第31話
翌朝、窓から差し込む柔らかな陽射しとともに目覚めると、私は早速起き上がり、台所へと向かう。
「おはよう、お母さん、晴奈さん」
朝食の準備をしている恵と晴奈に声をかけると、二人も微笑み返してくれた。
「おはよう、麗奈」
恵が卵焼きを皿に盛りながら言った。
私もすぐに手伝い、ご飯を茶碗によそっていく。
キッチンからは香ばしい匂いが漂い、食欲をそそる。
「今日は何を作るの?」
「今日は卵焼きと味噌汁とご飯よ。簡単なものだけど、朝はこれくらいが丁度いいわね」
恵が手際よく作業を進めていく。
しばらくして朝食の準備が整うと、恵は二階へと上がる。
「じゃあ、みんなを起こしてくるわね」
私はそのまま残り、食卓の配置を最終チェックしているところに、理依奈が寝癖をつけたまま現れた。
「ふわぁ……おはよぉ……」
欠伸をしながら理依奈が席に着くと、続いて颯斗が登場する。
彼は少し寝不足気味な様子だった。
「おはようございます」
「おはよう」
浩一と啓介と旭もダイニングに集まり、家族揃っての朝食が始まる。
「いただきます」
全員で声を合わせ、温かい味噌汁に箸をつける。
「お母さんの味噌汁、やっぱり美味しい」
麗奈がほっこりとした声で言うと、恵は照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとう。いつも通りの作り方なんだけどね」
朝食後、家族がそれぞれ準備を始めている中、私は玄関で見送ることにした。
「行ってきます!」
理依奈が元気よく手を振る。
「行ってきます……」
颯斗は少し眠そうな表情で出て行った。
「行ってきま~す」
旭もにこやかな笑顔で言った。
「気をつけてね」
私と恵は一緒に見送りながら、優しい視線を向ける。
「行ってきます!」
「行ってきます」
晴奈は笑顔で言い、啓介はうなずいてから家を後にした。
最後まで残っていたのは、浩一だった。
「じゃあ、行ってくる」
浩一が真面目な顔で言うと、私はにっこりと微笑んだ。
「はい、行ってらっしゃい」
みんなを送ってから恵と麗奈は家の中へ戻ろうとした。
「恵さん、おはようございます」
突然声をかけられ振り返ると、そこに立っていたのは黒髪の長髪を靡かせた、優しそうな表情の美しい女性だった。
「あら、菜摘ちゃん。おはよう」
恵がにこやかに答えた。
「今からお仕事?」
「はい、そうです。あの……」
菜摘が恥ずかしそうに笑いながら、私に手を向けて
「あの……こちらの方は?」
菜摘が興味津々といった様子で尋ねる。
「麗奈よ。最近話題になっている異世界のラキナあるでしょ?今までそこに居たようで最近戻ってきたの」
恵が楽しそうに話すと、菜摘の目が大きく開かれた。
「えっ!?」
菜摘は驚いた表情で私を見つめている。
その反応を見て、私は軽く息を吐いた。
「久しぶり、菜摘。迷惑かけちゃったけど、帰ってこられたよ」
私は穏やかな笑みを浮かべながら挨拶する。
牧野 菜摘は同級生で家も近く小さい頃からの私の親友だ。
すると菜摘は一瞬硬直し、その後急に顔を歪ませた。
「本当に……麗奈なの? だってあなた、見た目が全然違う」
菜摘が途中で言葉を飲み込む。
確かに私の外見は以前とは全く違っていた。
「そうなんだ。ラキナに……」
菜摘は再び涙ぐみながら、私の手をしっかりと握る。
「本当に良かった……ずっと探していたの。でも、まさか別の世界に行っていたなんて」
「ありがとう、菜摘。私もまた会えて嬉しいよ」
私は温かく微笑みながら答えた。
二人は互いの存在を感じるように、しばらく無言で立ち尽くしていた。
「あ、もう行かなきゃ。遅刻しちゃう」
菜摘は時間を確認して焦った様子で言った。
「菜摘、連絡先だけ交換しようか。話したいこともあるし」
スマートフォンを取り出し、コード画面を開いた。
菜摘も慌てて自分のスマホを取り出す。
