第39話
流華と別れてからしばらく歩いていくと、住宅街の中にある一軒家に辿り着いた。
そこが菜摘の自宅である。
インターホンを押すと、少し経って玄関ドアが開き菜摘のお母さんである陽子が顔を出した。
「あらあら、麗奈ちゃん!久しぶりねぇ~」
陽子は相変わらず朗らかな笑顔を浮かべながら、嬉しそうに迎え入れてくれる。
「麗奈ちゃん綺麗になったわねぇ~」
「お久しぶりです、陽子おばさん」
私も自然と笑顔で返事をした。
すると、陽子の視線が浮かせたままの菜摘に移る。
「まぁ! 菜摘ったら完全に酔い潰れているわね。麗奈ちゃんに会えて嬉しかったのねぇ~。運んでくれて、助かるわぁ~。布団まで連れていってくれる?」
「はい、任せてください!」
陽子に案内されながら廊下を進み、奥にある寝室へと向かう。
途中、洗面所の近くを通りかかると、ふと見知らぬ男の人が立っているのに気づいた。
少し年上で、落ち着いた雰囲気を纏った彼がこちらに気づき、軽く会釈をしてくる。
「こんばんは」
穏やかな声音で挨拶してくれた彼に対して、私は少し戸惑いながら頭を下げた。
「こんばんは……お邪魔しています」
その後、彼は私の前で浮いた菜摘に視線を移し、驚いたように目を丸くしている。
「あれ?魔法ですか?探索者やってるけどこういうことができる人、初めて見ました」
彼が興味深そうにつぶやき、
「あ、俺は菜摘の旦那の晶って言います。初めまして」
と丁寧に自己紹介してくれた。
私は軽く頭を下げ、
「初めまして、風花麗奈です。よろしくお願いします」
と答えた。
晶は笑顔で頷き、
「こちらこそ」
と軽く頭を下げた。
少し気まずくなりつつも、目的を果たすべく陽子の指示に従って進むことにした。
「それじゃあ、行きましょうか」
陽子は優しい声で促し、寝室へと続く階段を上がっていく。
私は魔法で菜摘を浮かせたまま、慎重に後を追った。
部屋に入ると、きれいに整えられたベッドが見えた。
陽子は慣れた手つきで掛け布団をめくり、準備万端といった様子だった。
「ここに寝かせてあげてちょうだいねぇ~」
「わかりました」
菜摘をそっとベッドに降ろし、掛け布団をかけてあげると、
「麗奈ちゃんありがとねぇ~」
と陽子は満足げに言った。
晶が静かに近寄ってきて、
「本当にありがとうございます」
と丁寧にお礼を述べた。
「いいえ、気にしないでください」
私も笑顔で答えた。
「麗奈ちゃん、今日は泊まっていってくれてもいいのよ?」
陽子が冗談交じりに提案してきたが、私は少し苦笑して断った。
「いえ、家で布団の準備をしてあるので帰ります」
「そうなのねぇ~。また遊びに来てくれればいいわよぉ」
と優しく声をかけてくれる陽子の言葉に感謝しながら、私は菜摘の家を後にした。
外はすでに真夜中に近い時間帯だった。
星空の下、家への道筋を辿り始める。
少しばかり冷たい風が吹き抜ける中でも、先ほどまでの楽しい時間のおかげで心は温かいままだった。
そんなことを考えながら歩いているうちに、無事、我が家へ到着することができた。
「ただいま~」
小さな声が静まり返った家の中に響く。
灯りが付いていたのでリビングに行くと恵が起きて待っていてくれていた。
「あら、麗奈お帰りなさい」
「ただいま、お母さん」
「随分遅かったけど楽しかった?」
私は微笑みながら答える。
「うん!とても楽しかったよ。昔みたいに色々話ができて嬉しかった」
恵は満足げにうなずきながら言う。
「それは良かったわ」
そして、そのまま浴室の方を指さした。
「湯沸かししてあるから。身体を温めてから休むといいわ」
私は微笑みながら軽く頭を下げた。
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて入らせてもらうね」
私は脱衣所に向かうためにリビングを離れながら告げる。
「うん、温まってから眠るといいわ」
恵の優しい声が背後から届く。
バスルームに着くと、早速湯船に浸かるための準備を進めた。
着替えを置き服を脱いで浴室へ入る。
そして浴槽に入ると、温かいお湯が疲れた身体を包み込んでくれるのを感じた。
今日一日、本当にさまざまなことがあった。
懐かしさとともに新しい展開もあり、心地よい疲れが全身に広がっていた。
「明日からも頑張ろう」
小さくつぶやきながら瞼を閉じる。
お風呂場の窓越しには月明かりが差しており、静かな夜の訪れを告げている。
しばらくの間お風呂場でリラックスできたので、私は身体を拭きパジャマに着替えた。
脱衣所から出ると、リビングにはまだ恵の姿があった。
「お母さん、お風呂ありがとう。おかげで温まったよ」
恵は微笑んでうなずく。
「どういたしまして。ゆっくり眠れるといいわね」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
私は恵と挨拶をかわし客間に向かうことにした。
部屋に入ると、敷かれた布団がきちんと整えられているのが見え、その布団に潜り込んだ。
目を閉じて今日の出来事を回想しながら、穏やかな眠りへと落ちていった。




