第44話
---麗奈視点に戻る---
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、まぶたの裏を赤く染める。
「ん……」
小さく身じろぎすると、布団から漏れる自分の体温が、少しだけ名残惜しく感じた。
でも、もう寝ている時間でもない。
着替えを済ませ、客間を出る。
「おはよう、麗奈」
キッチンに入ると、恵が振り向いて笑った。
恵は既にエプロンを身に着けていて、コンロの上で味噌汁が煮立つ音を立てていた。
隣では晴奈が冷蔵庫から卵を取り出しているところだった。
「おはよう。手伝うね」
「あ、じゃあ麗奈ちゃん、ご飯をよそってもらえる?」
「任せて」
炊飯器の蓋を開けると、蒸気が一気に溢れ出して湯気となり漂った。
しゃもじで熱々のご飯を器によそいテーブルに置いていく。
卵焼きの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、自然と食欲を刺激された。
「みんなを呼んできますね」
晴奈がみんなを起こしに行く間に恵と私はテーブルの上に朝食を並べていく。
瑞々しい野菜のサラダ、温かな湯気を纏った卵焼き、彩り鮮やかな煮物、香り豊かな海苔、食卓は統一感のあるバランスの良いものになった。
やがて二階から階段を下りる音が響き渡る。
「おはようございます!」
「おはよ……」
「ふわぁ……眠いぃ……」
各々独特な挨拶とともにダイニングにやってきた。
全員が席につくのを確認して手を合わせる。
「いただきます」
声が重なり合うと同時、箸が忙しなく動きはじめた。
やわらかな玉子焼きをひとくち噛むと控えめな塩味と甘味が合わさり口いっぱいに幸せが広がる。
「あのね」
みんなの会話が途切れたタイミングを見計らい私は切り出した。
「今日、ラキナに帰るね」
「えっ!麗奈お姉ちゃん帰っちゃうの!?」
理依奈が驚いたようにこちらを見る。
その言葉を聞き浩一が、
「向こうには麗奈の家族もいるだろうし、またこっちにも来るのだろう?」
と尋ねる。
「もちろん!何かあれば連絡も出来るからね」
と言いスマホを見せた。
ラキナでも使える事が分かっているので今までは無かったラキナでの遠距離の連絡手段が出来て嬉しい限りだ。
「何も無くても連絡するね!」
と笑顔で理依奈が言い他の皆も頷きながら笑っていた。
食事を終えて各々出発の準備をする。
学校や会社に行くメンバーを恵と2人で玄関で見送った。
皆を送り出した後、恵と一緒にリビングのソファに腰掛けた。
「コーヒー飲む?」
恵がキッチンへ向かいカップを用意してくれる。
「ありがと」
恵がコーヒーを淹れて渡して来たので受け取った。
コーヒーカップを両手で包み込み温もりを感じつつ、一口啜る。
芳醇な香りと僅かな酸味が舌の上に広がった。
コーヒーカップを指先で遊ばせていると、
「ねぇ麗奈はラキナへどうやって帰るの?」
と疑問を持ったような視線を向けられた。
「電車で東京駅まで行ってそこから魔導列車に乗って金沢に行く予定だよ」
「へぇ、魔導列車って最近できた速い乗り物よね?」
恵が首を傾げながら言った。
「そうだね。こっちに来る時にも乗ったけど、かなり速い乗り物で揺れもなく快適だったよ」
「へぇ、いつか乗ってみたいわね」
「機会があったら一緒に乗ろうね」
そう言うと恵は嬉しそうに微笑んだ。
「もうすぐ出発しようかな」
私は余裕を持って東京駅に向かう為に少し早めに家を出ることにした。
「気を付けて行ってらっしゃい」
恵が見送りに玄関に来た。
「行ってきます」
ドアの前で手を振ると恵も同じように手を振り返してくれた。
私は久しぶりに過ごした実家を後にし駅に向かっていった。




