10
仕事を終えた公一は、待ち合わせの店に車を走らせていた。
恭平に指定されたのは、歌舞伎町にある飲み屋だった。
コインパーキングに車を止めると、歩いて店へ向かう。
予約しているらしく、名前を告げると席へと案内された。
そこには既に佐々達が揃っており、こちらを見ると嬉しそうに立ち上がった。
「公さん!お久しぶりです!」
「あぁ、久しぶり。元気だったか?」
席に座ると、数年ぶりに会う後輩2人の顔をまじまじと見る。
中学の頃に比べると、顔付きも凛々しくなっているように感じた。
「会えて本当に嬉しいです!つーか先輩のスーツヤバイっすね。めっちゃ高いやつじゃないですか?」
「どうだったかな。あまり値段は覚えてないよ」
本当はイタリア製のオーダーメイドだが、自慢をするようで言葉を濁す。
「お前達は今、何の仕事をしてるんだ?」
「俺は普通に、バーのボーイです。安藤は建築関係で」
「俺等高校中退してるんであまり職がなくて。まぁでもそれなりにやってますよ」
「そうか。ちゃんと仕事をしているみたいで安心したよ」
昔の荒れ具合から、てっきり裏の仕事をしていると思っていた為、ほっとした。
するとそこへ、恭平が姿を現した。
「よォ、なんか盛り上がってんな。なんだ?まだ始めてなかったのか?」
「遅いっすよ恭平先輩。先輩がいないのに始められないですよ」
佐々は人懐っこい笑顔を浮かべる。
「悪ぃ悪ぃ。ちょっくら野暮用でさ。取り敢えず乾杯しようぜ。おい、ビール4つ」
「おい、俺は酒は──」
車で来ているため飲めない。
そう言おうと思ったがやめた。
せっかくの飲み会の席なのだ。
1人だけウーロン茶を飲んで場をしらけさせるのもあれだろう。
車は代行を呼べば良いかと考え直す。
恭平はオーダーをすると、公一の隣に座り、サングラスを外した。
「久しぶりだな。お前が来てくれて嬉しいよ」
「あぁ……。俺もまぁ、お前にはちゃんと礼を言いたかったからさ」
いつもと変わらない恭平の様子に安堵する。
ビールが運ばれてくると、軽く乾杯をして互いの近況報告や昔話に花を咲かせた。
「で、あん時の三中の奴等、クソダサかったよな。泣き入れんなら最初からケンカ売ってくんじゃねェっつーの」
「恭平先輩、マジで強かったですもんね。今は何してるんすか?」
「フツーにヤミ金だよ。そろそろ組に入れって声かけられてっけど、ぶっちゃけダリィからさ」
「へぇ。やっぱヤミ金って儲かるんですか?」
「まァノルマは厳しいけど、貸し付けと回収さえ上手くいきゃなんとかな」
「へぇ。すごいっすね」
こんな気持ちは何年ぶりだろうか。
話を聞きながら、公一はしみじみ感じた。
高校を卒業し、18歳で海外の大学へ進学した。
父親から支社を任せてもらうため、必死に経済学や経営学、法律を学んだ。
そして日本に戻ってからは、結果を出すためにがむしゃらに働いた。
飲みの席は殆どが接待だ。
こんな風に気の置けない友人達と酒を交わすのは久々なのだ。
「公さんはたまに、恭平先輩と飲んだりしてたんですか?」
「2人供、すげー仲良かったですよね」
「あぁ、いや……」
絶縁していたとは言えず、言葉を濁す。しかし恭平は笑顔で公一の肩を叩いた。
「おう。互いに忙しかったから、比較的最近だけどな。なァ公」
「あ、あぁ」
罪悪感を抱いた。
深雪に頼まれたからとはいえ、一方的に恭平を切ってしまった。
それなのに恭平は、公一が頼ったときも嫌な顔ひとつせずに協力してくれた。
そして今も──。
「久しぶりだな。お前が来てくれて嬉しいよ」
「あぁ……。俺もまぁ、お前にはちゃんと礼を言いたかったからさ」
いつもと変わらない恭平の様子に安堵する。
ビールが運ばれてくると、軽く乾杯をして互いの近況報告や昔話に花を咲かせた。
「で、あん時の三中の奴等、クソダサかったよな。泣き入れんなら最初からケンカ売ってくんじゃねェっつーの」
「恭平先輩、マジで強かったですもんね。今は何してるんすか?」
「フツーにヤミ金だよ。そろそろ組に入れって声かけられてっけど、ぶっちゃけダリィからさ」
「へぇ。やっぱヤミ金って儲かるんですか?」
「まァノルマは厳しいけど、貸し付けと回収さえ上手くいきゃなんとかな」
「へぇ。すごいっすね」
こんな気持ちは何年ぶりだろうか。
話を聞きながら、公一はしみじみ感じた。
高校を卒業し、18歳で海外の大学へ進学した。
父親から支社を任せてもらうため、必死に経済学や経営学、法律を学んだ。
そして日本に戻ってからは、結果を出すためにがむしゃらに働いた。
飲みの席は殆どが接待だ。
こんな風に気の置けない友人達と酒を交わすのは久々なのだ。
「公さんはたまに、恭平先輩と飲んだりしてたんですか?」
「2人供、すげー仲良かったですよね」
「あぁ、いや……」
絶縁していたとは言えず、言葉を濁す。しかし恭平は笑顔で公一の肩を叩いた。
「おう。互いに忙しかったから、比較的最近だけどな。なァ公」
「あ、あぁ」
罪悪感を抱いた。
深雪に頼まれたからとはいえ、一方的に恭平を切ってしまった。
それなのに恭平は、公一が頼ったときも嫌な顔ひとつせずに協力してくれた。
そして今も──。
