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翌日。
出社すると同時に、公一はまた瑞穂を呼び出した。
周りの同僚達は、また何かしでかしたのかと目を丸くしている。
そんな顔をされるほど、自分は部下を叱責しまくっているだろうか。
何となく釈然としないが、瑞穂を連れて社長室に入る。
昨日の今日の為、瑞穂本人はそこまで構えてはいない様子だった。
「あの、今日は叱責でしょうか。それとも例の相談でしょうか」
「後者だ」
答えると、ほっと安堵の息を吐いたのがわかった。
「俺は死刑執行人か何かか?この部屋は死刑執行部屋か?」
「死刑──は言い過ぎですが、近しいですね」
「はぁ。俺だって好きで怒っているわけじゃないんだぞ」
後者の相談の時は公一に戻ると決めた為、溜め息を吐きながら椅子に座る。
「プレゼントのリクエスト、聞けましたか?」
「まぁね。実は頼みがあるんだ」
「一緒に買い物には行けませんからね!?」
相変わらず、瑞穂は頑なに断る。勿論頼みたいのはそんな事ではないのだが。
「それはもう、わかったって。頼みたいのは、深雪の事なんだ」
「え?」
「来週の日曜が誕生日なんだけど、深雪をまた誘って上げてくれないか?アイツ、君たちが唯一の友達なんだ。昨日も本当は行きたがっていたけど、タイミングが悪くてね。別に家庭に縛り付けているつもりはないんだが、結果的にそうなってるみたいでさ。金は経費──いや、俺が払うから、遊びに誘ってほしい」
ついでに深雪が欲しがるものも買ってもらいたかったが、さすがにそれは図々しいだろう。
「それなら喜んで!私も深雪ちゃんには会いたいと思ってましたから。でも、良いんですか?」
「なにがだ?」
「だってせっかくの誕生日ですし。高いホテルで夜景を見ながら美味しいディナーを食べて、指輪をプレゼントみたいなことをしないのかなって」
まるでドラマのワンシーンの様だ。どうやら瑞穂もそんなシチュエーションに憧れているらしい。
「それはもうプロポーズの時にした」
「えっ、そうなんですか?社長って意外とロマンチックなんですね」
「おい」
からかわれているのだと気付き、軽く睨む。瑞穂はハッとし「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
「とにかく、深雪の誕生日だから、深雪が楽しめればそれで良いんだ。誕生日は来週の日曜日なんだが、予定がなければ──」
そう言いながら、ふと考える。
社長命令である事は否めない為、これは休日出勤扱いにすべきだろうか。
それとも、友人として誘ってほしいと頼んでいる為、それはやりすぎだろうか。
「日曜日ですね。予定もありませんし大丈夫ですよ。せっかくなんで、他の人にも声をかけてみます」
「あぁ、ありがとう。でも、予定があるなら無理にとは言わないから。なんなら休日出勤手当てもつけるよ」
すると瑞穂は眉を寄せ、詰め寄ってきた。
「社長、失礼を承知で言います。バカなこと言わないでください。私は友達として深雪ちゃんを誘うんですよ?社長も旦那さんとしてお願いしてるんですよね?友達と遊びに行くのに、手当てなんかいるわけないじゃないですか!」
「そ、そうか」
気を使ったつもりだったが、どうやら怒らせてしまったらしい。
なんでも業務の一環として考えてしまう悪い癖が出てしまったなと反省する。
「じゃあ、深雪の事を頼むよ。これは取り敢えず渡しておく」
鞄から封筒を出し、瑞穂に差し出す。
「なんですか?」
「深雪の分の実費。どこで何をするのかわからないけど、足りなかったら後から言ってくれ」
「……」
瑞穂は封筒を受けとると、その場で中を見た。そしてギョッとしたような表情を浮かべた。
「いくら入ってるんですか?」
「よくわからないから50万くらいだけど」
「50万!?一体どこに行くと思ってるんですか!こんな大金受け取れません!お返しします」
封筒を突き返され、眉を寄せる。
「それじゃ困るよ。深雪の分は俺が出したいし」
「だからってこんな大金を渡されても困りますよ。それなら深雪ちゃんに直接渡せば良いじゃないですか。お小遣いだとか言って」
「あぁ、そっか」
誕生日なのだから、深雪には一切財布を出させないように配慮したつもりだった。だがその役割まで瑞穂に押し付けるのは筋違いだと気付いたのだ。
「……悪い。なんか俺、色々滑ってる感じだったな」
「滑ってるっていうか、ちょっとずれてますよ。とにかく、日曜日の事は任せてください。私はあくまでも私の考えで深雪ちゃんを誘うだけですからね。社長のお願いは一切関係ないって考えておいてください」
「あぁ、わかった」
普段から、秘書課の中でも明るく活発的だとは思っていた。その為『陽子』と名付けたのだが、この気の強さはある意味深雪に似ている。だからこそ仲が良いのだろうと、改めて納得した。




