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風呂から上がり食事を終えた深雪は、室内でスマホを見ていた。
他の3人はもう1回温泉に入るため大浴場に行っており、部屋には深雪1人だ。
「まるで修学旅行みたい。こんな感じなのね」
室内には4つの布団が敷いてある。
夕食で部屋を空けている時に敷いてくれたらしい。
「公一、ちゃんとご飯食べてるかしら」
今までスマホは見ていなかったが、連絡が来ていないのは珍しい。
取り敢えずちゃんと楽しめている事だけは伝えようと、メッセージを送る。
「川の音がする……。せっかくだし散歩して来ようかな」
優達も鍵は持っている筈なので外出しても問題ないだろう。
浴衣に上着を羽織ると、ドアが開いて瑞穂が戻って来た。
「あれー。深雪ちゃん、どこか行くの?」
「はい。ちょっと散歩しようかと思って。優さん達はどうしたんですか?」
てっきり3人一緒に戻って来るとばかり思っていた為、瑞穂の後から誰も入ってこない事に疑問を抱いた。
「優さん達はサウナ。痩せるんだーってずっと入ってるから。私、ちょっとサウナは苦手で」
バスタオルを干すと、ちらりとテーブルを見る。
「なんかメッセージが来てるよ」
「あ、公一だわ」
そこには今帰る途中だという事と、楽しんでと気づかいの言葉が書かれていた。
「社長から?」
「うん。楽しんできてって。1人で大丈夫か、ちょっと心配していたんです」
「あはは。社長なら大丈夫じゃない?そういえば深雪ちゃん、明日誕生日なんだよね」
「どうして知ってるんですか?」
会社の人に誕生日を告げたことはないはずだ。
瑞穂は失言だったのか、小さく舌を出した。
「うっかり言っちゃった!実はね、社長に聞いたの」
「公一から?」
「うん。深雪ちゃんの誕生日があって、プレゼントどうしようかって相談もされたの。実はね、今回誘ったのも社長にお願いされてたの」
「どういうことですか?」
公一が瑞穂に、旅行に誘うようお願いしたのだろうか。
もしそうなら、せっかくの同僚達との旅行を邪魔したようで申し訳ない。
「深雪ちゃんを誘ったらきっと喜んでくれるからって。私も会いたかったし。最初は飲みに誘うつもりだったんだけど、せっかく久しぶりに会うなら旅行が良いかなぁって」
「そうだったんですか」
特にほしいものはなかった為公一に任せたのだが、どうやら困らせてしまったらしい。
たがこれがプレゼントなら、とても嬉しい贈り物だ。
「社長って、家では本当に良い旦那さんって感じだよね。会社でも、あともうちょっとだけ優しかったらなぁ」
「そうですね。でも公一も公一なりに考えているみたいなんです。まだ社長なんて年じゃないし、親の七光りも気にしているみたいで。社長ぽくするには、怖いキャラじゃなきゃいけないって思っているみたい」
素のままでいけばいいのにと助言した事はあるが、それでは部下達が信用してくれないしついて来ないのではないかと悩んでいた。
そして色々試行錯誤を繰り返し、今のキャラに落ち着いたのだ。
「まぁ、確かに26歳で社長なんて、他の会社にナメられちゃうかもしれないもんね。だけどあれが演技なら、すごく気疲れしちゃいそうだねぇ」
「そうですね。でもそれは最初だけで、長くやっていると慣れていくものですよ」
現に自分もそうだ。
初めは女らしく見えるように、女優などを参考にして言葉遣いや話し方を演じていた。
だが今はこのスタイルが落ち着く。
「慣れかぁ。深雪ちゃんも今みたいに女の子らしくなるには苦労したの?」
「そう、ですね。特に一人称を変えるのが大変でした。今でも頭に血が上ると、ついつい昔の癖が」
「あぁ……。あんな感じね」
恐らく瑞穂は、会社で暴れまわった時の事を思い出しているのだろう。
「確かにあれは衝撃的だった。いつもとのギャップに、ちょっとドキドキしちゃったし」
「もう喧嘩をするつもりはなかったんですけど……。あの時はつい。もう、忘れてください」
いくら相手がチンピラだとはいえ、もう少しセーブすれば良かった。今でもたまに後悔する事がある。
「でも深雪ちゃん、格好良かったよ!男2人に全く怯まないで立ち向かって!深雪ちゃんが男だったら付き合いたいもんっ」
「ははは……」
誉め言葉なのだろうが、どうリアクションすれば良いかわからなかった。
その為、曖昧な笑いを返す。
瑞穂は寝具の上に寝転がると、深雪を見上げながら問う。
「そういえば、前にお邪魔した時に見たんだけど……。サイドボードに飾ってあった写真の男の子は誰?社長の弟さんか何か?」
「え。どの写真でしょうか」
恐らく寝室のサイドボードの事を言っているのだろう。
あそこにはたくさんの写真がある為、どれの事かわからない。
「ほら、金髪で丸坊主の男の子」
「えっ!?そんな写真ありました!?」
あそこの写真は公一が定期的に入れ換えている。普段注視する事はない為、どんな写真があるかは把握してなかった。
「うん……。もしかしたら見ちゃいけなかったかな。ごめんね、つい目についちゃって──」
「いえ……。あの写真はその、多分私の昔の写真だと思います」
まさか今の友人に昔の姿を見られる事になるなんて。
赤くなりながら呟くと、瑞穂は「えっ!?」と声を上げて起き上がった。
「あれ、深雪ちゃんなの?全然違ったよ!?」
「昔はあんな感じだったんです。金髪で丸坊主で……服も男物ばかりで。恥ずかしい」
「うそー!すごい別人だったよ。きっと昔の深雪ちゃんを知ってる人でも、きっと気づかないよねぇ」
「そうですね。あまり、気づく人はいないかもしれません」
現に佐伯や香ヶ崎もそうだった。それに新道も、彼の結婚式に参列した時に久しぶりに会ったのだが、ずっと気付いていなかったらしい。
「そっかー。深雪ちゃんって知れば知る程楽しい人だよね。初めて会った時から仲良くなれそうだなーって思ってたけど。こんな風に仕事を辞めても一緒に遊べて嬉しいな。これからも遊びに行こうね」
「瑞穂さん……」
嬉しくて、思わず目が潤んでしまう。
「私の方こそ……。たくさん隠し事をしていたのに、仲良くしてもらえて嬉しいです。私、女の子の友達って今までいなかったから──。瑞穂さんが初めての友達なんです!」
「え?そうなの?やだーもう。じゃあ深雪ちゃんの事大事にしなきゃ!」
ぎゅっと抱き締められ、思わず体が強張る。
こんな風に同性に抱き締められるのは初めての経験だ。
ある意味初めて公一に抱き締められた時よりドキドキしてしまう。
恐る恐る背中に手を回し、目を閉じる。
「ただいまーって何してんの?」
風呂から戻って来た優とさゆりが、2人を見て笑う。
「おかえりなさーい。友情のハグをしてるんですよー。深雪ちゃんたら乙女で可愛いんですもん」
「なんだそれ?私達がいない間、どんな進展があったのさ」
「彼氏がいないからって、人妻に手を出しちゃだめよ?瑞穂」
クスクスと笑い、濡れたタオルをかける。
瑞穂の温もりを感じながら、女の子の体はとても柔らかくて華奢なんだなと改めて感じた。




