第210話
しばらく進むと、ペンダントの示す光が強くなり、正面の木立がわずかに揺らいだように見える。
私は速度を落とし、ゆっくりとその場所へ近づくと、景色が薄い膜を隔てたようにぼやけ、次の瞬間、ぱっと視界が開けた。
結界の中は周りの森とは違い、広い草原が広がっており、その中央に巨大な館があった。
「相変わらず大きな建物ね」
城とは違い塔のような物は建っておらず、一番高い場所は三階で大きな木のある庭園を囲むように作られている。
私は外側の入口がある場所へと行き、箒から降りた。
「あら、料理の魔女じゃない、元気にしてた?」
と入口の方から声をかけられた。
「ええ、元気にしていたわよ。受付はここで良いの?というか私って気づくの早くない?」
「受付はここで良いわよ。あと、箒に乗ってくる魔女なんて料理の魔女ぐらいなんだから気づくわよ」
と言ってきた。
魔女会議に出るようになって色々な魔女に会ったが箒に乗っている魔女は居なかった。
その事を知った時、箒に乗るのをやめようかなとも思ったが『でも今まで箒に乗って空を飛んでいたのに、いまさら箒に乗らずに飛ぶのは負けたような気がする』という何に負けるのか分からない考えで継続して乗ると決めた。
その結果が、
箒に乗って飛んでいる魔女=料理の魔女
という認識になってしまった。
「じゃあ、ここにペンダントをかざしてね」
言われた通りペンダントをかざすと、かざした台座と隣にある本が淡く輝いた。
「オッケー、受付完了よ。はい、これが料理の魔女の部屋の鍵ね。夕食楽しみにしているわよ」
「ありがとう、楽しみにしててね」
小さく手を振ってから建物内へと入り、渡された部屋の鍵に魔力を流す。
するとペンダントと同様に光の線が廊下の奥へと向かっていった。
「便利よね、これ」
簡単そうに見えてペンダントのように対象に向かって真っ直ぐ光が出るのでは無く、廊下で光が曲がるようにするので建物自体にも細工をしないといけなく、なかなかの手間がかかっていると聞いた事がある。
他の場所ではこの魔道具を見た事が無いのを考えると、秘匿にしているのか、教えるのが面倒なのか……たぶん後者だろう。
光の先を目指して廊下を歩いていく。
廊下は広く大人数で歩いても大丈夫な幅があり、左右には定間隔で扉が付いている。
明かりは壁では無く天井に照明の魔道具が付いていて廊下を照らしていた。
「こんにちは」
たまにすれ違う人と挨拶を交わしながら歩くと階段が現れて光が二階へと伸びている。
基本的に一階は研究室などの作業をする場所が多く、寝泊まりする部屋は二階と三階になっている。
二階についても光が上の階に向かっているので、私の部屋は三階のようだ。
三階の廊下を歩いていると光が部屋の扉に向かって曲がっていた。
「なかなか遠かったわね」
まだまだ廊下は続いているので、一番角の部屋という訳ではないが長い廊下だったなと思い、部屋の鍵を開ける。
一つの村がすっぽり入るような広さなので、建物内に何か移動手段があれば便利なのになぁ、と思いながら部屋の中へと入っていった。




