第263話
庭とバーベキュー場を作った後、私はさらに照明の支柱に装飾を施したり、離れを作るために採ってきたトレント材の余りを使い、新しい椅子やテーブルを作ったりして時間を潰していた。
「よし、こんな感じで良いかしら」
今はインターネットで見つけた良いデザインの椅子を自分なりに作成してみていた。
その椅子の出来栄えを確認していると、突然魔の森の方から大きな気配が近づいてくるのを感じた。
空を見上げると、白いドラゴンがこちらへとまっすぐに飛んでくるのが見える。
「あれは……ティラサラ?」
白いドラゴンは私の家に向かって降下してきていた。
そのまま着地しようとしたのだろう。
しかし、そこにはつい先ほどまで無かった結界があった。
白いドラゴンは広くした庭の結界に思い切りぶつかり、
「ふぎゃっ!」
という間の抜けた声と共に地面に落ちた。
私がその光景を眺めていると、その白いドラゴンは体が光り出し、少女の姿へと変わった。
銀色の髪に白いワンピースを着た少女が、地面から起き上がりこちらに走ってくる。
「レーナおば様!これはどういう事なのですか!?」
「あら、ティラ。大丈夫だった?」
「大丈夫ではありません!結界にぶつかったのですよ!?」
この少女はティラサラという名前で、ドラゴン族の長の孫、私の家によく遊びに来ている子だ。
普段はもう少し落ち着いているのだが、今は相当驚いたようで顔を赤くして抗議してきた。
「それで、どうしたの?今日も遊びに来たの?」
「違います!レーナおば様の家の魔力が魔の森に近づいていたと報告があったので来てみたら、本当に結界が広くなっているではないですか!」
ティラサラはそう言って、自分の後ろにある先程ぶつかった結界を指差した。
彼女の話によると、私の家の結界が魔の森に近づいた事で、ドラゴン族の里に何かしらの報告が上がったようだ。
「もしかして、レーナおば様は魔の森に侵攻しようとしているのですか?」
ティラサラは真剣な表情で私に問いかけてきた。
私はようやく彼女が慌てていた理由を理解し、なるほどと思いながら首を横に振る。
「違うわよ。離れと広間を作ったら庭が狭くなって使えなくなったから広げただけよ。魔の森に侵攻するつもりはないわ」
そう言って私は離れと広間の建物を指差した。
「そうだったのですか……」
ティラサラは真剣な表情で話を聞いていたが、私の説明を聞くとほっとしたように胸をなでおろした。
「良かったです。てっきり魔の森を切り開くのかと……」
「あの森にわざわざ手を出したりしないわよ」
「そうですよね。レーナおば様はそういう方ですよね」
ティラサラはようやく笑顔を見せた。
そんな彼女に、私は気になっていた事を聞いてみる事にした。
「そういえば、なんで結界にぶつかったの?」
私がそう聞くとティラサラは少し恥ずかしそうに答えた。
「いつも降りていた場所が結界になっていたのです。私がいつも使っている着陸場所が……」
「ああ、なるほど」
ティラサラの言葉に納得した。
彼女はいつもドラゴンの姿で家に来る時、決まった場所に着陸していたのだろう。
その場所が、ちょうど私が庭を広げた場所だったようだ。
結界は許可を得ている者でも、大きな者は人型にならないと入れないようにしてある。
これは昔、ドラゴンの姿で家に突っ込んできて家を破壊した者がいたからだ。
ティラサラはドラゴンの姿のまま着陸しようとしたので、結界に弾かれてしまったのだろう。
「なるほどね。ごめんね、知らなかったから」
「いえ、大丈夫です。私も突然の事で驚いてしまって」
ティラサラはそう言って笑った。
そして気になった事があるのか私に聞いてきた。
「そういえば、庭を広げて何かしようとしていたのですか?」
「夕食に庭でバーベキューをしようとしていたのよ。そうだ、ティラもバーベキュー食べて行く?」
私がそう聞くとティラサラの目が輝いた。
「バーベキュー!食べたいです!絶対に食べたいです!」
ティラサラは嬉しそうに何度も頷いた。
うちのバーベキューがよほど嬉しいのか、先程まで真剣だった表情が嘘のように、今は子供らしい笑顔になっている。
「じゃあ、今ケイたちが家で遊んでいるから夕食まで遊んでおいで」
「遊びたいですが……その前にお祖父様に連絡しないといけないので、一度家に帰ってから食べに来ます」
「分かったわ。気をつけてね」
「はい!」
ティラサラはそう言って結界を出てからドラゴンになり、空へと飛び立っていった。




