第286話
魔の森側で訓練をしているみんなから離れ、母屋を挟んで反対側に建てられている工房へと着いた。
工房内は何部屋かに分かれており、調合や研究、鍛冶などをする部屋や、材料などを保管する部屋などがある。
工房は主に私とイルがよく使っている。
今日はその工房の鍛冶部屋を使い、パイラとルルの包丁を作っていく事にした。今後うちで料理の勉強をするのなら、プレゼントしてあげようと考えたのだ。
鍛冶部屋に入り、まずは隣の材料庫から素材を選んでいく。
今回は武器ではなく包丁なので、使う素材は硬い皮を持つモンスターを退治する為に作る物とは違い、錆びにくく丈夫で軽い事をメインに考えた。
その為、魔鋼鉄やミスリルを使って作ったオリジナルの鋼材を使用する事にした。
これなら硬すぎず、錆びにくく扱いやすい。
見た目も普通の鋼の包丁のように見えるので、高級感もなく普段使う物としては丁度良いだろう。
素材が決まったら鍛冶部屋に戻り、鍛造を始める。
「まずは鋼材を熱して……」
火魔法で火球を作り出し、鋼材を火の中に入れて熱していく。
赤く熱せられた鋼材を金槌で叩き、少しずつ形状を作っていく。
魔力を込めながら丁寧に、しかし力強く叩いていく。
金床の上で鋼材を叩くたびに「カン、カン」と心地よい音が工房内に響く。
しばらく叩いては熱し、熱しては叩き、と繰り返していく。
そして包丁の形になってきたところで、整形していく。
金槌で叩き形を整え終えたので、次は焼き入れの工程に入る。
鋼材を再び熱して、いい色になってきたところで水の中に入れると、じゅわっと音を立てて一気に冷え、鋼が硬くなる。
焼き入れが終わったら、今度は焼き戻しをして鋼の硬さと粘り強さのバランスを整えていく。
その後、細かな歪みを金槌で調整する。
「形は大体できたわね」
次は柄を付ける作業だ。
柄となるトレント材を加工してから中子を熱して柄を差し込む。
熱した部分のトレント材が焦げて中子と密着する。
柄を一度外してから、柄の差し込み穴に接着剤を少し入れて、口金と柄を差し込み木槌で叩き中子に固定する。
最後に砥石を使って、丁寧に角度を調整しながら刃を研いでいった。
「よし、できたわ」
一本の包丁の完成だ。
出来上がった包丁は、光を反射して研ぎ澄まされている。
手に取ってみると包丁としては少し軽いが軽すぎるという事もない。
「良い感じね」
出来上がった包丁を手に取り、その磨き上げられた刃を見て私は満足そうに頷いた。




