10
「公一!」
名前を呼ぶと、公一と、隣でタバコを吸っていた大学生らしき青年が反応した。
道路を渡って駆け寄ると「深雪!?」と声を上げた。
「どうしたんだよ、一体」
「だって、起きたら姿がなかったから……」
泣きながら抱き付くと、公一は戸惑いながら背中を撫でる。
「コンビニに行ってくるって、メモ残しただろ?」
「そうだけど、でもっ……」
涙目で見上げると、唖然としている大学生の表情が見えた。公一もそれに気づいたらしく、慌ててタバコを消し「早く帰ろう」と肩を抱いて歩き出す。
「ごめんなさい。……目が覚めたら公一がいないから、出掛けてしまったんだと思って」
「だから、コンビニに買い物に来ただけだって。腹へったかなって思って……。何も、泣きながら探しに来ることないだろう?」
苦笑いを浮かべ、軽く頭を撫でる。
また、疑ってしまった。
しかも今度は知らない人に恥ずかしい所を見せてしまった。
いつもはそんな事はないのに、どうして『K』に関してはこんなにムキになってしまうのだろうか。
公一に、自分が知らない人間関係がある事に嫉妬しているのだろうか。
そんな事はないと思うのだが、それ以外思い付かない。
それほどまで、『K』に関しては存在に執着してしまう。
いっそ公一を問い詰め、誰なのか教えてもらおうか。
そうすればすっきりするのに。
マンションに戻り、無言でエレベーターに乗り込むと、公一は心配そうに顔を覗き込んだ。
「もう、具合は大丈夫なのか?」
「え、えぇ。心配させてごめんなさい」
「昨日から、なんか変だよ」
「そうね。……帰ったら聞きたいことがあるの」
公一は黙ってエレベーターのボタンとロックナンバーを押す。
無言で乗るエレベーターは、いつもより長く感じた。
エレベーターを降りると、公一はぽつりと言う。
「取り敢えず、話は飯食ってからにしよう。腹減っただろ?」
「うん。あの、でも大した事じゃないのよ」
「深雪の顔を見てると、そうは思えないよ。さっきの様子も変だったし──あれ。鍵開いてるけど」
このマンションの部屋のドアはオートロックではない。先程部屋を出るときに、うっかり鍵をかけるのを忘れていた事を思い出した。
「ごめんなさい、鍵持たずに出てきちゃって」
「危ないな。俺に会わなかったら閉め出される所だったぞ」
「うん……」
1度は誤魔化されたのだ。
果たしてちゃんと話してくれるだろうか。
『K』という登録を見たと伝えても、喧嘩にならないだろうか。
それが心配でならない。
靴を脱いで部屋に上がり、リビングへ向かう。
ドアを開けると同時に中からあり得ない言葉が聞こえた。




