第222話
朝、ゆっくりと目を覚ました私はまだ微睡みの中にありながらも寝間着のまま静かにベッドを抜け出した。
カーペットが敷いてある床をそっと踏みしめながら窓辺へと歩み寄る。
カーテンを両手でゆっくりと左右に開き、窓を開けると、ひんやりとした朝の空気が肌へと触れてきた。
外側に面したこの部屋の窓の向こうには、どこまでも続く広々とした草原が朝露に濡れて柔らかな光を帯びて輝いており、視線を遠くへやればその草原の終わるあたりから深い緑をたたえた森が静かに横たわっているのが見える。
しばらくの間、私はその穏やかな風景をぼんやりと眺め冷たく澄んだ朝の空気を深く吸い込んでから、ようやく身支度を整えようと窓辺を離れた。
寝間着を脱ぎ畳んで、収納魔法から外着を取り出し手早く着替えを済ませる。
布の擦れる音と、身に着けた衣服の感触が、まだ眠っていた身体を少しずつ覚醒させていくような心地がする。
鏡の前で軽く髪を整え襟元や袖口をきちんと直してから、最後にもう一度だけ窓の外へ目をやり静かに部屋の扉を開けて廊下へと足を踏み出した。
廊下に出るとすでに数人の人影があり、それぞれが思い思いの歩調で歩いている。
足音が石造りの床に小さく反響し朝の静けさの中に規則的な音の連なりを生み出している。
すれ違う人々と互いに軽く会釈を交わし、「おはようございます」と短い挨拶を口にしながら歩いていく。
やがて食堂に着き扉の取っ手に手をかけてゆっくりと引き開ける。
扉の向こうからは、ほのかにパンの焼ける香ばしい匂いと温かなスープの湯気の匂いが混ざり合って漂ってきて、それまで静かだった空腹を急に意識させられる。
食堂の中へ一歩足を踏み入れるとすでに長机のあちこちに数人が腰を下ろして朝食を摂っており、食器の触れ合う軽やかな音や小さな話し声が穏やかに響いていた。
私は壁際に並べられた料理の置き場へと歩いていく。
「おはようございます!レーナさん!」
挨拶の声が聞こえた方を見ると、パイラが元気に朝食の準備をしていた。
「おはよう、朝から元気が良いわね」
「はい!元気が取り柄ですから!」
「ルルは居ないのね」
「ルルは今日は休みなので、まだ寝ていると思いますよ」
そう聞いて料理が置いてある奥の厨房を見ると、料理担当はそれなりの人数がいるようで交代で切り盛りしているのだと分かった。
「このトレイに皿を置いて料理を取っていって下さい」
「ありがとう」
パイラがそう言ってトレイを差し出してきたので受け取り、置いてある料理を取っていく。
パンとサラダと厚切りのベーコンを皿に乗せて空いている席に座る。
サラダのドレッシングはシンプルな塩と酢と植物性油を使った物で、パンは酵母菌を使った柔らかいパン。
ベーコンは塩のみを使ったシンプルな物。
どれも昔、この魔女の里に私が来た時に教えたものでシンプルながらも良い味だ。
「もっと色々な調味料があると良いのに」
ここから近い場所にある村や街もあまり食文化は進んでおらず調味料は基本塩、というところばかりである。
「パイラやルルはもっと美味しい物が作りたいってやる気はあるようだし、一度リオヴィシアに話してみようかしら?」
シンプルで美味しいが、もっと美味しい物が作れるのになぁ〜と、サラダを口にしながら思うのであった。