「あ、うん、待って……」
数秒後、菜摘がコードを読み取り、『追加完了』の表示が出た。
「ありがとう!仕事が終わったら連絡するね。行ってきます!」
と言って菜摘は笑顔で去っていく。
「了解。楽しみにしてるね。いってらっしゃい」
私は返事を返しながら菜摘を見送った。
家に戻りながら、思わず感慨深くなっていた。
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私は予定通り銀行へ向かった。
自動ドアを抜け、静かなホールに入ったとき、窓口には長い列ができていた。
人々の様々な目的があるなかで、私は落ち着いた気持ちで列に並ぶ。
十分ほど待ってから、ようやく自分の番がやってきた。
「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」
若い女性の窓口担当者が明るい笑顔で対応してくれる。
私は椅子に座り言葉を返した。
「口座を開設したいのですが」
「新しいお客様ですね。初めてのご利用でしょうか?」
女性が丁寧に尋ねてきたので、私は頷きながら答える。
「はい。最近地球にきたばかりでして」
「なるほど、ラキナの方ですね、わかりました。では、新規口座開設ですね」
書類を取り出し、記入する欄を案内してくれる。
ラキナの住所も記載する必要があり、詳細に書き込んでいった。
全てを書き終えると、窓口担当者が再度確認を始める。
「では、探索者カードをお願いします」
私は手持ちの探索者カードを出して手渡した。
「ありがとうございます。こちらで内容を確認させていただきます。少々お待ちください」
女性は丁寧に書類をまとめると、奥へと引っ込んでいった。
しばらくして、担当者が戻ってきた。
「確認が出来ました、ありがとうございます」
「探索者カードと口座情報をリンクさせますか?」
「お願いします」
私がうなずくと担当者が端末にカードをかざした。
端末から魔力が探索者カードに流れていくのを感じる。
処理が始まっているようだった。
最後に探索者カードが光り処理が終わった。
「こちらで手続きは完了しました。今後は探索者カードが口座カードにもなります。お店で提示することで買い物ができるようにもなっていますので、ぜひご利用ください」
銀行員が礼儀正しい笑顔で説明をする。
「入金をされる場合はラキナの貨幣でも入金できます。その場合、地球の通貨レートに合わせて換算されます」
私は頷きながら財布から数十枚の金貨を取り出した。
「わかりました。ではこちらを入金お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
銀行員が丁寧に金貨を受け取り、機械に通していく。
そして画面に数字が映し出された。
「合計で316万円になります。こちらを口座に入金でよろしいでしょうか」
画面を確認しながら承諾すると、端末が小さく光った。
「ご利用ありがとうございました。ご不明な点がございましたらいつでもお越しくださいませ」
銀行を出ると、私はスマホの画面を覗き込んだ。
ちょうどよい時間になるので次の目的地である渋谷へ向かうため駅に向かうことにした。
駅へ続く道を歩いていると、周りの人々の姿や都会ならではの喧噪が私の胸を満たしていく。
ふと空を見上げると、澄んだ青空が広がっていた。
駅に着き切符を買いホームへ。
電車が来るまでの間、周囲の様子や行き交う人々を眺めて過ごした。
電車の到着音と共にアナウンスが流れる。
扉が開き車両内に足を踏み入れると、程良い混雑具合で座席にも余裕があった。
席に腰掛けホッと一息つく。
窓越しに見える景色を眺めながら、これから会うクルトのことや彼がどんな反応を示すか想像していた。
きっと彼にとって日本の文化や技術は未知のものばかりだろうし、その反応を見るのが少し楽しみでもあった。




