのは?」
九条さんが質問を重ねてくる。
私は穏やかな口調で答えた。
「以前、日本に来た時に知り合った方なんですが配信事務所に関わっている方なんですよ」
内心では幼馴染だけどと思いながら、適当に誤魔化しておくことにした。
「ほう、それは興味深いですね」
九条さんは顎に手を当て考え込む仕草を見せた後、再度質問してきた。
「しかし、レーナさんの見た目からしてスカウト目的で声を掛けたのでしょうか?」
ここで余計なことは言わない方が賢明だろうと判断し微笑みながら答える。
「まあ、そうかもしれませんね」
九条さんは納得したような表情を見せつつ、カイトとマリに向き直った。
「なるほど、配信か……確かに君たちなら人気が出そうだな」
彼は笑いながら、
「カイトくん、マリちゃん、もし配信するなら俺にもあとでチャンネル教えてくれよな」
「もちろんです、やる事になったら伝えますね」
カイトが答え、九条が満足げに頷いた。
私は先程から気になっていた事を九条さんに尋ねる。
「ギルド長さん、前に日本に来た時は講習なんて受けなくてもよかったんですけど、受けないといけなくなったんですね」
すると九条さんは眉間に少し皺を寄せながら答えてくれた。
「それがなぁ、実は今日からなんだよ、講習受講の義務化は。しかも初日だからギルド長である俺が実際に来て確認しなくちゃいけないんだよ」
苦笑いしながら肩をすくめる九条さんの言葉に少し同情的な気持ちになる。
ちょうどその時、女性の職員が声を掛けてきた。
「ギルド長、そろそろいいですか?」
それを聞いた九条は頷き、私たちに向かって軽く頭を下げた。
「ごめんな、行かないといけないようだ。カイトくんとマリちゃんのチャンネルができたら教えてくれよな」
「あ、はい!わかりました」
九条さんは手を挙げて別れの挨拶を済ませると職員と共に去って行った。
彼の背中を見送りつつ、カイトに耳打ちする。
「いい人そうじゃない?」
「はい、まだ日本に慣れていない僕たちによくしてくれて本当に助かってます」
その言葉で、カイトとマリを日本側で助けてくれていた人がいたと知り温かい気持ちになった。