「つーか公さん、仕事は何してるんですか?確かアメリカとかに行ってたんですよね?めっちゃ良い会社に就職できたんじゃないですか」
「為替とか証券的な?」
「まぁ、そんな所かな」
なんとなく、社長をしているということは言わない方が良い様な気がした。恭平もそれはわかっているらしく、特に何も言わない。
「さすが!あ、そういやアイツとはどうなんですか?まだ連絡とってます?」
「誰だ?」
「近藤ですよ!近藤深雪!俺等の後輩の」
その言葉を聞いた瞬間、恭平の表情が変わった。
横目で公一を睨むと、ぽつりと呟く。
「お前、まさかまだあの野郎と付き合いあるのか?」
恭平には既婚者だということは話してある。だが相手が誰であるかは伝えていない。
そして深雪も、そのことは仲間内には伝えていないはずだ。
「あぁ、懐かしいな。アイツ、今頃どうしてんだろうな」
空笑いし、タバコに火をつける。
「噂ではヤクザの女になったとかって聞きましたよ。一応女ですし、あれだけの肝っ玉ならヤクザ世界でもやってけそうですよね」
「俺は場末の風俗に落ちたって聞いたけどな」
「……」
いくら真実を知らないとはいえ、酷い噂が広まっているものだ。
近藤がそんな事をするはずがないと咎めようとしたが、意外にも恭平がそれを否定した。
「アイツはヤクザの女にも風俗落ちもしてねェよ」
「お前、アイツがどこにいるのか知ってるのか?」
思わずドキリとする。しかし恭平は酒を飲みながら「知らねェ」と答えた。
「今どこにいるかは、オレが知りたいくらいだよ。これでもヤミ金世界で生きてんだ。ヤクザモンや風俗の情報くらい入ってくる。アイツも今なら──佐々達の後輩だから23か?ここいらの風俗にはそんな女はいねェ。最近のヤクザはキャバ嬢やらホステスにしか手ェださないからな。少なくとも関東の風俗にはいねェと思うわ」
「まぁ、あんなナリじゃ水商売なんてできませんよね。ケンカっ早い奴だっからな。どっかでの垂れ死んだかもしれないっすね」
「そうだな。それか──案外普通の主婦になってたりするかもな。なァ公」
こちらを見ると、恭平はニヤリと笑う。
「前に情報やったチンピラ共は上手く片付けたのか?一応、心配してたんだぜ」
「あ、あぁ……。なんとかな」
公一が恭平を頼った理由。それは佐伯の店で会ったチンピラの情報を得る為だった。
佐伯は中立を守ると決めているらしく、あの後いくら追及しても奴等の素性は明かさなかった。
遅かれ早かれ何か起こると予想していた公一は、恭平に情報を求めたのだ。
「お前のお陰で助かったよ。大事になる前に食い止められた」
「そうか。ま、それなら良いけどよ。お前のオンナも大丈夫だったのか?」
「えっ!何の話ですか?公さんのオンナの話ですか?」
佐々達は興味津々な表情で食い付いてきた。しかたなく、例の話をかいつまんで語った。
昔馴染みの店に行った時に、2人のチンピラに絡まれた事。
そのせいで自分のオンナの職場がバレ、脅しをかけられたこと。
恭平に貰った情報で奴等の素性を特定し、事なきを得たこと。
「へぇ。半グレ2人をサツに付き出したんですか。やっぱ先輩くらいになると、あっちこちに敵がいるんですね。てか先輩の彼女ってどんな女なんですか?聞いた感じだと昼職みたいですけど」
「どんなって言われてもな。普通の女だよ」
「付き合って長いんですか?」
「まぁ、長いと言うか」
どう答えようか迷っていると、恭平は「鈍い奴だなァ」とぼやき、公一の左手をつかんで佐々達に付きだした。
左手の薬指にある指輪を見て、佐々は声を上げる。
「それってまさか結婚指輪ですか!?ペアリング的なやつじゃなくて」
「ペアリングなら右手につけんだろ。コイツはなァ、もう結婚してんだとよ。確か、何年目だ?」
「3年かな」
「えぇ!3年目っ!?」
「いちいち、大きな声出すなよ」
オーバーすぎるリアクションに、だんだんと気恥ずかしくなってきた。
今までは独身だと偽ってきたが、既婚者の方が世間体的に良いと知り、敢えて隠すことは止めた。
その為指輪もつけるようにしていたのだが、それがアダとなってしまったようだ。
「公さん、まだ26っすよね?なんでそんな早くに結婚しちゃったんですか?」
「嫁さんの写真とかないんですか?見てみたいっす!」
「そんなん持ち歩いてねーよ」
本当はカメラロールにたくさん収められているが、もしも顔を見て気づかれたら厄介だ。
「オレにも見せねェんだよなァ。どんな美人と結婚したんだよ?今度紹介しろよな」
「あぁ、ま……そのうちな」
恥ずかしさを誤魔化す為に、消したばかりのタバコに火をつけた。
「よっしゃ!2次会行こうぜ、2次会!」
「今日は朝まで飲み明かすぞ!」
居酒屋を出た4人は、すっかり酔っ払い、肩を組んで繁華街を歩いていた。
「やっぱキャバクラだよなァ。オレの行きつけの店にしようぜ。今日は奢ってやるよ」
「恭平先輩、ゴチになりまーすっ」
佐々達は声を上げて笑い、フラフラと恭平について行く。
公一も普段はラウンジやクラブには行き慣れているが、キャバクラはあまり経験がない。
どうしようかと思ったが、風俗に連れていかれるよりはマシだろうと考え直し、ついていった。




