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「お前、いい加減にしろよ」
今まで黙っていた公一が低い声で言い、笹川の腕を強く掴む。
「いくら昔馴染みでも、俺の家族にそんな態度を取るのは許さねぇぞ」
「ハッ!なにが家族だ。お前にとっちゃ、戸籍上はそうかもしれねェがな、俺には違うね。近藤は近藤だ。コイツは昔から、俺にとっては気に入らねェガキなんだよ!」
手を振り払うと、立ち尽くす深雪に手を伸ばし、胸ぐらを掴んだ。
「おう、近藤。見た目がそんなだからって調子に乗んなよ。俺ァ、テメェの事を女だと思った事なんか1度もねェからな」
「っ……」
すごむ笹川の顔を見つめる。
無意識に涙が浮かんだ。
昔なら、こんな風に喧嘩を売られれば、容赦なく買って殴りかかっていた。
だが今はそれができない。
初めて、笹川という男が近くにいることが怖いと思ったのだ。
涙を見た笹川は、僅かに眉を寄せる。そして小さく舌打ちをし、手を離した。
「チッ。テメェも公も、すっかり腑抜けちまいやがって。おい、公。タクシー代よこせよ」
公一は黙って手にしていた万札を差し出す。笹川はそれを受け取ると、「毎度」とニヤリと笑い、部屋から出て行った。
「おい、大丈夫か?どこか怪我してないか?」
慌てた様子で駆け寄り、深雪の顔をあちこち見る。
「大丈夫よ。怪我はしてない……してないけど……」
何故笹川がこの家を知っていたのか。
何故、結婚したことを知っていたのか。
それはすべて、公一が話したからだ。
縁を切ったと言っていたのに。
「どうして笹川とまだ付き合ってるの?結婚する時に言ったわよね?笹川とはもう二度と関わらないって。今までずっと嘘を吐いていたの?」
図星なのか、気まずそうな表情を浮かべて目を反らす。そして小さな声で「ごめん」と呟いた。
「結婚して暫くは連絡は取ってなかった。恭平から連絡はあったけど、付き合わないように気を付けてたんだ。だけど、最近ちょっと用事があって──」
「用?それって──」
言いかけ、はっとした。
笹川のフルネームは、笹川恭平。
つまり『K』だ。
以前公一が口論していたのも、深雪が誤って電話に出てしまったのも、毎週土曜日に会っていたのも、すべて笹川だったのだ。




