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深雪は無事瑞穂達と合流し、熱海行きの電車に乗っていた。


旅行のメンバーは瑞穂・さゆり・優の4人だ。


華江にも声をかけたそうだが、その日は予定があるからと断られてしまったらしい。


「本当に久しぶりだね。元気だった?今、何か仕事はしてるの?」


仕事を辞めたあと、瑞穂とは遊んだことがあるが、優やさゆりとは初めて会う。


「はい。お2人も代わり無さそうで。仕事はまだ何も。したいと思ってはいるんですけど」


呟き、苦笑いを浮かべる。


「じゃあ専業主婦に逆戻りなのね。でも深雪ちゃんの旦那様って稼ぎが良いんでしょ?働かなくても暮らせるなら、その方が良いと思うわ」


将来は専業主婦希望のさゆりが羨ましそうに言う。深雪は首をかしげたが、敢えて指摘せずに頷いた。


「えぇ、まぁ……。稼ぎのことはよくわかりませんが、特に生活に困っている事もありませんね。でもずっと家にいるのも退屈で。だから今日誘っていただけて嬉しかったんです」


こんな風に座席を向かい合わせにして電車に揺られるなんて初めての経験だ。


行き先は温泉でOL4人組(正しくは3人だが)。まるでサスペンスドラマのようでワクワクしてしまう。


「熱海って、確かすごく有名な温泉地ですよね?私、行った事がないから楽しみなんです」


「熱海に行った事ないの?深雪ちゃんなら日本国内ならどこでも行った事があるって思ってたわ」


だってお金持ちだし……と瑞穂が呟く。


「いえ、そんな事。京都や奈良も、去年初めて行ったんですよ」


「そうなの?それは意外だね。実家はどこ?」


「私は東京で、旦那は神奈川だから。関東から出ることはあまりなくて。海外になら、何度か行った事はありますけど」


「国外に行く事の方が多いのねぇ。私もヨーロッパに古城巡りに行きたいんだけど、なかなか都合がね」


今の給料じゃ難しいわ、とさゆりがぼやく。


「確かにね。まぁ、同年代に比べれば貰ってる方だけどさ。貯金もしなきゃならないし。そろそろキャリアアップも考えなきゃな」


温泉雑誌を見ながら、優が答える。


「あの、皆さんって大卒なんですか?」


恐る恐る問うと、3人は声をあげて笑った。


「どうしたの急に。勿論大卒よ。うちの会社は確かに実力主義だけど、特定の課は大卒じゃなきゃ入れないのよ。海外事業部とか秘書課はその類いかしら」


「そうなんですね」


だとすると、自分は色々な意味で場違いだったということだ。


公一が手を回してくれなければ、絶対に配属されなかっただろう。


「だけど、深雪ちゃんがいなくなって寂しいよ。ほら、深雪ちゃんは華があったからさ。だから社長も花子なんてアダ名つけたわけだし」


「花子って、そういう意味だったんですか?」


てっきり何も思い浮かばず、取り敢えず適当につけたものだとばかり思っていた。理由があったとは意外だ。


「社長のアダ名はちゃんと意味があるのよ。ま、センスはどうかと思うけど……。そういえば新人が入ってきたんだけど、その子は近藤 莉桜菜ちゃんていう、大卒の若い子なの。アダ名はさくらよ」


「さくらさん?それにはどんな意味が?」


優や華江がつけられた名前に比べると、あまりアダ名感はない。


陽子や艶子の様に、普通の名前のようだ。


「さくらちゃんはなんて言うか、ふわふわした可愛らしい感じの子なの。ピンクが似合うかな。深雪ちゃんとタイプが似てるかもね」


「私と、ですか」


深雪のこのキャラは、ある意味作られたものだ。今ではもう板についているが、素かと聞かれればそうとは言えない。


「まぁ、どじっ子な妹分って感じかな。初日から社長にガッツリ叱られて泣いてたけど、頑張ってるよ」


すぐ近くで働いていたのに、会社では極力関わらない様にしていたため、公一がどんな社長なのかはイマイチわかっていなかった。


その為、彼女達の話は興味深い。


「社長はしょっちゅう、皆さんを泣かせるんですか?」


「そうねぇ。ある意味洗礼みたいな感じかしら?新人の頃は毎日泣かされっぱなし。優くらいよね。どんなに叱られても泣かなかったのって」


「まぁね。運動部だったし、怒鳴られ慣れてるから」


「さすがは長女よねぇ。瑞穂なんか未だに呼び出されて怒鳴られてるわよね」


「そうですねぇ。ま、もう慣れましたけど!」


「とか言って、呼び出されたらこの世の終わりみたいな顔してるじゃない」


「それはみんな同じじゃないですかー!」


知らなかった。


公一が会社ではそんなに鬼社長だったなんて。


確かにミスをして怒鳴り付けられることはあったが、社長室に呼び出されることはなかった。


会社では他人として平等に扱うと言われていたが、もしかすると公一なりに手加減をしてくれていたのかもしれない。


改めて、自分の環境が特別に作られていたものだと知り、恥ずかしくなった。


「まぁ、せっかくのリフレッシュなんで仕事の話はこれで止めましょ!それより見てくださいよこれ。岩盤浴と塩サウナとエステのオプションがあるんですよ。せっかくだしこれもやりましょうー」


瑞穂が雑誌を広げ、楽しそうに言う。


2人は恐らく、深雪と公一の事を知らないか、忘れているのだろう。


最終日、深雪が伝えたのは公一の名前だけだ。


もしかすると瑞穂以外は、新道が旦那だと思っているのかもしれない。


その為瑞穂は、敢えて話を反らしてくれたのだろう。


「岩盤浴とエステはわかるけど、塩サウナってなんだ?」


「サウナの真ん中に塩があって、体に刷り込むみたいね。スクラブみたいなものかしら」


「お肌がつるつるになりますよ。深雪ちゃんもやってみたいよね」


「はい、是非」


4人で雑誌を覗き込み、到着する間はずっと、宿についたら何をしようかという話ではしゃいでいた。

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