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「よぉ、お帰り」
公一はドアを開けたまま立ち尽くしている。
中に、誰かいるのだ。
聞きなれない声に、深雪も恐る恐る室内を見る。
ソファに座り、まるで自分のもののようにふんぞり返っている人物を見て、思わず呟いた。
「……笹川」
髪型や服装は違うが、顔立ちは昔のままだった。
何故笹川がここにいるのか。
思わず公一の服をつかみ、後ろに隠れる。
「お前、なんでここにいるんだよ。勝手に部屋に入りやがって……。ここには来るなって言ってあるだろ!?」
「はァ?ドタキャンしといて何だよその態度は。お前がワケわかんねぇ理由でブッチするから、わざわざ来てやったんだろうが?」
何の断りもなくタバコに火をつけると、煙を吐き出す。公一もそれを見て眉を寄せた。
「ここは俺の家だ。今すぐに出ていけ」
「嫌だね。まぁ、タクシー代でもよこすなら話は別だけど?」
公一は深い溜め息を吐くと、財布から数枚の万札を取り出して差し出す。
その自然な仕草から、日頃から金のやり取りがあるのだろうと思った。
深雪は思わず手を伸ばし、その手を掴む。
「やめて。こんな奴にお金なんか渡さないで!でなきゃ……」
「はぁ?何だテメェ」
邪魔されたのが気に入らなかったらしく、笹川は深雪を睨んだ。負けじと睨み返すと、何かに気付いたらしく、声を上げて笑う。
「確か、近藤と結婚したとか言ってたよな?こいつがあの近藤?アハハハ!」
「……」
笹川がその事を知っているとは思っていなかった。
バレているなら、もう遠慮はいらないだろう。
前に出て、笹川にメンチを切る。
「さっきも言ったけど、ここは私達の家なの。だから早く出ていって」
「なァにが私達の家だよ。つーかこれもなんだよ?」
「!?」
胸を鷲掴みにされ、ギョッとする。
唖然としていると、無遠慮に揉みしだきながら「へぇ」と呟いた。
「入れ乳かと思ってたけど生じゃん。もしかして豊胸か?」
「ふ、ふざけんじゃないわよっ!」
手を振り払い、思わず拳を振り上げる。だがそれを振り下ろす事ができず、ぐっと我慢する。
「威勢だけは相変わらずだなァ。公もよくまァ、こんな野郎と結婚なんてしたよ。夫婦っつーことはアレか?ナマでやったりしてんのか?」
気持ち悪ぃな、と下品な声を上げて笑う。
やはり笹川だけは昔から何も変わっていない。
初めて顔を合わせ、喧嘩を売られたとき。
公一がいなくなり、目の敵にされ、何かと喧嘩を売られたあの時から。
笹川と喧嘩をしようと思えばできる。しかし、この男に挑むということは、自分も何も変わっていないと認めてしまうことになる。
その為、殴りかかりたい気持ちを必死に抑える。




